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「私、ルーデウスの子猫が欲しいにゃん。」
小さなテントに二人。
凄くて大好きなルーデウス。
彼は、私に興奮してくれた。
 「エリスっ…」
 彼と繋がっていたい。
その思いが溢れて止まらなくなって、私は必死に絡ませた。
 「ルーデウスっ…んっ…」
 世界で一番幸せで悲しい恋人繋ぎ。
ルーデウスの手。すごい、すごいルーデウスの手。
でも、そんなルーデウスの手は私の手より、一回りも二回りも……小さかったんだ。
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 幸せな匂いがする。
船酔いした時と同じ匂い。
ルーデウスの匂い。
 目を覚ますと、目の前にルーデウスがいた。
二人で体温を分け合うように抱き合っている形。
ルーデウスが私のお腹に腕を回して、スヤスヤと眠っている。
 「そういえば、ルーデウスより早く起きたことなかったわね。」
 厳密には私のほうが早く起きたこともあるんだろうけど、なぜかこの日は、そう思った。
 「へへへ、えりすぅ…ダメですよぉ…」
 私は、そーっとベッドから抜け出す。
そして……
 「手紙ぐらい、書かなきゃよね」
 呟きと同時、私はペンを握る。
呼吸を整えて、覚悟を決める。
痕跡を残さないようにする。
賢い彼にバレないようにする。
それだけを心を決めて、短く、簡潔に。
 (守れるように強くなるって書いたら、行き先が剣の聖地ってバレちゃうかもしれない…)
 手紙を書くのは、少しだけ楽しかった。
ルーデウスに教わった読み書き。
彼の一部が私に注がれてる気がしたから。
 『今の私とルーデウスでは釣り合いが取れません。旅に出ます』
 (よし、これで良いわ)
 手紙を書き終え、剣を引き抜く。
私は未練を断つように、自らの髪をばっさりと切った。
 地面に赤い髪を置き、手紙を確認する。
そして、振り返って…
最後に、ルーデウスに、眠っているはずの彼に別れの言葉を……
 「エリス?」
 彼の小さな上裸が、見事に起き上がっていた。
私は衝撃のあまり、言葉が出せなかった。
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 幸せなはずなのに、嫌な予感がした。
夢ではツンデレなエリスが俺に抱き付き、愛を囁いてくれる。
あぁ、幸せだ。今日から俺はリア充だ。
目を覚ますまでは、そんな呑気なことを考えていた。
 「エリス?」
 「……」
 昨日は凄く気持ちよかった。
決してやましい気持ちで共に冒険して守ってきたわけじゃない。
でも、あれが恋なんだろうな。
強張る彼女も、震える彼女も、ぐったり疲れて息が切れた彼女も…
昨日のエリスのすべてが、俺の興奮材料だった。
 可愛いエリス。
そんな彼女が、昨夜こんな言葉を残してくれたんだ。
 「ルーデウス、私の家族になりなさい。」
 強引で遠回しなプロポーズ。
彼女らしい。俺はそんなエリスが大好きだ。
 大好きなエリス、世界で一番幸せな俺。
そう、そのはず。そのはずなのに。俺は彼女を目の前にして、悪寒が止まらなくなる。
 「え、エリス?服なんて着ちゃって…もう少し僕と寝ていても良いんですよ?」
 まるで、すぐにでも出かけられるような格好。
いや、戦うことが可能な格好。
 「少し、外を歩いてくるわ。」
 「あ、そういうことだったんですね! でしたら僕も行きます! 今日から僕はエリスの旦那さんですから!」
 本当は朝からもう一発やりたかったけど、下心丸出しもよくないしな。
へへへ。彼女も顔を真っ赤にして、一緒に外を歩いてくれるかな?
 「ダメよ。一人で行くわ。」
 「…え?」
 眠たかった視界が徐々に鮮明になってくる。
それと同時に見えてきたことが二つ。
一つ目は、彼女の顔が真っ青なこと。
二つ目は…
 「え、エリス? 髪…」
 地面に転がる綺麗な赤い髪。
エリスの表情も暗い、何かがおかしい。
いつものツンデレじゃない。
 「ルーデウス、手離して。」
 「……」
 俺は無意識に彼女の手を掴んでいた。
嫌だ。嫌だ、何か嫌だ。
 「良いじゃないですか。あ、上裸なのが嫌でしたか? じゃあ、すぐ服を……」
 「ダメ! 来ないで!」
 エリスの拒絶。
俺は歯を食いしばった。
 「嫌です、離したくないです。」
 手を離さなければ服は着れない。
俺でも分かる。それは真実だ。
でも、俺は手を離さなかった、離せなかった。
 離さない手、一向に進まない二人の時間。
動き出したのは、三人目の介入だった。
 「エリス、遅いぞ」
 言葉と同時、静かに入ってきたのはギレーヌ。
瞬間、彼女が目を見開く。
 「そうか、起きてしまったか。エリス、ここまで来たら話すべきじゃないのか?」
 ギレーヌの言葉に、エリスは俺をちらっと見る。
そして俯きながら、悩みながら、口を開いた。
 「そうね。話さないと進めなさそうね…分かったわ。ルーデウス、少し話があるの。来てくれる?」
 未だ嫌な予感はする。
しかし、少しだけ和らいだ。
俺は彼女から手を離し、服を着る。
 服を着終えて、天幕を出る俺たち。
ただ黙って、俺たちは外に出る。
そこにあったのは綺麗な空。そう、皮肉なほど綺麗な青空に向かって、俺たちは歩き出した。
 ─────────────────────────
 「エリス、すみません。鈍感な僕でも話が見えてきました」
 ギレーヌのテント。
剣以外は何もない質素な部屋。
俺は口を開く。
この質素な部屋のように頭を整理して、小さな声を発していく。
 「僕、頼りなかったですもんね。エリスのことを困らせて、苦労させて、龍神に殺されかけて…」
 長い言葉、涙が出そうな言葉。
あぁ、ダメだな。
もっと簡潔に言えるはずなのに、分かってるはずなのに。
上手く言葉が出てこない。
 「昨晩も、僕、下手でしたもんね…」
 口が回らない俺。代わりに瞳から溢れ出してくるのは、涙。
 「僕、嫌われちゃいましたね…」
 「…!?」
 俺は何も言わずに俯いた。
これが失恋ってやつか。
前世じゃできなかった失恋。
辛い。めちゃくちゃ辛い。
 「ルーデウス、ちょっと待って! 私はルーデウスのこと嫌いになったりしないわ!」
 「気を遣ってくれるんですね。でも、大丈夫ですよ…」
 俯いた俺、薄く笑う俺。
プロポーズされて一日足らずで失恋。
ははっ、我ながら伝説だな。
 「エリスは可愛いですから。きっと良い人が見つかりますよ」
 「かっ、かわっ……ルーデウスが頼りなかったら、この世に頼れる人なんて一人も居ないじゃない!」
 「……」
 「もういいわ。」
 何が?
 次の瞬間、落ちるのは特大爆弾。
 「ルーデウス! 愛してるわ!」
 「……へ?」
 真っ赤な顔でなんてことを…。
聞き返せば、また恥ずかしそうに。
 「す、好きって言ったのよ…」
 「ぼ、僕のことが、ですか?」
 「そ、そうよ。世界で一番よ…」
 「……」
 「これでは埒が明かんな。」
 ギレーヌが口を挟む。
頼む、エリスの考えを代弁してくれ。
 「ルーデウス。お前死にかけたらしいな?」
 「まぁ、はい」
 死にかけた。
恐らく龍神と戦った時のことだろう。
不甲斐ない俺、エリスを守れなかった俺。
龍神に傷付けられた彼女は、その一件があったから、俺を嫌いになったんだと思う。
 「エリスお嬢様はルーデウスを守れなかったと後悔したんだ。大きく、深くな。」
 「なんで、エリスが後悔なんて…」
 「嘆き、後悔していたんだ。今までルーデウスに守られていたと。ルーデウスの近くに居たら自分は成長できない。だから強くなるために離れることを決心した」
 俺はギレーヌの言葉を聞き、エリスに目を向ける。
すると、彼女は俺に頷いてくれた。
 「エリス? 僕の考えを聞いてくれますか?」
 「もちろんよ。聞くわ。」
 少し落ち着いた。
息を吸って、吐いて。
 「僕はエリスみたいに剣が得意じゃないです。」
 「嘘よ。ルーデウスは私より強いじゃない」
 「いいえ。エリスより弱いです」
 エリスの肩に寄り掛かる。
彼女の手に、自身の手を絡ませて。
 「だから、一緒に強くなりたい。エリスと一緒に」
 これからは守るんじゃない。
夫婦として、一緒に強くなるんだ。
 「それに! エリスが居なくなったら僕は悲しいです!」
 「私が居なくなったら、ルーデウスは不幸になるの?」
 「はい! そうです! 大不幸になります!」
 「ルーデウスが不幸になるのは、嫌」
 小さな背中が作り出す新婚。
ギレーヌのテントから出る時、俺たちは恋人繋ぎだった。
昨晩と同様に、幸せな恋人繋ぎだった。
 「そういえば、名家に嫁ぐっていう話は…」
 「昨晩も言ったでしょ? どうでもいいって。私は、ルーデウスが守れればそれで良いのよ。」
 ……エリスさん、平然と恥ずかしいこと言いますな。
まぁ、精神状態が戻るまでのことだろうけど。
 「ねぇ、ルーデウス。その、今日もしたいの?」
 「それは、まぁ…」
 「良いのよ我慢しなくて。一応新婚なわけだし。」
 新婚、この響きが脳内に木霊する。
酔いしれる俺に、エリスが口を近付ける。
 「もう、私たちは家族なんだから。」
 『子猫が欲しいにゃん』この言葉が、彼女の口から放たれることはなかった。
しかし、これはこれで最高だ。
あぁ、エリスがお嫁さんになってくれて本当に幸せだ。
 「はい! 僕たちは家族です! 新婚です!」
 言葉と同時、俺は決心する。
二人で強くなるんだと。愛しの人と、エリスと強くなるのだと。
決める決意と覚悟。
とてつもなく大きな熱。それが、何かを変えていく。
何か、それは『運命』
運命という歯車が、変わっていく。
 冒険、魔法大学、迷宮。
そんな運命が、この時、この瞬間、音を立てて変わろうとしていたんだ。
〈追記〉
現在、ノベルとチャットノベル、どちらで制作しようか迷っています。
ですので、良ければご意見いただけると嬉しいです。