TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

朝遅くキャスリンは身体中が痛くて起きた。

夜会でダンスを踊りあの出来事があり帰宅してからは激情のままハンクと閨を共にした。


寝室にハンクがいると知ったときの高揚はなんて表したらいいのだろう。ただ目の前のハンクに抱きつき離れたくなかった。抱き締めて欲しかった。子種をもらえばそれでよかったのに、ただ陰茎を入れて子種を下腹に入れてもらえればよかったのに。今思い出しても胸が苦しくなる。大きな体に好き勝手にされて、願いを叶えてもらって私はあの時確かに幸せを感じた。


キャスリンは湯に浸かりながら体を揉む。

身体中が痛いわ。いくら我を忘れていたとはいえ、子供のように果実水をねだりハンクをねだって。思い出すと恥ずかしくなる。

私が努力してもそれを壊そうとする夫など立てる必要がある?ゾルダーク次期公爵のために動く私の足を引っ張るなんて、とんだ外れくじだわ。婚約を決めたお父様を恨みそうよ。もう少し頭のいい人だと思っていたのに、愛とは人を変えるのね。恐ろしいわ。もうカイランと夜会に行きたくない。彼の顔も見たくないから夕食も共にとりたくない。気持ちが沈んでゆく。閨を思い出して恥ずかしくなり、カイランのことで腹が立ち、心がおかしくなってしまいそう。

湯の中で汚れを流していると胸の辺りが点々と赤い。触っても押しても痛くない。ハンクが何かしたのか病気…でもこんなの聞いたこともない。今度ハンクに聞くしかないわ。お腹には噛み跡が増えてる。昨日は私が噛んでやったわ。血も出て歯形がくっきりとついていた。ライアン様にもらった薬をハンクにも渡さないと。

早い昼食をたべて、ソファに座り刺繍をする。ハンカチにゾルダークの家紋。どこの夫人もしていること。今日は体が痛いから立つこともしたくない。夕食も部屋でとろうかしら。キャスリンが悩んでいると扉を叩く音が聞こえる。ジュノが扉を開けソーマがダントルと共に入ってきた。


「キャスリン様、本日よりゾルダークの騎士となったダントルをお連れしました」


ダントルの登場に体の痛みも忘れて立ち上がる。


「ダントル!よく来てくれたわ」


ダントルは頭を下げる。ゾルダークの騎士服を着ている。


「ソーマ、ありがとう」


私はソーマをみて微笑む。


「キャスリン様、ダントルに状況の説明は済んでおります。困ったことがありましたら相談なさってください」


本当にできる執事だわ。私にも欲しいくらいよ。カイランとハンクのことをどう説明しようかと悩んでいた。知っていてもらわないと困ることだから話そうとは思っていたけどわかってもらえるか不安だった。ダントルを見ると軽く頷く。理解してここにいるということだ。


「ソーマ、あの…閣下に薬を渡して欲しいのよ」


なんのために渡すのか話しづらくはっきりと伝えられない。


「旦那様は同じ薬をすでにお持ちです。ちゃんと塗っておられましたよ」


ソーマの言葉にほっとする。よかった。かなり強く噛んだもの。


「私、今日は部屋で夕食をいただきたいの。いいかしら?」


「かしこまりました。料理番には伝えておきます」


ソーマは深くは聞かないでくれた。きっと昨日の夜会で何かあったと知っているのだわ。まだカイランと顔を合わせるなんてできない。酷い言葉を浴びせてしまう。

この日から部屋で食事をする気安さに心慰めるキャスリンは食堂に降りなくなった。

夜会から数日が経ち、キャスリンはダントルと共に高級貴族街に来ていた。特に欲しいものがあったわけではない。ただ気ままに町を歩き欲しいものがあったら買い、美味しそうな食べ物があったら食べたかった。こういうことにゾルダークの騎士を付き合わせるのが気まずくてダントルを呼びたかったのだ。馬車を下り婚姻前によく行っていた雑貨屋、古本屋に顔を出す。物欲のないキャスリンは見ているだけでも楽しい時間。趣味の一つと言える。ディーターにいた頃これに付き合ったのがダントルだった。雑貨屋ではジュノにお揃いでハンカチを買いダントルには万年筆、ソーマには栞を買った。料理番には面白い形のスプーン。思い付く人たちに小物を買うのも好きで、ディーターではお兄様に物が増えて場所をとるから小さい物にしてくれと頼まれたほど。テレンスは持っていないものならなんでもよかったのでそれを探すのも楽しかった。買い物を終えダントルと公園で休憩しようとベンチに座る。

久しぶりに楽しめたわ。荷物はダントルが持ちキャスリンの側で立っている。


「久しぶりだから沢山買ってしまったわ。楽しかったわ。ゾルダークの方に渡すのは初めてなの驚くかしらね?」


ダントルは頷いて答える。影ができたわね、と顔を上げるとダントルが私の前に立っている。何かしら?と首を傾げると可愛らしい声が届く。


「こんにちは。カイランの奥さんよね?」


時が止まったように固まる。リリアン様の声がする。ダントルで見えないがスカートの裾がひらひらと見えている。私はダントルに声をかけ立ち上がる。


「こんにちはスノー男爵夫人。なんの御用かしら」


下位貴族から友人でもない高位貴族へ話しかけることはマナー違反。

ダントルさえ知ってるマナーを無視して私に話しかける度胸。すごいわ、無知とは最強なのかしら。


「お買い物楽しそうね、カイランは一緒に?」


「夫は仕事で邸におりますの、何か御用かしら?」


何度聞いたら話が進むのかしらね。さっきまでの楽しい時間が台無しだわ。


「カイランに会いたいんです。邸に行ったら会えますか?お手紙書いても返事が来なくて、貴女を見かけたから追いかけてきたの」


手紙?ソーマがカイランに渡してないかもしれないわね。


「約束も取らずいらしても会えませんわ。どんな御用かお聞きしてもよろしくて?」


リリアンは胸の前で手を握りしめ懇願する。


「直接会いたいんです。会って話したいの」


大きな瞳を潤ませて私に縋ろうと近づく。ダントルの腕が私とリリアンの間に入り込んでそれを止める。


「駄目なんですか?会って欲しくないから?」


何を言ってるの彼女は。会話が成り立たないなんて初めてよ。私の言葉は彼女には聞こえてないのね、すごいわ。この女を愛してるって。本気で恥ずかしいわ、カイラン。


「アンダル様はご一緒ではないのですか?」


会話ができないならこちらもしないわよ。


「アンダルはお仕事で忙しいの」


答えが来たわね。質問を続ければ会話が成り立つのかしら。


「ここには何をしにいらしたの?」


「お買い物していたら貴女を見かけたの」


追いかけてきたのよね。会話ができているわ。


「買い物とはなにを?」


「マダム・オブレにドレスを見に来て、でも誰も相手をしてくれなくて」


マダム・オブレは高級店よ、男爵では年に一枚作るのがせいぜいなのに。お店も客を見るのよね、踏み倒されてはたまらないもの。どこで終わらせようかしら。


「お店の方は忙しかったのでは?社交の時期ですから」


…あら返事が来ないわ。間違えたかしら。


「夜会に行く予定があるの?」


「ええ、招待状が来てますから」


あら今度はうつむいてしまったわ。答えを間違えたかしら、難しいわね。


「カイランのおうちでは夜会を開かないの?」


「公爵閣下が夜会嫌いなんですの」


もういいかしら歩き回って少し疲れたわ、休憩も取れなかったし。それでは失礼しますと去ろうすると、リリアン様が声を発する。


「カイランにお手紙読んでと伝えて」


必死ね、ここまで必死だと怖いわね。追い込まれた人は厄介なのよね。私、嘘は嫌いなのよ。


「夫と顔を合わせましたら伝えます」


今度こそダントルを連れて公園を去る。馬車への戻り道にダントルに話しかける。


「顔を合わせたくないわ。できるかしら?」


ダントルは口角を上げ笑う。この顔をするときは、任せておけ、の意味。私は頼りになるわと呟く。邸に帰り自室にソーマを呼ぶ。


「呼び出してごめんなさいね」


私はソーマと料理番にと選んだお土産を渡す。値が張るものではないから受け取ってくれる。使用人達に渡るように菓子を沢山買ってきた。


「これを閣下に」


私はハンクにお酒用の器を買った。青い色の硝子が綺麗で日に当てるときらきらして、置いておくだけでもとソーマに渡す。

喜んでくれなくてもいい、持っていてくれればそれでいい。


「ソーマ、スノー男爵夫人からカイランに手紙がきているの?」


ソーマの眉がわずかに動く。


「どこでお知りになられましたか?」


「公園よ。休憩していたら現れたの、驚いたわ。カイランに会いたい、邸に行ったら会えるのかと聞かれたの」


ソーマはダントルを見る。ダントルは軽く頷いた。


「届いていますが私の所で止めています。旦那様の許しを得て読んでいます」


そうよね。夜会での出来事は耳に入っているはず、リリアン様とは関わらせたくないわよね。でもあの調子だといつか乗り込んで来るかもしれない。いっそ願いを叶えてあげたらいいのかしらと思案する。


「お任せください」


とソーマが告げて私を見つめる。どうにかなるのね、と納得した。


「わかったわ」


ソーマは土産を抱えて部屋を出ていく。





貴方の想いなど知りません

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

45

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚