コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
楽が目を覚ますと、そこは見たこともない施設。
周りには地下を思わせるコンクリートのタイルが敷かれており、外部の様子は何も映らなかった。
「んだ……これぇ……!!」
そして、楽の両腕は拘束具により固く絞められていた。
バタバタと動いてもビクともしない。
「おい、悪魔! 愛! いるか!?」
楽は咄嗟に、憑依してる二人に声を掛ける。
「聞こえているわよ」
返答したのは愛だった。
「何があったか分かるか?」
「いや……憑依中の私たちでさえ眠らされていたみたいで、今さっき私たちも目覚めたところ……」
ここで分かるのは、一に楽たちは、眠らされた状態でここまで拉致されてしまったということ。
そしてニに、楽はこの二人を憑依していることを知っている人間に拉致されたことになる。
しかし、楽はそこまで頭は回らなかった。
「クソが!! 早く出せ!! 誰かいねぇのか!!」
楽は半狂乱に叫び続けた。
楽の前方に見える廊下の奥から、一人の影が現れる。
「お前は……!」
「あれ、ごめんね。結構強い睡眠薬だったから、こんなに早く目覚めるとは思ってなくてね。直ぐに解いてあげるから、ちょっと待っててね」
「異能探偵局の……夏目……!!」
現れたのは、異能探偵局の夏目夏人だった。
異能教徒に拉致されたとばかり思っていた楽は、拍子抜けした気持ちと、逆に疑問による焦りで言葉を失う。
夏目は、宣言通り簡単に楽を解放した。
「なんでこんな真似しやがったんだ……!」
楽は少し痺れる腕をブルブルと震わせる。
夏目はニコッと楽に笑みを浮かべる。
「君の拘束は解いた。もちろん俺に敵意はない。でも、君をここから解放することは出来ない」
様々な矛盾を孕む言い方に、楽は戸惑う。
楽の頭では、単純明快な言葉しか受け取れない。
もう少し頭が回るならば、様子を伺ったり、夏目を問い正したり出来ただろうが、楽には出来なかった。
「悪魔……憑依だ……!!」
咄嗟に、楽は自らの身体にオーラを纏わせる。
「やっぱりか……」
夏目は一言呟くと、そっと後退する。
逃げないあたり、臨戦態勢が伺えた。
二人が今まさに戦闘寸前の最中、止めたのは愛だった。
「楽、ちょっと待って」
「あ? コイツ、異能教徒のスパイかも知んねぇだろ! 俺たちで潰して、早く脱出しねぇと……!!」
楽の頭には、『倒して脱出』しかなかった。
「もっと冷静になって!」
すると、夏目は臨戦態勢を崩し、楽な姿勢になった。
「愛ちゃんは分かってるみたいだね」
そして一言。
この一言は、楽を驚愕させるのに申し分ない。
何故なら、
「なんで……愛の言葉が聞こえてるんだ……」
憑依中の悪魔、愛の声は、楽にしか聞こえない。
このやり取りが外部に漏れているはずがない。
楽は、更に警戒心を強める。
「ちゃんと説明するから、まずはソレ、解いてよ」
夏目は再びニコッと笑う。
「従いましょう……」
愛の言葉に、楽は戸惑いながらも憑依を解いた。
「さて、それでは何から聞きたい?」
「待って。相談する」
楽は少しだけ成長した。
そして、行き着いた答えは、自分の頭で判断できないと見越した際には、愛を頼ることだった。
「愛、質問だってよ。何から聞けばいいと思う?」
「そうね……もちろん、連れて来られた理由は絶対聞きたいところだけど、雰囲気から察するに、それは後々嫌でも分かることになると思う。もし、楽の暗殺が目的なら、わざわざ拘束を解いたりはしないでしょ?」
「た、確かに……。他に目的があんのか……」
「だから早まった戦闘はダメ。そして、私が止めた理由でもあるんだけど、一番に聞いて欲しいのは……」
そして、一つ目の質問。
「お前を倒して、ここから脱出は出来るのか?」
仕切られた外部。
場所がどこかさえも分からない。
もし仮に夏目を倒せたとして、楽たちだけで脱出できる場所かどうかさえ分からないのだ。
その上で、唯一の情報源である夏目を倒してしまうのは些かに早計すぎる。
「無理だ。俺が居なければ、他の誰も脱出は出来ない」
そして、愛の嫌な予感は的中する。
夏目の言葉を100%信用した上での話ではあるが、そこを疑っても仕方がなかった。
出来ないと言われ、相手から敵意を向けられてもいないのに、勝てるかも不明な相手と戦うには、まだ苦しい。
引き続き、二つ目の質問。
「どうして、俺の身体の中にいる悪魔と愛の言葉もアンタには聞こえてるんだ?」
愛からすれば、連れて来られた目的よりも、こちらの方が不思議で、不安要素の大きい部分。
楽は単純思考だから、考えてることは読まれやすい。
今まで、それを補って戦えて来られたのは、ある意味で愛の判断力と、悪魔の戦闘センスによるものが大きかった。
しかし、相手にそれが読まれていたら、夏目と戦うとしたらまず間違いなく勝てる見込みがなかった。
「いい質問だ。流石は、元異能教徒暗殺部隊に育成されてきた二人だね」
そう言うと、夏目はコートの懐からゴソゴソと掌サイズのボックスを取り出す。
「ジャーン! これ、俺の部下に作ってもらった発明品のボックスなんだ! まあ、細工したんだけどね」
そして、ボックスを開くと、どこかの青狸の物真似をしながら小さなイヤホンを取り出した。
「心象イヤホン〜!」
そして、それを躊躇なく楽に手渡した。
「付けてごらん」
楽は素直に指示に従った。
「なんだ……!?」
(ふふっ……驚いてる驚いてる……)
「これ……アンタの心の声か……!?」
「そう。そのイヤホンには、俺の心とリンクさせてある。そして、俺が付けてるイヤホンには、君の心とリンクさせてあるんだ。だから、憑依してる霊魂との会話も全部俺には丸聞こえってわけさ」
(このイヤホンを返さなければ……コイツの心の声が聞こえるから、簡単に倒せるんじゃ……?)
「アハハ、無駄だよ。俺は心の声を自ら封じられる。簡単に君に手渡したのは、それを返されなくても別段困らないからさ」
(嘘は吐いてない……。さっきから、全く心の声が聞こえない……)
「その通り。でも君たちは身体の中で “会話” をする必要がある。だから、一人の俺と違って君たちの声は確実に丸裸、と言うわけだよ」
そして、夏目は手を差し出す。
「分かったら、返してもらえるかな?」
「嫌だね! なんかに使えるかも知んねぇし!」
楽は咄嗟に後退した。
「ハハ、壊さなければいいよ。君に預けておこう」
そう言うと、夏目は悠長に背を向ける。
(退屈させないでね)
心の声を置いて、その場を後にした。
「なんだったんだ……アイツ」
「確か……異能探偵局の支部長クラスの人だったはず。結局、目的は分からなかったけど、私たちに危害を加える気はないみたい。帰す気もね……」
そんな時、一体の悪霊が楽たちの前に現れる。
そして、三人は瞬時に理解する。
「なんとなく魂胆が見えたぜ……!」
そして、楽は悪魔を憑依させた。