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タイトルしろニキなのに純粋なしろニキなくてすみません😭😭😭取り合いが大好きなんです切なくて🫶
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最初は、そんな大したことじゃないと思ってた。
ボビーは昔から人当たりがいいし、優しいし、距離も近い。
だから女の人に話しかけられることが多いのも、まぁ、仕方ないって思ってた。
「ボビー、ほんとにモテるね」
軽く笑って言ったこともある。
そのときもボビーは困ったように笑って、
「いや、ちゃうねんって」
って言ってた。
でも、
⸻
ある日、撮影終わり。
スタジオの外で、ボビーが知らない女の人に腕を掴まれてた。
「ねぇ、連絡先くらいいいでしょ?」
「いや、ちょっと……」
完全に拒否してるわけじゃない。
でも、振りほどくわけでもない。
その“曖昧さ”が、胸に刺さる。
俺は少し離れたところから、それを見てた。
(……あれ、なんでこんな嫌なんだろ)
⸻
帰り道。
「ニキ、今日の撮影どうやった?」
いつも通り話しかけてくる声。
でも、さっきの光景が頭から離れない。
「……別に」
「なんや、その反応」
「……ボビーさ」
足を止める。
「ちゃんと断れないの?」
ボビーの表情が一瞬だけ固まる。
「……断っとるやろ」
「ちゃんと、って言ってる」
少しだけ強い口調になる。
「期待持たせるようなことしてるじゃん」
沈黙。
夕方の風だけが流れる。
「……お前、俺のこと信用してへんの?」
低い声。
「そういうことじゃなくて」
「じゃあなんやねん」
その言い方に、少しだけ胸が痛む。
でも、それ以上に苦しくて。
「……見ててしんどいんよ」
正直に言った。
ボビーは何も言わない。
「……ちょっと、距離置こ」
自分でもびっくりするくらい、あっさり出た言葉。
「……は?」
「頭整理したい」
ボビーの目が揺れる。
でも俺は、それ以上見れなくて。
「……ごめん」
そう言って、背を向けた。
⸻
気づいたら、新幹線に乗ってた。
行き先は、広島。
シードのところ。
⸻
「……急すぎじゃろ、お前」
居酒屋の個室。
テーブルの上には、いくつかの料理と酒。
シードは呆れたように笑いながら、グラスを持つ。
「まぁ……色々あって」
俺もグラスを持って、軽くぶつける。
カラン、と乾いた音。
最初は、他愛もない話だった。
撮影のこと、最近の動画のこと、昔の話。
でも酒が進むにつれて、だんだん口が軽くなる。
「……で、結局どうしたん」
シードが少し真面目な声で聞く。
俺は少し黙ってから、口を開く。
「……ボビーと、ちょっと」
「喧嘩か?」
「……うん、まぁ」
苦笑いしかできなかった。
全部話した。
女の人のこと。
ちゃんと拒否しきれないこと。
見ててしんどかったこと。
シードは黙って聞いてた。
途中で一回も茶化さず、ちゃんと。
「……ほんまに、好きなんじゃな」
ぽつりと、そう言われる。
「……え?」
「そんだけ気になるんは、そういうことじゃろ」
言葉に詰まる。
自分でも、わかってなかった部分を突かれた感じ。
「……でも、しんどいんよ」
正直に言う。
「わかっとる」
シードは少しだけ視線を落とす。
「じゃけぇ」
ゆっくり顔を上げる。
まっすぐ、俺を見る。
「俺にすればええ」
一瞬、意味がわからなかった。
「……は?」
そのまま距離が詰まる。
「俺なら、お前そんな思いさせん」
低い声。
真剣な目。
逃げられない距離。
「……ちょ、シード」
言い終わる前に、唇が触れた。
ほんの一瞬。
でも、確かに触れた。
頭が真っ白になる。
「……なに、してんの」
「本気じゃけぇ」
冗談じゃない声。
いつもの軽さが、一切ない。
心臓がうるさい。
さっきまでとは違う意味で。
ドクドク鳴ってる。
「……やめてよ、そういうの」
笑おうとするけど、うまくいかない。
「やめん」
即答。
「俺、ずっとお前が好きじゃけぇ」
その言葉が、まっすぐ刺さる。
逃げ場がない。
でも――
嫌じゃない。
「……なんで今言うんよ」
「今しかないじゃろ」
静かな声。
「お前が弱っとるときに、他に行かれるくらいなら」
少しだけ笑う。
「俺がもらう」
また心臓が跳ねる。
さっきのキスの感触が、残ってる。
「……ほんと、ずるいわ」
小さく呟く。
シードは何も言わず、ただ見てくる。
⸻
東京。
同じ時間。
しろせんせーは、部屋で一人。
スマホを見つめる。
既読もつかない画面。
「……なんやろ」
胸の奥がざわつく。
理由はわからない。
でも、嫌な予感だけが残る。
⸻
個室の中。
俺はまだ、シードの目を見れずにいる。
「……帰るか?」
「……いや、もうちょいいたい」
そう答えた自分に、少し驚く。
頭の中はぐちゃぐちゃなのに。
心だけが、妙に落ち着いてる。
さっきのキスのせいで。
シードの言葉のせいで。
(……俺、どうすればいいんやろ)
答えは出ない。
でも確実に――
何かが、変わり始めてる。
ーーーーーーーー
個室の中、しばらく何も話せなかった。
さっきのキス。
あれが、頭から離れない。
「……飲まんの?」
シードがいつも通りの声で言う。
「……飲む」
グラスを持つ手が、少しだけ震えてるのがわかる。
(なんでこんなドキドキしてんの)
ボビーのときとは違う。
いや、違うっていうか――
比べること自体が変なのに、勝手に比べてしまう。
「……さっきの」
思わず口に出る。
シードは普通に料理をつまみながら、ちらっとこっちを見る。
「キスか?」
さらっと言うな。
「……そう、それ」
「嫌じゃった?」
その聞き方が、ずるい。
「……嫌では、ないけど」
正直に言った瞬間、自分でびっくりする。
シードの手が止まる。
「……ほう」
少しだけ、口元が緩む。
「でも、なんか……わからん」
「何が?」
「全部」
ため息みたいに言う。
ボビーのことも、シードのことも、今の自分の気持ちも。
シードは少しだけ黙ってから、グラスを置く。
「無理にわからんでええ」
低くて落ち着いた声。
「考えすぎると、余計こんがらがるじゃろ」
そのまま、自然に距離が少し近くなる。
「……でもな」
ゆっくり、こっちを見る。
「俺は引かんけぇ」
ドクッ、と心臓が跳ねる。
「……いや、引けよちょっとは」
冗談っぽく言うけど、声が少し弱い。
「無理じゃ」
即答。
「俺、ずっと好きじゃけぇ」
またそれ言う。
でも今は、冗談に聞こえない。
視線を逸らす。
「……そういうの、困るんよ」
「困らせとる」
「わかっててやってるやろ」
「そらそうよ」
思わず笑ってしまう。
「最悪やな」
「知っとる」
少しだけ、空気が軽くなる。
でも距離は近いまま。
店を出たあと、夜の広島の街を歩く。
少し湿った空気。
ネオンの光。
シードは隣を歩いてる。
いつもより、ほんの少しだけ近い。
「……今日、俺ん家来る?」
自然に言われる。
「……え?」
「泊まるとこないじゃろ」
確かに、実家に行く気にもなれない。
少し迷ってから、頷く。
「……じゃあ、行く」
その返事に、シードは小さく笑う。
シードん家に着く。
家族は旅行で不在のようだった。
「適当に座っとけ」
「お邪魔します……」
なんか変に緊張する。
ソファに座ってると、シードが飲み物を持ってくる。
「はい」
「ありがと」
手が触れる。
その一瞬で、またドキッとする。
(やばいな、これ)
さっきのキスのせいで、全部意識してしまう。
「……ニキ」
呼ばれる。
顔を上げると、すぐ近くにシードがいる。
「さっきの続き、してもええ?」
心臓が止まりそうになる。
「……続きって」
わかってるのに聞く。
「キス」
だから、はっきり言うな。
「……だめ」
即答する。
でも――
「……なんで」
自分でも、少し迷ってる声。
シードは少しだけ間を置く。
「せんせーのこと、まだ好きじゃろ」
核心を突かれる。
何も言えない。
「じゃけぇ、今はせん」
あっさり引く。
でも――
「でも、チャンスはもらうけぇな」
逃がさない目。
ソファに沈み込む。
「……ほんま、めんどくさいわ」
「知っとる」
天井を見上げる。
頭の中はぐちゃぐちゃ。
でも――
さっきより、少しだけ楽。
隣にいるのがシードだからかもしれない。
「……おやすみ、ニキ」
「……うん」
電気が消える。
⸻
暗闇の中でふと思う。
(……俺、どうしたいんやろ)
ボビーのことは好き。
でも、シードの言葉も、キスも、全部残ってる。
答えはまだ出ない。
でも――
確実に、逃げ場はなくなってきてる。
ーーーーーーーー
朝、知らない天井で目が覚める。
一瞬、どこかわからなくて。
(……あ、シードん家か、)
昨日のことが一気に蘇る。
キス。
「俺にすれば」って言葉。
思わず顔を手で覆う。
「……なにしてんだ俺」
⸻
リビングに出ると、シードがもう起きてた。
「お、起きたんか」
いつも通りの声。
その“いつも通り”が逆にずるい。
「……おはよ」
「顔赤いで」
「うるさい」
即返す。
シードは少し笑うだけ。
朝ごはんを一緒に食べる。
特別なことは何もない。
なのに――
距離が近いだけで、全部意識してしまう。
コップを取るときに手が触れるとか、
隣に座ってる距離とか。
全部。
「……今日、どうするん」
「んー……特に決めてない」
「じゃあ、ちょっと付き合えや」
自然な誘い。
断る理由もなくて。
「……いいよ」
⸻
昼の広島。
商店街を歩く。
人の多さと、少し懐かしい空気。
シードは隣を歩いてる。
昨日より、ほんの少しだけ近い。
「ニキ」
「ん?」
「迷っとる顔しとる」
図星すぎる。
「……してない」
「しとる」
即否定される。
「せんせーのこと考えとる?」
足が一瞬止まる。
「……まぁ」
否定できない。
シードは少しだけ前を見たまま言う。
「そりゃそうじゃろ」
その声は、責めてない。
でも、どこか静かで。
「……でもな」
こっちを見る。
「俺もおるけぇ」
シンプルな一言。
でも、重い。
胸の奥がぎゅっとなる。
「……知ってる」
小さく答える。
ーーーーーーーー
そのあと、カフェに入る。
向かい合って座る距離。
昨日より落ち着いてるはずなのに、
目が合うたびに変に意識する。
「……慣れんの?」
シードが少し笑う。
「なにが」
「俺のこと意識するん」
図星すぎる。
「……してないって」
「嘘つけ」
言い返せない。
しばらく沈黙。
でも、嫌な沈黙じゃない。
「……ニキ」
不意に呼ばれ、顔を上げる。
「昨日のキス」
またそれ。
心臓が跳ねる。
「……忘れて」
「無理じゃ」
即答。
「俺は覚えとるし、またするつもりじゃけぇ」
まっすぐ言うな。
「……ほんま、やめて」
でも声が弱い。
「嫌なん?」
またそれ。
少しだけ考えてしまう。
(……嫌、ではない)
「……わからん」
結局それしか言えない。
シードは小さく息を吐く。
「ええよ、それで」
優しい声。
でも――
「その代わり、逃げんなよ」
目が合う。
逃げられない。
夕方。
また並んで歩く。
昨日より自然に、隣にいる。
「……なぁ」
「ん?」
「手、つなぐ?」
さらっと言うな。
「は???」
思わず声が出る。
「冗談じゃ」
少し笑う。
でも――
一瞬だけ、本気の目だった。
(……ほんま、ずるい)
⸻
夜。
部屋に戻る。
ソファに座って、ぼーっとする。
シードが隣に座る。
距離が近い。
でも、昨日ほど怖くない。
「……ニキ」
「んー」
「俺、お前のこと諦めんけぇ」
静かな声。
「……知ってる」
少しだけ沈黙。
「……せんせーのこと、まだ好き?」
核心。
すぐには答えられない。
でも――
「……好きやと思う」
正直に言う。
シードは頷く。
「そりゃそうじゃろ」
そのまま、少しだけ近づく。
でもキスはしない。
「じゃけど」
低い声。
「俺のことも、ちゃんと見ろ」
胸が強く鳴る。
「……ずるい」
「知っとる」
ふっと笑う。
でもその夜、眠る前。
ふと思う。
(……もし、シード選んだら)
一瞬だけ、想像してしまう。
その自分に、少し驚いて。
でも否定できなくて。
目を閉じる。
ボビーの顔と、シードの顔。
両方浮かぶ。
(……俺、どうなるんやろ)
答えはまだ出ない。
でも確実に――
もう戻れないところまで来てる。
⸻
新幹線を降りた瞬間、東京の空気が少し重く感じた。
「……久しぶりじゃの」
隣でシードが軽く伸びをする。
「いや、そうでもないだろ」
そう返しながらも、なんか落ち着かない。
理由はわかってる。
(……ボビーに会うから)
⸻
スタジオに着くと、もう何人か集まってた。
「ニキニキ〜!」りぃちょが駆け寄ってきた。
「おかえり」
「広島どうだった?」
キャメロンとはとねが出迎えてくれる。
いつも通りの空気。
……のはずなのに。
「……ニキ」
その声で、全部止まる。
ボビー。
振り向いた瞬間、目が合う。
数日ぶりなのに、妙に長く感じる。
「……久しぶりやな」
「……うん」
それだけ。
それだけなのに、心臓がうるさい。
(……なんか、変)
前みたいに自然に話せない。
距離の取り方が、わからない。
「……ちゃんと帰ってきたんやな」
しろせんせーが低く言う。
「そりゃ帰るやろ、撮影あるし」
少しだけ素っ気なく返す。
自分でもわかる。
変に意識してる。
その空気を、シードが横から崩す。
「ほらニキ、こっち手伝えや」
自然に肩に手を回される。
「ちょ、近いって」
「ええじゃろ」
軽い調子。
でも――
離れない。
ボビーの視線が刺さる。
めちゃくちゃ、痛いほど見られてるのがわかる。
撮影準備。
機材の前で、シードがずっと隣にいる。
距離が近い。
わざとじゃない風で、でも確実に近い。
「ニキ、それ逆じゃろ」
後ろから手を伸ばされる。
肩越しに顔が近づく。
「うわ、びっくりした」
「集中せぇや」
耳元で言われて、変にドキッとする。
(やばいって……)
広島で二人っきりでいたときみたいな。
「……ニキ」
後ろから、別の声、ボビーの声。
振り向いた瞬間、手首を軽く引かれる。
「こっち」
短く、それだけ。
ーーーーーーーー
少し離れた場所。
人の少ないところ。
「……なんやあれ」
低い声、怒ってる。
「なにが」
とぼける。
「距離近すぎやろ」
直球で聞いてきた。
言葉に詰まる。
「……別に、普通やろ」
苦し紛れの答えしかでなかった。
ボビーの目が細くなる。
「普通ちゃうやろ」
一歩近づいてくる。
「……お前、広島で何してきたん」
心臓が止まりそうになった。
「……別に」
ボビーのことが見れなくて目を逸らした。
「目見て言えや」
逃げられない。
「……飲んでただけ」
嘘じゃない。
でも全部じゃない。
ボビーはしばらく黙る。
その沈黙が重い。
「……なんか、変わったな」
ぽつりと落ちる言葉。
ドクン、と心臓が鳴る。
「……そう?」
「わかるわ」
即答。
そのとき。
「ニキ〜」
シードの声。
振り向くと、手をひらひら振ってる。
「早よ来いや」
一瞬迷う。
ほんの一瞬。
それだけで、ボビーの表情が変わる。
「……行くんか」
低い声。
「……撮影やし」
そう言って、離れる。
背中に刺さる視線。
わかってるのに、止まれない。
⸻
シードの隣に戻る。
「遅い」
「ごめんって」
軽く笑う。
そのまま、自然にまた距離が近くなる。
さっきよりも。
「……顔赤いで」
耳元で小さい声で言われた。
「うるさい」
でも、少しだけ笑ってしまう。
その様子を、少し離れた場所から見てる人がいる。
⸻
(……なんやねん、それ)
胸の奥がざわつく。
嫌な予感が、確信に変わりかけてる。
(……取られる)
ふと、思った。
その瞬間、無意識に一歩踏み出してた。
⸻
撮影が始まる。
でも空気は、どこか張り詰めてる。
シードは変わらず近い。
ニキは少し揺れてる。
しろせんせーは明らかに落ち着かない様子。
三人の距離だけが、異常に近くて遠い。
(……あかん)
しろせんせーは思う。
(ほんまに、とられる)
ニキはまだ気づいてない。
自分が、どっちに傾き始めてるのか。
⸻
撮影が終わった頃には、変に疲れてた。
体じゃなくて、たぶん心が。
「お疲れ〜」りぃちょがだるそうに言う。
「なんか今日ピリピリしてたねー、みんな疲れるからかな?」キャメロンが心配そうに言う。
軽く笑ってごまかす。
「まぁ、そんな日もあるだろ」
片付けをしてると、シードがまた隣に来る。
「ニキ、それ貸せ」
自然に手を取られる。
「ちょ、近いって」
「慣れろや」
小さく笑う。
その距離感に、またドキッとする。
(ほんま、やめてほしい)
思ってるのに、嫌じゃないのが一番やばい。
「……ニキ」
後ろから、低い声。
一瞬でわかる。
振り向く前に、手首を掴まれる。
「ちょっと来い」
強め。
有無を言わせない感じ。
「え、ちょ……」
そのままスタジオの裏に連れていかれる。
人の気配がない場所。
⸻
手を離される。
でも、距離は近いまま。
「……なんなん」
低い声。
明らかに、怒ってる。
「なにが」
とぼけるけど、視線を逸らす。
「シードと」
短く、それだけ。
心臓が大きく鳴る。
「……別に」
またそれしか言えない。
「別にちゃうやろ」
一歩、詰められる。
「距離、おかしいねん」
逃げ場がない。
「……普通やって」
言いながら、自分でも苦しいのがわかる。
「普通ちゃうって言うとるやろ」
声が少し強くなる。
「お前、あいつと何あったん」
核心。
言えない。
キスのことなんて。
「……なんもない」
嘘。
沈黙。
重い。
次の瞬間、腕を引かれる。
ぐっと近づく距離。
「……俺のこと、どうでもええん?」
低くて、少し震えた声。
その一言で、胸が痛くなる。
「……違う」
すぐに否定する。
「じゃあなんやねん」
言葉が出てこない。
「距離置くって言ったん、お前やろ」
「……うん」
「でも俺は置く気ないねん」
ドクン、と鳴る。
「……好きやから」
まっすぐ。
逃げ場がない。
目を逸らせない。
「……ニキ」
名前を呼ばれるだけで、心臓が跳ねる。
「取られたくない」
その言葉が、強く刺さる。
(……あぁ、もう)
ぐちゃぐちゃになる。
そのとき。
「……随分と熱いのう」
横から声。
シード。
いつの間にか、そこにいる。
壁にもたれて、こっちを見てる。
「覗き趣味か?」ボビーが聞く。
「聞こえただけじゃ」シードが笑いながら答えた。
空気が一気に変わる。
「ニキ、行くぞ」
しろせんせーが腕を引こうとする。
その手を、シードが軽く止める。
「どこに?」
静かな声。
でも圧がある。
「関係ないやろ」
「関係あるけぇ」
二人の間に火花が散るみたいな空気。
「……ニキ」
シードがこっちを見る。
「お前、ちゃんと選べや」
「は……?」
「中途半端が一番だめじゃろ」
何も言えない。
ボビーが、ぐっと距離を詰める。
「選ばんでええ」
低い声。
「俺が選ばせへん」
シードが少し笑う。
「随分自信あるんじゃの」
「あるわ」
「長さが違う」
その言葉に、空気がさらに重くなる。
シードの目が細くなる。
「……ほう」
「じゃあ聞くけど」
ゆっくり、一歩近づく。
「今のニキ、どっち見とる?」
その一言で、全部止まる。
心臓の音だけが響く。
視線が揺れる。
ボビー。
シード。
どっちも、まっすぐ見てくる。
(……無理やろ、こんなん)
何も言えないまま、時間だけが過ぎる。
「……ほらな」
シードが小さく笑う。
「もう、揺れとる」
ボビーの握る手が、少し強くなる。
「……ニキ」
名前を呼ばれるだけで、苦しい。
(……なんでこんなことになってんの)
でも、わかってる。
もう、ただの“恋人”じゃいられない。
もう、ただの“友達”でもいられない。
完全に、取り合いになってる。
そのとき、ニキがスタッフに呼ばれる。ニキは急いでスタッフのいるところにむかった。
さっきまでの空気が嘘みたいに静かだった。
ニキがいなくなって、残ったのは――
しろせんせーとシード、二人だけ。
「……行かせてよかったんか?」
先に口を開いたのはシードだった。
壁にもたれたまま、タバコに火をつける。
「別に」
しろせんせーは短く返す。
でも、視線は逸らさない。
煙がゆっくり上に昇る。
その間に流れる沈黙が、やけに重い。
「余裕そうじゃの」
シードが少し笑う。
「そっちこそ」
しろせんせーも負けずに返す。
一瞬、視線がぶつかる。
どっちも引かない。
「……いつから?」
しろせんせーが低く聞く。
「何が」
わかってるくせに、シードはとぼける。
「ニキに手ぇ出したん」
直球。
タバコの煙を吐き出しながら、シードは答える。
「最初から出しとる」
一瞬、空気が凍る。
「……キスもか」
しろせんせーの声が少し低くなる。
シードは目を細める。
「さあ、どうじゃろ」
「ふざけんなや」
その瞬間、声が一段低くなる。
でもシードは笑う。
「焦っとるんか?」
「当たり前やろ」
しろせんせーは一歩前に出る。
距離が詰まる。
「俺のもんやぞ」
低く、はっきり。
シードの口元が少しだけ歪む。
「“やった”の間違いじゃろ」
その一言で、空気が一気に張り詰める。
「今は違う」
しろせんせーは睨むように言う。
「へぇ」
シードは軽く笑う。
「でもな」
タバコを指で挟んだまま、ゆっくり言う。
「今のニキ、完全に揺れとるで」
言葉が刺さる。
しろせんせーの眉がわずかに動く。
「……だからなんや」
「チャンスってことじゃろ」
静かな声。
でも確信してる。
「俺は最初から好きじゃった」
一歩近づく。
「でも言わんかった」
「お前がおったけぇ」
その言葉に、しろせんせーの表情が変わる。
「……今さら遠慮せん」
シードの目が真っ直ぐになる。
「奪う気満々じゃ」
沈黙。
しろせんせーはゆっくり息を吐く。
「……できるもんならやってみぃ」
低く笑う。
「俺、あいつの全部知っとるから」
「弱いとこも、泣くとこも」
「全部」
シードは少しだけ目を細める。
「過去の話じゃろ」
「今のニキは、俺が見とる」
その言葉に、今度はしろせんせーが黙る。
一瞬だけ、完全な静寂。
「……ほな、勝負やな」
しろせんせーがぽつりと落とす。
シードはタバコを消す。
「最初からそのつもりじゃ」
二人の視線が、またぶつかる。
逃げない。
譲らない。
そのとき、遠くからニキの声がする。
「おーい、二人ともー!」
一瞬だけ、二人ともそっちを見る。
でもすぐ、また視線が戻る。
「……決めるのはあいつじゃけどな」
シードが静かに言う。
しろせんせーは小さく笑う。
「決めさせる気ないわ」
そのまま二人は何事もなかったかのように歩き出す。
でも――
この時点で、もう決まってる。
“ただの三角関係”じゃない。
本気の取り合いが、始まった。
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