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夜の空気はすっかり落ち着いていて、時計の針はもうすぐ12時を指そうとしていた。仕事終わりの疲れが体に残ったまま、2人はお風呂を済ませて歯を磨き、
照明を少し落とした寝室のベッドに潜り込んだ。
「……ふぅ。今日も一日おつかれ」
「おつかれ。なんかさ、誕生日っぽいこと、結局できなかったね」
仁人が、枕に頬を押しつけながら小さく笑う。
その横顔はどこか寂しそうで、けど無理に明るく振る舞ってるのがわかりやすかった。
「まあ、しょうがないよ。仕事あったし」
「……まあそうなんだけどさ」
布団の中で仁人がごそっと動く。
勇斗がその音に目を向けると、仁人はそっと体を寄せてきて、勇斗の腕を掴んだ。
「ねぇ」
「ん?」
「腕枕して」
ありえないくらい満面の笑みで言ってきた。あまりにも自然なトーンだったから、勇斗は一瞬聞き返しそうになった。
腕枕?腕枕痛いんだよ、朝起きたら腕びりっびりだぜ?とか思いながら思いついた言葉で返事をする。
「……腕、痛くなるから〜、、やめとく?」
「はー?無理なんだけど」
間髪入れずに返ってきた声。
いつもなら冗談まじりに「そういうの、ガキっぽくない?」とか言うのに、今日は違う。
仁人は少し唇を尖らせながら、勇斗の方を見て小さく言った。
「今日誕生日じゃん俺、わがままきいてよ」
その言葉があまりにも“お姫様”で、勇斗は思わず笑ってしまった。
「なにそれ、可愛すぎ」
「笑うな。……別に、今日くらい、いいでしょ」
「はいはい、いいよ。じゃあ、ここどうぞ仁人お姫様」
勇斗が冗談めかして腕を広げると、仁人は少し照れたように視線をそらして、
でも結局ふわりと勇斗の胸のあたりに頭を乗せた。
「こう?」
「うん」
「重くない?」
「全然」
仁人の髪の先が首筋をくすぐって、シャンプーの匂いがふわっと広がる。
静かな部屋の中に、2人の呼吸だけが重なっていく。
「幸せそうな顔してるじゃん」
「…」
「ほら、顔ゆるんでる!」
「うるさい!寝るよ、もう」
ツンとしながらも、仁人は勇斗の胸に顔を埋めて、
その声が少し震えてるのを勇斗はちゃんと感じ取った。
「お前ってさ、ほんと素直じゃないよな」
「別にいいじゃん、誕生日だし」
「はいはい、ツンデレお誕生日プリンセスちゃーん」
そう言いながら勇斗は、仁人の頭を優しく撫でた。
指先に触れる髪があったかくて、
自分の腕の上で穏やかに呼吸してるこの人が、
世界でいちばん大事な存在なんだとあらためて思う。
「……ありがと」