テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
まだ日の灯りが残っている静かな村。
奇病を恐れ、若い村人はすでに避難をした後なのだろう。
村の中央の集会所に、老人や体の不自由で動けない人。そして奇病に感染した人たちのみが残されていた。
残された人たちも恐怖に怯え、日が沈む前になるべく灯を灯そうと、部屋中に蝋燭や松明をともしている。
「ニティア。何か感じるか?」
フィニスの言葉に、ニティアは首を左右に振った。
「全然。魔力も……嫌な気配も感じない。アルテアは?」
「私も……現時点ではなにも感じませんね……」
家の中を見回すルシオ。倒れている人の中にはすでに手遅れのものもいる。この現状をなんとかできないか考えていると、ふとフィニスのことが目に入った。
「アルテア。フィニスはこの病気……大丈夫なのか?」
それを聞いてフィニスをみるニティア。隣にいたアルテアは、フィニスとニティアを安心させるような優しい声で答える。
「これが病なのであれば……そもそも私たち含めて対策のしようがありません。ですが、一応フィニスさんには、この村に入る際に可能な限り……さまざまな耐性の魔法はかけています」
ほっと胸を撫で下ろすニティア。しかし、アルテアは続ける。
「しかし……私の”知らない”毒や呪いの場合……この魔法に大きな効果は無いので……そうじゃないことを祈るだけです……」
「そんな……」
「……」
そんな会話を聞いているのか、聞いていないのか……ぼーっと外を見ていたフィニスが3人に向かってニカっと笑った。
「まぁ……なんとかなるだろう」
その顔を見て、一同ふっと笑い、肩の力が抜けていくのを感じていた。
⸻
村人が集まってる家の入口に立つフィニスとニティア。アルテアとルシオが巡回をしている。
森の中の小さな村が、まるで日没とは思えないほどの灯を放っている。
灯喰病。病なのか……呪いなのかは分からないが、夜間限定で起こる現象。
人体はともかく、村にある光そのものが夜になると突然消えることから……夜間、特にこの日没のタイミングで何かが起こっているのではないか……
そう思い、各自注意深くあたりを警戒していた。
しばらく警戒を続け……
日が完全に沈んだその瞬間……ふっと何か小さな微風を感じたフィニス。その方向に体を向けると、遠くの木々が微かに揺らめいていた。
そして次の瞬間には、村の明かりが消え始めていた。
「なんで!?何も感じなかった!」
驚き声を上げるニティアに反応して、アルテアとルシオが戻ってくる。
「くそ!やっぱりわからねぇな……」
「ニティアさん、魔法で灯を!」
灯りが消えると次は村人の症状が進行してしまう。ニティアは急いで杖に魔力を込め、炎を出そうと杖をかざす。
しかし……
「出ない……なんで!?」
炎がダメならば稲光!そう思い、雷の術式を構築しようとするも……
「なんでよ!?」
魔力は消費しているのに、魔法だけが出現しない。
そうこうしているうちに村の灯りが全て消え、次々と村人達が崩れ落ち、倒れていく。
「どうしよう!フィニス!」
ニティアがフィニスを見ると、先ほどまで一緒に立っていた家の入り口にしゃがみ込んでおり、瞳から灯が消えていた。
「そんな!?症状が早すぎます!!」
村人達の被害をこれ以上出さないよう、家全体に耐性魔法と回復魔法を展開しているアルテア。
片手を家の入り口の方に向け、フィニスが回復魔法の範囲に入るよう、魔力を込めた。
「フィニス!しっかりしてよ!ねぇ!!」
涙目でフィニスの肩を揺さぶるニティア。ニティアの首元に小さく光るガーネットがフィニスの瞳に映ったその時。
プルプルプルっ……スッ
フィニスは無表情のまま……震える腕をゆっくりと上げ、村の外一点を指差す。
「え……なに?」
そしてそのまま倒れてしまった。
「フィニス!」
フィニスの身体を起こそうとするニティアをルシオが静止した。
「おいニティア落ち着け!」
「!!」
再び、ジャヌスの言葉を。そして、以前の森で倒した魔物。フィニスの指示した場所に魔法を打ち込んで倒した魔物のことを思い出したニティアは、ゆっくりと立ち上がった。
「ニティア?」
そして目に涙を浮かべたまま、ふわりと身体を浮かばせると……フィニスが指差した方向へものすごいスピードで飛んでいった。
「あれ……浮遊魔法じゃなかったのかよ……」
ルシオがアルテアの方を見ると、アルテアは力強く頷く。
それを見たルシオは、ニティアが飛んでいった方向へ、大きな盾を持ち走っていった。
⸻
森の奥。木々が開けた沼地の真ん中に、泥と腐敗した肉で身を纏っているナニカが立っていた。
ニティアがその場所まで飛んでいった瞬間、そのナニカが呻き声をあげる。
「グガァァァァァ!!」
次の瞬間、沼底からは大量のスケルトンやゾンビが湧き上がってきた。
沼の中心のナニカを涙目で睨みつけるニティア。
「あれは……」
そのナニカの胸元に泥に塗れて鈍く輝くコア。
「魔族……!」
しかし、そのコアも白く濁っており、すでに砕ける寸前であった。
「この死に損ないめ!!」
杖に魔力を込め、術式を展開。魔法を発動したところで、魔法が打ち消される。
「なっ!?」
すでに目の前まで迫ってきていたスケルトン達が、ニティアに飛びかかろうとした瞬間……。
ズガッ!
ルシオが大楯で死霊達を吹き飛ばしてくれた。
「はぁ……はぁ……ニティア……お前どうせ……また雷の魔法でも使おうとしてただろ……」
「……だから何よ!」
「灯喰病の原因が……こいつだとしたら……?」
「………!」
ハッとしたニティア。冷静なつもりでも、やはり頭に血が登っており、いつもの癖で雷魔法を使おうとしていた。
灯を発生させる術が喰われるのなら……
「ルシオ……ありがと!」
「お礼されるならアルテアちゃんの方が良かったな!」
そういいながら、迫り来る死霊を吹き飛ばし続けるルシオ。その間にニティアは術式を組み換え始めていた。
どんどん構築されていく術式。その蓄積されていく魔力に、ルシオが苦笑いをしていた。
「お前どんだけ組み込むんだよ!」
「ごめん。私今余裕ないから」
そう言って再び上空へ飛び上がるニティア。
「一瞬で終わらせるね」
そう言い放った瞬間、黒い雷が魔族のコアを一瞬で撃ち抜いた。
「まじかよ……」
ヴェスパの言葉を思い出したルシオ。
【バカかテメェ!そっちの嬢ちゃんが本気出してたら、てめーなんて手も足も出ずに終わってるわ!】
盾を地面に突き立てて苦笑いをした。
黒い炎を纏い消滅していく魔族。それと同時に死霊達もサラサラと消滅していった。
⸻
ニティアが急いで飛んで村へ戻ると、すでに村には明かりが灯っており、村人達の喜ぶような声が聞こえていた。
その声を聞いて安堵したニティアは、地面に降り、村人達が集まっていた家へ向かう。
「フィニス!大丈………」
そこには……
「あ〜……やっとスッキリしてきた……」
アルテアに膝枕をされて回復魔法を受けているフィニスがいた。
「……」
無言でフィニス達に近づくニティアに、アルテアが気づく。
「ニティアさん!お疲れ様でし……」
その声でフィニスも身体を起こそうと手を地面についた瞬間……
ガン!
ニティアがフィニスのお腹を思いっきり踏んづけた。
「っっっっっっ!!!!!」
声にならない声。
「こっちが死に物狂いで魔族を倒して戻ってきてみれば……美人の膝枕でのんびりお昼寝……ずいぶんいいご身分ね」
「ちちちち違うんですよニティアさん!誤解です!!」
気絶しているフィニスをよそに、アルテアが慌てて口を開いた。
「ニティアさんとルシオさんが離れてしばらくしたら、いきなり死霊達が村に入ってきたんです!」
「え?」
つい先ほど戦っていた相手なだけに、疑う余地もない。
「私も広範囲の魔法を使っていたので動けず……ここにも数体入ってこようとしていたところを……動けないはずのフィニスさんが震える身体で剣を持って戦ってくれたんです…….」
「え?」
視線を下すニティア。フィニスは泡を吹いたまま気絶している。
「最後の一体が私のところへ飛びかかろうとしたところを、フィニスさんが倒れ込むようにして倒してくれて……そしてそのまま、私を押し倒す形で気絶してしまいまして……」
「は?」
「あ!いえ!!そのすぐ後に、村に灯りが戻りまして、村人達も皆元気になられましたので……このままフィニスさんを回復していたところだったんですよ!」
「そうだったんだ……」
そう言ってしゃがみ込み、フィニスの鼻をツンツンするニティア。
「一応頑張ってくれてたんだ……でも、こいつに膝枕なんてしなくてもいいのに。その辺に転がしておけばいいのよ!」
そう言ってフィニスの鼻を摘むニティア。
そんな頃にようやく、全身汗だらけ。肩から息をしているルシオが村に戻ってきたのであった。
コメント
1件
最後のフィニスのあの動き、すごくグッときました…。目から灯が消えてるのに、ちゃんと敵の場所を指差すところ。身体は限界でも意思は戦い続けてたんだなって思うと切なくて、でもカッコよかったです。それと、戻ってきたニティアがフィニスを踏むシーン、笑っちゃいました。真剣な空気の中にこういう緩急があるの、すごく好きです🤍
308
甘泉めあʚめめあ・めあちɞ
175
羽海汐遠
10,439
#創作
こと-koto
89