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カゴメ「はぁ……はぁ……」
魔力を込めた扇子を扇ぎ、狙った的に斬撃を放つ。
ヒュオっと刃を振うような風音を立てながら、それは的に浅い傷を付けた。
支給された道具の一つ、武器杖は、生徒の属性や魔力量によって姿形を変え、持ち主の戦力になるそうだ。
私の杖が変形したのは、今まで試したことのない鉄扇というものになった。
これは、標的に打撃やを与える近距離戦以外に、扇いで遠くの標的に風の斬撃を与えることもできる代物らしい。
カゴメ「はぁ…これだけ練習して…やっと命中したわ…!」
しかしこれが、太刀や鉄砲と違い、狙いを定めることが特に難しく、扱える者が少ないらしい。
カゴメ「どうして…そんな物が私に…?」
かなり魔力を消費したせいか、扇子を持つ手が少し震える。
するとそれは淡い白緑色に光り、元の杖の形に戻ってしまった。
カゴメ「少し…休憩しましょう」
木陰に座って一休みをしていると、いつの間にか小型の魔物や鳥が、私の周りに集まってきていた。
鷹「こんにちはお嬢さん」
カゴメ「あらこんにちは、私に何か御用ですの?」
肩に止まる立派な鷹は丁寧な挨拶をし、羽繕いを始めた。
皆誰かの使い魔なのだろう、お互いに言葉を交わせるようだ。
兎「用事はないんだよ、おねえさんがあったかそうだからみんなここに来たんだ」
カゴメ「そうですのね、心地はいかが?」
猫「悪くないね、暫くここにいるよ」
武器杖の試し撃ちで身体を動かしたおかげで体温が上がってたのだろう、無害な魔物たちは心地よさそうに擦り寄ってきた。
鷹「お嬢さんは何故此処に?あまり人が来ない場所ですよ?」
カゴメ「ここなら杖の練習にちょうど良いと思いましたの。広いので、誤って周りに迷惑もかけませんもの」
鼠「お嬢さんは頑張り屋だね。もうすこし力を抜いても良いんじゃないかい?」
カゴメ「それですわね…でも…」
般若「カゴメー! 」
遠くから兄の呼ぶ声が聞こえ、居座っていた魔物たちは驚いたのだろう。
皆、蜘蛛の子を散らすように林や空へ去っていった。
般若「こんなとこいたのか、何してたんだ?」
カゴメ「兄さん…すこし、武器杖の練習を…」
般若「飯も食わずにか?」
…そういえば、今日は水以外口にしてなかったことを思い出す。
すると、私のお腹がくるくると鳴った。
カゴメ「あ…」
お腹の音と沈黙の後、兄が可笑しそうに腹を抱えて笑った。
般若「…ふっ、ははは笑」
カゴメ「ちょ!笑わないでよ!」
般若「わりぃ笑、くくっ笑腹減ってんだな笑 」
カゴメ「もう!乙女だってお腹空くのよ!」
般若「はいはい、ほら、飯持ってきたから食えよ」
そう言って頭にぽんと乗せられたのは、竹皮で包まれたおにぎりが二つ。
作りたてなのだろう、まだほんのり温かみがあるそれを、ぱくりと一口。
程よい塩気とほかほかのお米、そこに酸っぱい梅干しが合わさり、体力を消耗した身によく効く。
カゴメ「っ!美味しい…!」
般若「だろ?食堂のおばちゃんは飯が美味くなる魔法でも使ってるんだろうな!」
冗談っぽいことを言う兄をよそに、空腹だったお腹を満たすようにおにぎりを食べ進めれば、手元になくなった頃にはすっかり疲れも空腹感もなくなっていた。
カゴメ「ありがとう兄さん、お腹いっぱいになったわ」
般若「おう、そりゃよかった!午後も頑張れよ!」