テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
新藤樹。
その名前には酷く聞き覚えがある。
それは、俺の初恋相手である樹くん。
過去の記憶の底に沈めていたはずの、ほろ苦い痛みが蘇る。
でも、樹なんて同名はたくさんいるし、きっと他人の空似だろう。
そう言い聞かせ、頭を横に振るう。激しく脈打つ鼓動を押し殺すように。
「じゃあ新藤、簡単に自己紹介してくれるか?」
「はい、学期の途中からでちょっと緊張してますけど…早くクラスに馴染みたいんで、気軽に声かけてもらえると嬉しいです!」
そう言って頭を下げると、教室は拍手に包まれた。
その爽やかな笑顔に、俺はつい目を逸らした。
胸の奥を引っ掻かれるような違和感。
あの樹くんなわけがない───
そう思うのに、妙に胸がザワついて仕方がなかった。
「じゃあ…新藤はそうだな、鈴木の後ろが空いてるし、窓側から2番目の1番後ろに座ってくれ」
担任の言葉を受けて、彼が席へと向かう。
それは正しく、僕の隣の席だった。
彼は着席すると、すぐ隣の俺になんの躊躇いもなく声をかけてくる。
「よろしく!君、名前なんて言うの?」
「え?あっ、俺は鈴木、鈴木龍星って言うんだ。よろしくね」
「へぇ~かっけえ名前してんね!中学のときもスズキリュウセイって居たんだけど、鈴木くんは名前なんて書くの?」
その一言に心臓が一瞬止まったような気がした。
血液の循環が止まり、指先が一気に冷たくなっていく。
なぜ、そんなことを聞かれるのかと。
「えっ、と……ドラゴンとかの〝龍〟に流れ星の〝星〟って書いて…龍星って読むんだ」
「え、まじ…?もしかしてだけどさ、中学って青葉市立瑞穂中学校だったりしない?」
「え、そ、そうだけど…樹くんも?」
「そうそう。てか、だとしたら龍星って、あの龍星?俺が酷い振り方した」
「う、うそ!やっぱり、あのときの…樹、くん……なの?!」
今目の前にいるのは、かつての初恋相手だと知って、心臓が警鐘を鳴らす。
混乱している頭で整理する暇もなく
「マジマジ。いやー、あんときごめん」
彼は、どこか成長した顔つきで頬をかきながらそう言った。
あまりにもあっけらかんとした態度。
予想外だった、気持ち悪がられていると思ったのに、こんなに普通に話しかけてくるなんて。
しかも、過去のことをわさわざ謝ってくるなんて。
なんというか、まるで人が変わったみたいだった。
「あ、あれは仕方ないって。無理もないよ、男友達が自分のこと好きだとか…拒絶されても仕方なかったって思ってるし」
本当に、あのときはそうだった。
胸を抉られるような絶望と、自分自身の存在を否定されたかのような苦しみ。
でもそれは、お互いの普通が相反して亀裂が入っただけに過ぎない。
俺が好きになんてならなければ壊れなかったかもしれない友情だ。
ずっとそのことが、心の隅で冷たいトゲのように刺さっていた。
「いや、あれからさ。ゲイにならざるを得ない体験したっていうか?」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ありあ
400
#普通
野々さくら
768
45
#幼馴染
猫塚ルイ

3,373