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王立魔法学院へ皆が入学してから、半年が経った。
季節は巡り、王都には柔らかな春の気配が戻ってきている。
けれど――私の胸の奥には、ずっと変わらない感覚があった。
(……静かだな)
訓練後の中庭。
風に揺れる木々を眺めながら、私は小さく息を吐いた。
毎日、魔力制御の練習をしている。
光も、闇も、以前よりずっと安定してきた。
それなのに。
(前は、いつも誰かがいたのに)
ユリウスお兄様。
レオンハルト。
エリオス、セレス、カイ、ノア。
賑やかで、うるさくて、
でも、当たり前だった日常。
今は手紙で近況を知ることはできても、
隣にいるわけじゃない。
「……会いたいな」
思わず零れた声は、風に溶けた。
――――――――――
その日の午後。
王宮に呼ばれ、私は王と王妃の前に座っていた。
「最近、少し元気がないようだね」
王が、穏やかな声で言う。
「……はい」
否定はできなかった。
王妃は優しく微笑み、私の手を取る。
「寂しいのよね。皆が学院へ行ってしまって」
胸の奥を、正確に言い当てられた気がした。
「でも、それは悪いことじゃないわ」
王妃は続ける。
「大切な人を想う気持ちがあるということだから」
王が頷き、話題を変えた。
「ところで、ルクシア。もうすぐ王都で魔術大会が開かれるのは知っているかな」
「……魔術大会?」
「ああ。学園主催のものだ」
王は説明を続ける。
「部門は二つ。学生の部と、一般の部」
「一般の部……?」
「年齢や身分を問わず、魔術を扱える者なら誰でも出場できる」
私は思わず身を乗り出した。
「そして――」
王は、少しだけ表情を和らげた。
「一般の部で優勝した者には、特例が与えられる」
「特例……?」
「次の年の四月から、年齢に関係なく王立魔法学院へ入学する権利だ」
――その瞬間。
胸の奥が、強く跳ねた。
(学院……)
ユリウスたちがいる場所。
レオンハルトが学んでいる場所。
「もちろん、簡単ではない」
王は念を押す。
「実力者が集まる。危険もある」
「ですが」
王妃が、静かに言葉を継いだ。
「あなたなら、きっと制御できる」
優しい眼差しが、まっすぐ私を見つめている。
「無理にとは言わないわ。でも……」
王妃は、そっと微笑んだ。
「もし、少しでも“近づきたい”と思うなら。
挑戦する価値は、あると思うの」
私は、膝の上で手を握りしめた。
(……私が、学院に)
まだ十二歳。
本来なら、入学まではあと四年。
でも。
(会いたい)
一緒に学びたい。
同じ景色を見たい。
守られるだけじゃなく、
並びたい。
「……出てみたいです」
声は、思ったよりもしっかりしていた。
「一般の部に」
王は、満足そうに頷く。
「いい目だ」
王妃は、私の手を強く握った。
「準備は、万全にしましょう」
その瞬間、胸の奥で光が静かに灯る。
闇もまた、穏やかに応えた。
――魔術大会。
それは、ただの競技じゃない。
離れていた距離を、
一歩、縮めるための舞台。
未来へと繋がる、挑戦の始まりだった。