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初投稿です。
璃月の魔神討伐から数ヶ月。璃月は前の光景を取り戻しつつあった。
冒険者協会へ向かうも依頼がなかったため露店を見て回っていた空。
そこで声をかけてきたのが目の前の少女、煙緋である。
「いいかい?空くん。」
「…何が?」
「よく聞くんだ。ここからは商談といこうじゃないか。」
「なんの?」
「勿論私たちの関係のことさ!」
煙緋との関係?と思い当たる節がないのか首を傾げる空。
「人間関係に商談ってあるの?」
「勿論だとも。しかしここではなんだ。少し私の部屋に来て貰えないかい?」
「…まあ、いいけど。」
特に用事がある訳でもないので、煙緋の後に続く空。前を歩いている煙緋はどこか楽しそうで、喜びに満ち溢れているような気さえしてくる。
しばらく歩いていると、煙緋が住んでいると思われる家に着いた。靴を脱いで家に上がると、煙緋が振り向き、空に向かって声を掛けた。
「お茶を淹れて来るから、この突き当たりの私の部屋で待っていてくれよ。」
そう言ってキッチンの方に向かう煙緋。それを見ながら煙緋の部屋に向かう空。
空は部屋に入ると棚に法律関係の書物がぎっしりと収納されているのが目に付いた。
他にも机の上にはペン等の筆記具と積まれた紙の束。1番上には契約書と書かれている物を見つける。
「…女性の部屋をジロジロと見回すのは法律違反ではないが、マナー違反だよ、空くん。」
お茶を持ってきた煙緋に声をかけられ、空は少しビクリと肩を震わせる。
「…ごめん。」
「まあ、自分でも色気のない部屋だなぁ、とは思うけどね。」
「…煙緋らしい部屋だな、とは思ったよ。」
「ふふっ…褒め言葉として受け取っておこう。」
きっちりと整理整頓されてる部屋を見ると実に煙緋らしいと言えるだろう。
「それで…と、そこに座ってくれ。では商談を始めよう。」
向かい合うようにして座る空と煙緋。煙緋はちらりと空を見ると視線が合い、照れくさそうに顔を俯かせてから手にしたお茶を空の前に起き、書類に目を落とした。
「空くん、その…け、けっ…」
書類に目を落としながらだとしてもなかなか言い出せない煙緋。綺麗な翡翠色の目はグルグル目と呼ばれる状態になる。それを見兼ねた空は書類を差し出すように言う。
「あ、あぁ…本当は自分で言いたかったんだが…その…」
そう言って書類を手渡す煙緋。少し手が当たり、顔を真っ赤にする。
初々しい反応を見せる煙緋に、空まで意識してしまったのか顔を赤らめる。
コホン、とわざとらしく咳払いをして書類を読み始める空。
空は書類を読んでいる自分の様子を眺めては視線を落とし、と正にチラチラという言葉が適している様子の煙緋には気付かないフリをしつつ、読んでいる内容に愕然とする。
同棲する家の決め方とか、喧嘩した時の仲直りの仕方とか。空はこれってもしや恋人になって欲しいと言う契約書…?と思ったまま読み進める。
しかし最後のページに添付されてたのは婚姻届。窓から入った陽光に照らされ、もはや輝いてるようにすら見えた。
「ええっと…煙緋、これは…その、プロポーズ…でいいんだよね?」
「あ、ああ!勿論だとも!私は空くん、と…け、結婚したい!」
「えっと…その気持ちは嬉しいんだけど…」
「私、では駄目なのか…?」
先程の照れくさそうな様子とは一転、物凄く寂しそうに、今にも涙が零れそうなほどに潤んだ瞳。
「いや、嬉しいんだ。だけど、付き合う前に結婚って言うのは…その、合わなかった時に…」
「そ、そうか!なら、私と結婚を前提につ、付き合って欲しい!そ、それならいいだろう?」
「…勿論。お願いするよ。」
そう答えると、嬉しそうに目を輝かせる煙緋。バッと席を立つと空の上に座り、帽子を取った頭を胸板に擦り付ける。
甘い香りがふわりと鼻腔をくすぐり、パイモンとは違った匂いにドギマギしてしまう空。
煙緋は「華奢でも男の子なんだなあ」とか「私は今好きな人に抱き着いてるんだ」とか「空もドキドキしてくれてるんだ」とか、色んな感情が混ざり合い、しかし最も強い感情は羞恥であり、もはや頭の上から煙が見えそうなほどである。
「とりあえず、今日から私たちは…恋、人なんだな…」
「そうだね。パイモンにも伝えとくよ。」
「そ、それは少し恥ずかしいな…」
煙緋は今まで色恋沙汰に触れたのは他人の、しかもほとんど離婚関係の民事裁判のみで、恋人が出来た、と報告するのは照れくさいのだ。
しかし空は真逆で、恋人が出来たということを自慢したいという典型的な男の子の反応だった。
魔神討伐後からはパイモンも何故か称えられるようになり、あらゆる屋台(ご飯限定)のお得意さんになったらしく最近は無料でご飯を貰ってるらしい。
パイモンはマスコット的な立ち位置であり、集客効果があるのでWin-Winであると店主達は言っていたが、パイモンはそれでいいのだろうか…
つまるところ、空はパイモンのご飯の心配はいらないということであり、それは煙緋の所に長く居れるというわけだ。
もう既に太陽は水平線の向こうに沈みかけており、璃月中を美味しそうな匂いで包み始めた頃である。
「…ご飯、作ろうか。」
空は煙緋との話をちょうどいい所で切り、そう提案した。
「…そうだね。しかし、空くんと一緒に過ごすと、いつもより仕事が捗ったし、凄く時間が短く感じたよ。」
「…短く感じたのは俺もかな。」
「…ふふっ。嬉しいことを言ってくれるね。それじゃあ、キッチンに行こうじゃないか。」
「うん。」
微笑みながらペンを置き、空の上から立ち上がる煙緋。
「さて、何を作ろうか…?」
廊下に出たあと、空に話題を振る煙緋。
「…俺は豆腐が食べたいな。」
少し考えた、というより思い出して言葉を発する空。
「君のそういう所、とても好きだよ。」
そう照れくさそうにはにかむ煙緋。その言葉を聞いた空も勿論顔を赤くして照れる。
キッチンに着いてからは、空がどこからともなく海老、上質な獣肉、これまた上質な魚肉、米、白滝、鍋に入れるような野菜等を出す。
「おお…君も私が法律に関する書物を出すようなことが出来るのか…便利なものだね。」
「まあね。それで、豆腐はあるの?」
「勿論さ。私が豆腐を切らすなんてあってはならない事だからね。」
「それじゃあ、初の愛の共同作業といこうか。」
愛の共同作業、という言葉に少し照れる空。
その後は空の料理の腕前に驚きつつも、煙緋も手際よくオリジナル料理である『法律ここにあり』を作る。
暫くして完成した『お食べくだ菜』と『法律ここにあり』を完璧に作り上げた二人はダイニングのテーブルに運んだ。
「ではいただこうか。空くん。」
「「いただきます。」」
「…さて、空くん。」
「…ん?」
空は煙緋に手伝ってもらった『お食べくだ菜』を頬張りながら返事をする。
「これを食べてみてくれないか?」
そう言って箸でつまんだ『法律ここにあり』一切れを空の目の前に差し出す煙緋。
「…えーっと。」
「あーん、と言うやつだ。小説で見てから私もやりたくなってね。」
そう言って悪戯っぽく笑う煙緋。空は煙緋の見せた表情や小説に影響される可愛さ、そして食べさせられる羞恥に頬を染めながらも言われた通りに口を開ける。
「…自分で作った物より美味しいよ、煙緋。ありがとう。」
そう言って微笑んだ空に見惚れる煙緋。褒められた嬉しさと相まって、とても幸せそうに笑った。
その後の二人は雑談しながら食事をした。
食事を終え、太陽の出番は終わり、月明かりと暖色系の電灯が街を照らす時間。
「そろそろ帰るよ。今日はありがとうね。」
そう言って玄関の方へ向かおうとする空だが、それを止める者がいた。
「その、今日は泊まってくれないだろうか…?」
空の腕をぎゅっと握り、少し上目遣い気味に問う煙緋。
「えっ…と、うん。分かった。」
パイモンも塵歌壺に帰るよう言ってあるため魔物に襲われる心配はないだろうと考え、残ることにした空。
「と、とりあえず私は風呂に入ってくるよ。」
寂しさから手を掴んだのが照れくさいのか、そそくさと風呂に向かう煙緋。
手持ち無沙汰になった空は少しぼーっと煙緋とのこれからについて考えていた。
「そうだ、空くんも入るかい?」
バスタオルを巻いた状態で出てきた煙緋。
「ちょ、ちょっと!」
「冗談さ。」
そう言ってまだ風呂場に体を引っ込める煙緋。
「まあ、冗談にしては顔真っ赤だったな…」
空は煩悩を退散し続けた。
「ふう…済まないね。時間がかかってしまったよ。」
勿論空がいることを意識して体の隅々まで洗い、湯船に浸かると妄想が止まらずに浮かんできたからである。
「俺も入っていいの?」
「勿論だとも。あ、それと私の残り湯は飲まないでくれよ。」
「飲まないよ!」
「あとバスタオルは脱衣所の上の棚にあるからね。」
返事を返さずに脱衣所に向かう空に少しからかい過ぎたか、と反省する煙緋。
「戻るまで酒でも飲もうか…」
「はぁ。」
今日できた彼女のことを考えながら、体を洗う。
浴槽に張られたお湯を見る度に悶々としてしまうが、それを抑えつけて無心になるように努める。
少し擦りすぎた足が痛い。
「あ、そるぁくぅ〜ん。」
髪を下ろした状態で風呂から上がり、リビングに戻った空を迎えたのは完全に出来上がった煙緋である。
「えっ…飲みすぎでは…?」
「うぅ〜…そらくぅん…そらくぅん…」
うわ言のように空を呼び続ける煙緋。
「私をベッドに運んでおくれ〜。」
そう言って「んっ」両腕を空に向かって差し出す煙緋。
可愛さやら照れくささやらにやられた空は、しぶしぶ煙緋を抱き抱えて運ぶ。
「おお〜力持ちだね〜。それにいい匂い…」
すんすんと鼻を鳴らし、匂いを嗅ぐ煙緋。
酔っ払った煙緋はどこか色っぽく、顔を赤くして密着してる状態が更にそれを強く感じさせる。
無事ベッドまで抱き合うようにして運んだ空は、優しく煙緋を下ろした。
その途端、ぐっと腕を引き寄せられ、空は煙緋のベッドに転がった。
「ふふっ…空くん、愛してるよ…」
そう言って煙緋は足を空の腰に絡ませ、顔に手を添えて目を合わせる。
空は何が起こったか理解出来ずに硬直している。
チュッと煙緋は空の唇に啄むようなキスを落とす。それを何度も繰り返した後、顔を少し傾けて舌を少しばかり伸ばして歯列をなぞる。
呆然とする空は口を開けてしまい、それを了承と取ったのか更に舌を捩じこませる煙緋。
瞼を閉じ、強弱をつけながら舌を絡ませたり、硬口蓋に舌を這わせたりする煙緋。
数十秒、もしくは数分。区別がつかない程に深く、甘いディープキスを交わした二人の唇の間に唾液の橋が架かる。
「ふふっ…」
未だに興奮は収まることはなく、甘く優しい快感に痺れた酸欠気味の脳に酸素を送る為に深く息を吸う二人。
「本当に、愛してるよ。空くん。」
そう言って足を絡ませたまま眠りについてしまう煙緋。
空も情報過多でショートしたのか、気絶したように眠った。
それから毎日、冒険者協会で依頼を受けて終わらせ、煙緋に会ってキスをしてから帰るという生活を続けた。
「そろそろ結婚しないかい?空くん。」
そう言って声をかけたのは煙緋。
「そっか、もう三年くらい経つのかな。」
「そうだとも。さて、当時は照れてしまってなかなか伝えられなかったが、今なら言えるだろう。私と結婚してくれないか?」
「…勿論、お願いするよ。」
三年前と同じシチュエーション、同じ言葉で返す空。
「…ああ、それと、私は民事裁判が苦手なんだ。」
「…分かってるよ。」
そして、陽光に照らされた少し古びた契約書に添付されていた婚姻届に、空は署名と印鑑を押した。