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ケイヴェルノ率いる焚書官たちとの戦いの趨勢を見極め、不利と見た奪う者は途中から倒された使い魔たちの封印を回収することに専念していたのだった。おかげでかわる者だけでなく、ほとんどの使い魔が焚書官たちから逃げることに成功した。
最早アンソルーペは救済機構を裏切ったものと見なされるだろう。ケイヴェルノは最後の最後まで弁護してくれるだろうが、機構は裏切者に対しては非情だ。機構内の人物が最たる教敵に認定された際、その処理は上層部によって秘密裏に行われる。何が行われるのかはアンソルーペも知らなかった。が、何者かによって討伐されることは確信している。
飛ぶ者によって星の無い夜空を運ばれながら、アンソルーペは指示する。副官ドロラの魔法の感知範囲内では翻弄するように飛び、範囲外に抜け出すと真っすぐに北へと向かった。
神々の一番槍に挑むもあえなく散った血気盛んないくつかの山を越え、谷間に降りると封印を様々なものに貼り付けて使い魔たちを呼び覚ます。封印を剥がされている間、時間経過を感じない使い魔たちは、焚書官たちが突然消え、しかし相変わらずの雪景色の中にいることで混乱を生んだ。が、すぐに状況を察する。そして焚書機関の一部局、第四局の首席、羊の鉄仮面のアンソルーペに責めるような視線が集まる。
「そ、そんな目で見ないでください」アンソルーペは息を整え、溜息をつく。「やり取りはき聞いていたでしょう? あれはわた私の部下たちでしたが、もももう過去の話となってしまいました。引き返すことはできません」
「結局のところお前も俺たちを利用するつもりなのだろう?」と使い魔の誰かが言った。そして同調するような声がいくつか加わった。
「なななんです? 話がこ後退していませんか? じ純粋な取引だと思うのですが。ユカリが本物か試す。かわ代わりに私の祖国奪還を手伝う。それほどそそちらの分の悪い取引とも思えませんが」
「救済機構自体との取引だと思ってたんだけど」とアンソルーペの口でかわる者が言う。
「まあ、わた私も当てにしていましたが、こっちだって手伝ってくれるのはかわる者さんだけでも構わないという、や約束じゃないですか。そもそもあなあなた方は取引相手じゃないんですよ」とアンソルーペはかわる者以外の使い魔たちに向けて言う。
「だけど俺たちはかわる者派で……」とか、「かわる者がユカリは偽物だって言ったんだ」とか、聞かされている内にアンソルーペは鉄仮面の奥で、この寒さでも変えられなかった表情を歪める。
「ごちゃごちゃと煩いんですよ」とアンソルーペは語気を強める。「利用されただの命令されただの何だのと被害者ぶるくらいなら自分の意志をさっさと示してください。現時点でも勝手に派閥に分かれてやり合ってるんですから、そう難しいことじゃないでしょう?」
どうしたいのか。アンソルーペが放り投げた一石は使い魔たちに響き渡り、各々が想いを言い合う。意見はてんでばらばらで意思統一など不可能そうだ。夢を語る者、理想を説く者。百一の使い魔の性質は百一種あり、気が合う者などほとんどいないようだった。
意見がまとまるのを待つ間、アンソルーペは火を焚いて、雪を沸かして、狩る者に食材を得てもらって、使い魔たちと共に味気ない食事を共にする。その後、それほど興味も無いが、使い魔たちの議論に耳を傾ける。しかしアンソルーペの興味を引いたのはむしろ会話の端々に表される使い魔たちの来歴だ。以前に話には聞いていたが実に様々な土地、様々な時代を生きてきたようだ。グリシアン大陸の東西南北、果ては天の向こうからやって来た者もいるという。身体的、能力的な成長はないが、精神的には大いに変化しながら大陸の歴史の影で活躍乃至暗躍し、今この時代のこの土地で無数の物語が交差しているのだ。そしてユカリはその無数の物語を全て終結させようとしていることになる。
知っている歴史の経糸と使い魔たちのもたらした緯糸を織るが、ほとんどほとんど形にできないままアンソルーペは睡魔に負けて眠りに就いた。眠っている間もアンソルーペの口でかわる者が喋っているようだった。
「ねえ、起きて。いつまで寝てるの?」と言うアンソルーペの声にアンソルーペは起こされた。
本当に自分は長い間眠っていたのか、と疑わしいくらいに頭は疲れたままだった。意識の上に重石乗せているような気分だ。
アンソルーペはあくびをしながら、焚火を囲む使い魔たちを眺める。
「い意見はまとまったのですか?」
「まとまったというか、一つだけ共通点が見つかったよ」とアンソルーペの口が答える。
「百一人もいてひひ一つあれば上等ですよ。それで、何ですか?」
「生みの親に会いたい」
「え、だ誰ですか? 生みの親? つまり? 魔導書の製作者ってここことですか?」
「さあ、それは分からない。だけど使い魔を作ったのは魔法少女だっていう根拠のない想いがあるんだ。全ての使い魔にね。それが昨晩、話しに話し込んで分かった。というか思い出した」
「そそうですか。ななるほど。でもある意味合点がいきました。そそれが十五、六の少女、ラミスカなわけがない。そういうことですね?」
その場にいる全ての使い魔が首肯し、かわる者が代表して答える。
「だから私は『わたしのまほうのほん』という魔導書こそが魔法少女ユカリなのだと思った。私たちと同じように魔導書なのだ、と」
アンソルーペは懐に仕舞っていた『わたしのまほうのほん』を取り出す。これ自体が使い魔の封印のように機能したことはない。が、そう推測した理由は分かった。
しかしラミスカは魔導書無しに魔法少女に変身したために、使い魔たちに疑念が、特にそう主張したかわる者に対しての疑念が生まれたというわけだ。
ラミスカは本当に魔法少女ユカリそのものなのかもしれない、と使い魔たちは考え始めている。
「となればやっぱりしし真相を明らかにするしかありませんね」とアンソルーペは結論付ける。「どどどうすれば良いのか分かりませんが、ららラミスカだって何か知っていることがあるでしょう。洗いざらいはは吐かせるのです」
一同言葉もなく視線を交わして同意する。
「それなら、一つ報告があるんだ」と測る者が言った。「使い魔には関係ないかもしれないが、協力者であるアンソルーペには情報提供した方が良いと思ってね」
「わた私には? つまり大王国関係ですか?」
「その通り、この先、北の海岸沿いに大王国が城を築いている。築城速度から考えて、築く者だな」
「建てる者の可能性は?」とかわる者が言った。
「あいつはユカリ派だよ」と測る者が答えた。