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ごきげんよう。
私《わたくし》、喜熨斗志桜里《きのとしおり》と申します。
家族や幼馴染みたちにはキノコ娘と呼ばれておりますの。
キノコ娘って何ぞや? とお思いでいらっしゃいますか?
そうですわね……キノコのように美味しく食べられる人間だと、猟奇的に受け取られてしまいますと困りますので、きちんと説明いたしますわ。
まずは、私がキノコ娘だと発覚するまでには、少々時間がかかりました。
そうですわよね。
生まれたときから、お前はキノコ娘なんだよ! と言い聞かせる両親はいないと思いますもの。
両親だって自分たちから生まれた子供がキノコ的体質? を持っているだなんて考えも及ばないでしょう。
幾ら聡明な両親だからといって、無茶振りが過ぎるというものです。
最初に発覚したのは、私が一緒にいると、良質なキノコ、希少なキノコに遭遇する機会が多すぎる……という、特技……いいえ、やはり体質……お兄様たち曰くの特殊能力でしたの。
私の家は所謂名家と呼ばれる家でございます。
家系図は平安時代のものから残っておりますので、家の歴史はなかなかに長いものだと自負しておりますわ。
現在も多くの資産を保有しておりますし、人脈も広いのではないでしょうか。
そんな名家と呼ばれる喜熨斗家ではございますが、何故か代々女児には恵まれにくいようなのです。
家系図を遡っても、なんとまぁ、十人を数えるほどしかおりませんの!
お兄様たちと一緒に検証して大変驚きましたわ。
側室や妾といった方々の子も、全て男児という調べがついております。
どうしても女児が欲しく、一人で十二人もの子を産まれた女性もいらっしゃいましたの。
尊敬いたしますわ。
ですから、母は言うのです。
私は恵まれているのよ! と。
ええ、私。
長女ではございますが、お兄様は八人もおりますの。
どのお兄様もシスコンを拗らせておりますが、全員良い兄様ですわ! と胸を張って申し上げられます。
一番上のお兄様とは一回り年が離れておりますわ。
幼い頃のエピソードには事欠きませんのよ。
そう。
その一番上のお兄様……宗一郎《そういちろう》兄様が、私の体質に気がついてくれたのです。
私が五歳の時分ですから……宗一郎兄様は十七歳。
喜熨斗嫡男として既に名を馳せていた、優秀で柔軟な思考の持ち主だったからこそ、到達できた考えだったのかもしれません。
あれは山の中。
お兄様たちとピクニックをしているときでした。
家の山ですので、管理は行き届いております。
本来であれば、キノコの大量発生などあり得ないはずなのですわ。
喜熨斗家の管理人たちは優秀ですから。
「宗兄《そうにい》これって、管理人たちの管理不行き届き……じゃねぇよなぁ?」
二番目のお兄様、雅比古《まさひこ》兄様が、少々不穏な声で宗一郎兄様に尋ねられました。
雅比古兄様は名前の通り、大変雅やかな容姿をしていらっしゃいますが、自身ではそれを好んではおりません。
外見通りの嫋やかな性格と思われては困ると、乱雑な言葉を使われますが、幼馴染みはギャップ萌え! と叫んでいるので、効果の程はイマヒトツなのかもしれませんね。
「喜熨斗家の管理人たちは優秀だよ。怠慢はあり得ない……とするならば、志桜里、お前のお蔭かもしれないよ?」
「わたくし、ですか?」
「そう。前回志桜里を連れてきたときは、まだ赤ちゃんだったけれど。やっぱりキノコを多く見かけたからね」
「あ! そう言えば、希少キノコを初めて見つけたとか、龍が言ってたなぁ……」
「ん? 呼んだ?」
三番目のお兄様、幸乃進《ゆきのしん》兄様も思い至ったらしいのです。
四番目のお兄様、龍之介《りゅうのすけ》兄様の名前を口にしていましたわ。
「前にこの山荘に来たとき、赤ちゃんの志桜里に夢中ですっかり忘れてたけど、お前さ。希少キノコを見つけたって、騒いでたじゃん?」
「あー! あのときね。うん、覚えてるよ。だってさぁ、良い匂いに惹かれていったら原木舞茸《げんぼくまいたけ》があったんだよ! 誰が原木を設置したのさって、話。ちょっとホラーだったんだからな!」
菌床にきのこ菌を打ち込んで栽培するのが菌床栽培。
原木にきのこ菌を打ち込んで栽培するのが原木栽培。
原木栽培は露地での栽培なので、天候に左右されやすく育てにくいとのこと。
更にこの原木舞茸は、収穫時期が一年を通して秋の三週間しかないと説明いただきました。
自然に生えるものではないし、そのピクニックは春だったと聞けば、確かにホラーですわね。
「でもまぁ、希少キノコが入手できたし、美味しく食べたから特にそれ以上の疑問は持たなかったんだけどね」
「美味かったなぁ……原木舞茸の天ぷら。普通の舞茸より肉厚で香りも良かったぜ」
「今回もたくさん食べられるよ……しかし、本当に誰がこんなにたくさんの原木を設置したんだろうね?」
肩を竦める龍之介兄様曰く、軽く百本は並んでいるらしいのです。
しかもどの原木にも、まんべんなくみっしりとキノコが生えているのがあり得ないのだとか。
そんな龍之介兄様は頭脳派の人ですわ。
キノコに関しては何故か調べずにいられない! と他の知識よりも、広く深く学んでいるようですの。
もしかしたら、私の体質と関係しているのかもしれません。
龍之介兄様と双子である幸乃進兄様は、自他共に認める肉体派。
私をおんぶや抱っこで移動するとき、大体は龍之介兄様が担当になっておりますわ。
他のお兄様方も率先して抱っこしてくれますが、一番安心感があるのが幸乃進兄様ですの。
「他のキノコもすげぇなぁ、おい。全部食用か?」
「や。食用じゃないのもあるぜ。御丁寧に日本三大毒キノコが仲良く並んでるわ……世界三大毒キノコもその隣に生えてるし」
カキシメジは毒キノコに見えないほど美味しそうで、夜でもないのに発行しているツキヨタケは幻想的で綺麗でしたわ。
クサウラベニタケは誤食が多いのがよくわかる姿でしたの。
でもね?
訴えられましたのよ。
僕、クサウラベニタケ!
毒があるから食べちゃ駄目だよ! と。
一瞬耳を疑いましたけれど、お兄様たちの声とは明らかに違いましたので、キノコが語りかけてくれたのだと信じられましたわ。
「これは、家族だけの秘密にしないと駄目だろう。皆、いいね?」
お兄様たちがそれぞれ賛同の声を上げていらっしゃいました。
ですので、キノコの声が聞こえますのよ! とは告白できませんでしたの。
そのときは。
だって、希少キノコがたくさん得られる、それだけでも十分に危険でございましょう?
確かに人に知れてしまったら、実験体にでもされそうですし。
希少キノコ栽培要因として幽閉されてしまう可能性も高そうで、切なさを感じてしまいました。
両親はピクニックに不参加でしたので、帰宅時にはしっかりと報告しましたの。
大変驚いておられましたけれど、喜んでもおられましたわ。
うちの娘は人とは違うと思ってた!
特別な娘万歳!
そんな受け止め方をしてくださいました。
気持ち悪くありませんの?
幼心に思いましたのですが、家族のうち誰一人として、否定的には捉えませんでしたわ。
不思議ではありましたが、面映ゆくもありました。
それと同時に、自身が家族に愛されているのがわかって嬉しくもありましたの。
笑顔でそう伝えておきましたわ。
ただでさえ過保護だった両親やお兄様たちが、少々行き過ぎでは? と思うレベルで過保護になってしまったのは、必然だったのでしょうか。
のちに、厳選されて付き合えるようになった幼馴染みたちに、よくあの過保護な溺愛に耐えられるなぁ、と言われたものです。
その日の夕食には、原木舞茸の天ぷらをいただきましたわ。
兄様方がおっしゃっていたように、肉厚で香りも良く、大層食べ応えのある食感でしたの。
私は塩でいただきましたが、何もつけない派のお兄様、天つゆでいただく派のお兄様たちにそれぞれ勧められて、結局三通りの食べ方をいたしましたわ。
どれも甲乙つけがたく美味しゅうございました。