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つま先から頭の頂点まで強い浮遊感が襲う。
一体どの方向を向いているのか、方向という概念はあるのかすら不明である。
僕は今この暗転した空間を沈んでいるのか上がっているのか。
終わりはあるのだろうか。
徐々に視界に彩りが戻ってくる。
僕はこの場所をよく知っている。
僕の住んでいる村だ。
そこでようやく気がつく事が出来た。
これは僕の深い記憶である。
ー数年前ー
狭間優一、現在の年齢12歳。
僕が住んでいる村の外れに小学校がある。
村全体の人口が少ないためか教室には数人の他学年の生徒が楽しそうに会話している。
外を見ると、少しばかり小さめの校庭を駆け回っている同い年くらいの子もいる。
今にも倒壊しそうな木造の小学校で、どちらかと言うと小屋に近いだろう。
教室の中では何気ない会話が飛び交っている。
昨日のテレビがー。
帰って何して遊ぶー。
好きな子がー。
いかにも小学生といった会話である。
肝心の僕はと言うと、机と顔を擦り合わせている最中だ。
腕で顔を覆い突っ伏して時間が経過するのをじっと待つ。
周りも僕のことは気にしない。
これが僕の日課なのだ。
数時間経つと下校のチャイムが鳴る。
教室のスピーカーから聞こえる程度のチープなチャイムだ。
直ぐに友達同士で帰宅する者。
部活動と称して校庭でスポーツに勤しむ者。
様々な人間が存在する中、僕は1番最後に立つ。
後は学校を出て、一言も話すことの無い両親のいる家に帰るのみである。
きっと今日もラップがけしてある晩御飯が冷蔵庫に入っているのであろう。
視線を交わすことない両親であるが、僕は幸せだ。
今生活ができているのは両親がいてこそなのだから。
ガララララッ
玄関を開くといつもより静かなことに気づく。
台所の食器が擦れる音もテレビの音さえしない。
リビングに向かうと案の定誰もいないのだ。
買い物にでも行っているのであろうか。
冷蔵庫を開けてみると買い物は必要ないくらいの食料が詰め込まれている。
どうやら買い物に行ったわけでは無さそうだ。
ふと机に目を向けると置き手紙が置いてあるではないか。
親の行き先が書いてあることに期待をして紙に羅列された文字を見る。
「優一へ
ごめんなさい
私達がもっとERRORについて
教えていれば
本当にごめんなさい」
この5文だけで両親の意図、家に居ない理由が容易に想像ができた。
捨てられたのだー
理由は分からないが恐らく僕が原因だろう。
僕が記憶を無くして、初めて気がついたのは病室のベッドの上だった。
どうやら頭を打ったようで1年昏睡状態だったようだ。
元々なのか、その頃からかは定かではないが村八分をされていたのだ。
最初は両親とも会話こそはあったがそれも直ぐに終わりを告げる。
恐らく両親も精神的に参っていたのだろう。
徐々に言葉を発する事が少なくなり、ついにはお互いに干渉することがなくなっていったのだ。
僕も子供なりに覚えていることは、
怨嗟を纏った母親の目だ。
どうしても忘れられない記憶。
そして忘れたかった記憶でもある。
こういった経緯により両親は蒸発することになったのだろう。
予想していたことだ。
悲しくもなんともない。
よく見ると置き手紙の裏面が透けて見えて、どうやら文字が書いてあるようだ。
「身体に気を付けて」
そうなにか濡れたように滲んでいる。
「どうして泣いてるの」
少女の声にふと我に返る。
時計の針は22時13分を指している。
ソファにもたれかかった重い身体を起こし、大きく欠伸をする。
状況から察するに寝てしまっていたようだ。
「嫌なこと…あった?」
心配そうな顔をした少女はもう一度僕に問いかける。
目に手を当てるとたしかに濡れる感触がある。
「あれ?なんで泣いてんだろう…」
何かの夢を見ていたのだろうか。
思い出そうとしても頭にモヤがかかった様に思い出せない。
キョロキョロと申し訳なさそうに少女は目を泳がせる。
「どうしました?なにかまた割っちゃいました?」
そう悪戯げに聞いてみる。
「あっ…ちが…。」
ブンブンと両の手を振ってそれは勘違いであると涙目で否定している。
その姿が大変面白おかしく、つい笑みがこぼれてしまう。
「いじわる…。」
そう言うと少女は上目遣いをしながら怒りを含ませたうんるだ瞳を僕に向けた。
不覚にも可愛いと思ってしまった。
ファンシーに言うとドキッとしてしまった。
一瞬自分でもきもいと思ってしまったが生理現象であり、仕方の無いことだと心にしまうことにしよう。
脳内でシャッターを下ろし、煩悩をかき消す。
そうだ。
僕は目の前の少女について教えてもらおうとしていたのだった。
知らなくてはならない訳では無いが、何故がとても知りたかったのだ。
この少女は。
この少女は僕の知らない僕のことを知っている気がしたから。
んっと座ったまま背伸びをし、肩のコリを解す。
「えっと…君のこと色々と聞いてもいいですか?」
そう問いかけると少女はほうけた顔から焦点が合う。
こくり。
また首だけで反応を示す。
「わた…しは…。」
「私の名前は…。」
部屋の中が静寂に包まれている。
「あやの…だよ?」
心臓がどくんと跳ね上がる。
「覚えてる?ゆういち…。」
Part5へ。。。