テラーノベル
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病室ドアの内側で話しているのだろう。
ドアを開けると、そのまま廊下からベッドが丸見えという構造にはなっていない。
だから、私から大きなスライド式ドアは見えない位置にあるのだけれど、聞き覚えのある声に、私は目を開けた。
こんな夜の時間に、何の用?
「……お国入りなんてもったいない。なんとか私たちに残させないと」
とても小さな声だった。
亡き父の妹、正子叔母さんの声だ。
叔母さんの言ったのは、お金のことだともすぐにわかった。
だって叔母さんは、父が亡くなった時
「菊一人で何億相続するのっ⁉」
と、告別式の直前に言ったような人だもの。
夫も子どももいない私が死んだら、相続人がいなくて国庫帰属になることを【もったいない】と言ったのだと思う。
「菊に遺言を書かせたらいいじゃん、ってことを母さんは言いたいんだろ?」
――ああ、コイツも一緒に来ているのか
木野山正子の息子、敬。
私の従姉妹で、同じ23歳。
大学卒業後も働かずに、ふらふらとバイト生活をしている男だ。
ちなみに、バイトを休んだ私はまだ大学生だ。
大学受験時に、日本か国外か、進学先を迷ったため一浪した。
その一年で、英米両国で短期語学留学を経験して、結局日本で進学した。
もう就職先も決まっている。
「葬式の日のように言うのはダメだよ、姉さん。菊ちゃんに、ちゃんといくらか分配してと言っ…」
「あなたは一ノ瀬なんだから、しっかりしなさい、武夫」
父の弟、末っ子の武夫叔父さんもいたのね。
今の声の様子じゃ、正子叔母さんに引っ張り出されたのかもしれない。
検査入院の連絡が病院からあったとしか思えないね。
私は連絡していない。
でも、ここは父の入院していた病院で、叔父や叔母の連絡先は残っているのだろう。
お見舞いではなく…静かな密談。
――検査入院のお見舞いなんて、常識外れだね
私がそう思った時、小声のまま叔母さんの音色が変わった。
「半年から一年だって。好都合じゃない」
コメント
1件
うわっ!そんなに相続したんだ! それはこの叔母叔父に従兄弟…喉から手が出るほど欲しいわよねぇ。自分達と同じ血が流れて兄が残した財産。自分達にも権利があるって… そんなコソコソしてないで時期をみてきちんと菊ちゃんと話し合えばいいんじゃないの?いやらしい。 でも半年から一年って…菊ちゃんの余命? そんなに重症なの?先ずは菊ちゃんの身体の心配じゃないの?