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〜♪
真夜中、眠れなくて電話を掛けた。
夜には魔物がいる。
考えたくないこと。
考えても仕方のないこと。
嫌な思考に頭がいっぱいになる。
…声が聞きたい。
「ん…もしもし?」
寝起きのいつもより低くて少し掠れた声が耳に伝わる。
「寝てたよね…ごめん。」
「大丈夫だよ。どうしたの?」
「ごめんね…声が聞きたくて。」
「謝らないで?僕も元貴の声聞きたかったよ。」
普通なら寝てるところを叩き起こされたのだから不機嫌になるはずなのに、声の主はいつもの優しい声でぼくを気遣ってくれる。
「なにか話たいことあったら聞くよ?」
「…。」
さっきからずっとぐるぐる考えている事。
起こってもいない事を考えて不安になって、悲しくなって、寂しくなって、孤独を感じて。
わざわざ夜中に叩き起こして言う事でもないのに…
流石に呆れられてしまいそう。
「大丈夫だから話してみて?」
今、彼がここに居たら優しく抱きしめてくれているのだろうか?
それとも頭を優しく撫でてくれる?
「…もし、」
「うん。」
「もし、ぼく達の事が沢山の人にバレたら…ぼく達はどうなっちゃうかって考えた事ある?」
自分で言ってても、本当に仕様もない話だと思う。
起こってもない事を不安だと嘆くだなんて。
彼はなんて答えるだろうか?
この夜の闇に染まったような思考に光を差してくれたらいいのに…
「あるけど…何も変わらないかなって。」
「…え?」
「だって、ぼくが元貴の事好きって事実は何があっても変わらないし、元貴がぼくの事好きって気持ちも変わらないでしょ?」
「それは…もちろんそうだけど…」
「よかった〜。違うって言われたらどうしようかと思った!」
あははっと冗談ぽく電話の向こうで笑う彼。
「だからどんな状況になっても、大丈夫だと思ってるよ。…あ!でも、ひとつだけ…」
「…なに?」
「元貴は僕の恋人です!てマウント取れるのは嬉しいかもっ。」
「も〜、真剣に聞いてるのに。」
そう言いながらも、あまりにも仕様もない答えに、ぼくもいつの間にか彼につられて笑ってしまっていた。
「元気出たみたいでよかった。」
「…うん、ありがと。」
「一人で大丈夫そ?」
「……うん。 」
「本当に?」
「……ううん。」
「よかった〜。」
え?と思う同時に、両耳からガチャッと玄関のドアが開く音がした。
慌てて寝室から顔を出すと…
「ごめん、会いたくて来ちゃった。」
視線の先には、恥ずかしそうに笑う彼。
夜の魔物が消えていく。
「っ涼ちゃん!」
靴を脱いでいる涼ちゃんの背中にギュッと抱きついた。
「ごめん〜、めっちゃ髪の毛ボサボサなの。」
ぼくに起こされて直ぐに家を出てくれたんだろう。
寝癖がついた髪に、服は少しよれている見慣れた部屋着だった。
確かに、普段色んな人が見てるかっこいい涼ちゃんではないけど、ぼくにとっては今が一番かっこいい。
「…かっこいいよ。」
ぼくがそう言うと、うそだー!と笑う涼ちゃん。
分かってるよ。
あえて魔の抜けた答えをくれたことも、
来てくれたのはぼくの為だってことも。
「大好き。」
「わ!嬉しい!今日はデレ貴なの?」
わざとふざけた事を言ってるってことも。
ぼくを気遣ってにこにこしてくれていることも。
「うん、デレ貴かも。」
だからその調子に乗ってあげる。
夜の魔物を退治してくれたお礼。
「さ、玄関に居たら冷えちゃうからベッド戻ろ?」
涼ちゃんに手を引かれて寝室に戻っていく。
さっきまで孤独だった空間。
涼ちゃんは先にベッドに入ると、ここが元貴の場所だよと自分のすぐ横をポンポンと叩いた。
「一緒に寝よ。」
ぼくは軽く頷き、指定された場所に潜り込む。
「元貴はあったかいね。」
腕枕されている方の手でぼくの背中を引き寄せ、もう片方の手でぼくの頭を優しく撫でる。
ぼくは、涼ちゃんの首元に顔を埋めた。
匂い、体温、鼓動。
ああ、この人を好きになってよかったと全身で感じる。
「おやすみ。」
「うん、おやすみ。」
目を閉じるとまた暗闇が広がる。
だけど、もう孤独じゃない。
優しい寝息を聞きながら眠りついた。
-fin-