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秘密の同居～アイドルの禁じられた恋～m×r～
Side目黒
「一緒に住まない？」
「え、えぇ…」
この会話は俺の想定内だったけれど、返事の素早さは予想外だった。
小さく息を吐いて、俺はテーブルを挟んで向かいに座っているラウールを改めて見た。頬杖を突いて、ラウールはいつものように人懐っこい笑顔を浮かべながら、飲み物についているストローを掻き回している。
アイスコーヒーの氷が、カランカランと音を立てて踊っていた。
二人は事務所近くのカフェにいた。今日は珍しく二人だけの時間が取れて、こうして向かい合って座っている。窓の外では夕日が沈みかけていて、オレンジ色の光がラウールの横顔を照らしていた。
付き合い始めて半年。俺たちはまだ、それぞれの家で暮らしている。でも、俺はもっとラウールと時間を過ごしたいんだ。朝起きた時にラウールの顔が見たいし、夜寝る前にラウールの声が聞きたい。
「何が嫌なの？」
俺の優しい問いかけに、ラウールは頬杖をやめて、背もたれに思い切り背中を預けた。それからちょっと困ったような顔で俺を見る。
「めめはさ、そんなに掃除しないでしょ？そしたら結局俺が掃除することになるじゃない？疲れて帰ってきて、二人分のご飯作るのだって大変だしね」
ラウールはグラスについている結露を気にもせずに掴むと、音を立てるように勢いよく飲んだ。黒い液体はあっという間になくなり、氷だけがカラカラと音を残す。
でも、俺には分かった。それは建前だ。付き合って半年、ラウールの表情の変化は手に取るように分かる。ラウールの瞳の奥に、何か別の感情が見え隠れしている。
空のグラスをテーブルに戻すと、ラウールは前に身体を戻して、テーブルに両腕を乗せて組んだ。そして、いつものように人懐っこく笑いながら、俺の目をじっと見つめてくる。でも、その笑顔の奥に何か複雑な感情が見え隠れしているのを、俺は見逃さなかった。
「そんな理由だと思ってるでしょ？」
図星だった。
僅かに動揺した俺だったけれど、すんなり事が運ぶなどとは思っていない。ラウールは慎重な性格だ。特に、俺たちの関係については。
「じゃあ、俺が掃除と洗濯をするなら一緒に住める？料理も俺が絶対作るから」
この台詞にラウールは目を丸くする。まるで猫のようだと、俺は思った。付き合い始めてから、ラウールの色んな表情を見ることができるようになった。
「めめが家事の一切をするって事？」
「うん。ラウールのご希望通りにね」
「…俺厳しいよ？」
ラウールがクスッと笑う。でも、すぐに表情を戻した。
「でも、やっぱり嫌だな」
「どうして？」
俺が問い詰めると、ラウールは視線を逸らした。
「理由なんて別にないよ。なんとなく」
「なんとなく？」
「うん、なんとなく」
ラウールの声が少し震えているのに俺は気づいた。恋人になってから、ラウールのこういう時の癖も分かるようになった。何か大切なことを隠している時、ラウールは必ず視線を逸らして、声が震える。
「ラウール、俺たち恋人でしょ？隠し事はよくないよ」
俺が優しく言うと、ラウールの頬が赤くなった。
「隠し事じゃないよ。ただ…」
「ただ？」
「まだ心の整理がついてないんだ」
ラウールがようやく本音を漏らした。
「心の整理？」
「一緒に住むってことは、今までとは全然違うじゃない。恋人として本格的に一歩踏み出すってことでしょ？」
ラウールの瞳が真剣になった。
「それの何が問題なの？」
「めめは覚悟できてるの？俺と本格的に恋人として暮らしていくこと」
ラウールの問いに、俺は一瞬言葉に詰まった。
「覚悟って…」
「毎日一緒にいて、喧嘩もするだろうし、お互いの嫌なところも見えるだろうし、それでも一緒にいられるのかなって」
ラウールの声には不安が滲んでいた。
「俺は一緒にいたいから提案してるんだよ」
「でも、実際に住んでみて、やっぱり無理だったってなったら？」
「そんなことないよ」
「分からないじゃない、まだ」
ラウールの不安が俺にも伝わってきた。確かに、一緒に住むというのは大きな変化だ。今までは週末に泊まり合うくらいだったのが、毎日顔を合わせることになる。
「分かった。また今度聞くよ」
俺がそう言うと、ラウールはホッとしたような表情を見せた。
「ありがとう、めめ」
「でも、諦めないからね」
「え？」
「一緒に住むこと。俺は諦めない」
ラウールの頬が少し赤くなった。
「…しつこいね、めめは」
「ラウールのことになると、しつこくなっちゃう」
俺がラウールの手に自分の手を重ねると、ラウールは困ったような顔をした。
「もう、めめは…」
でも、ラウールは俺の手を振り払わなかった。
その後、二人は他愛のない話をして、それぞれ家に帰った。でも、俺の心にはモヤモヤとしたものが残っていた。
ラウールの不安を取り除くには、どうしたらいいのだろう。
―――――――――――
翌日、俺は阿部に相談することにした。
撮影の合間、控室で三人でいた時に、俺は意を決して口を開いた。
「阿部ちゃん、ちょっと相談があるんだけど」
「なになに？めめらしくないね、そんなに真剣な顔して」
阿部ちゃんは優しく微笑みながら、俺の隣に座った。ラウールは少し離れたソファで台本を読んでいる。
「実は…ラウールと一緒に住みたいって提案したんだけど、断られちゃって」
「へぇ、そうなんだ。理由は聞いた？」
「掃除とか家事のことを言ってたけど、なんか違う気がするんだ」
俺は昨日のカフェでのやり取りを詳しく阿部ちゃんに話した。ラウールの表情、声の震え、視線を逸らしたこと、覚悟について言われたこと、全て。
阿部ちゃんは最後まで黙って聞いてくれた。時々、ラウールの方をチラッと見ながら。
「なるほどね」
「どう思う？」
「ラウールの気持ち、なんとなく分かるよ」
阿部ちゃんの言葉に、俺は眉をひそめた。
「どういうこと？」
「ラウールって、めめのことをすごく大切に思ってるでしょ？」
「うん、そう思う」
「だから慎重になってるんじゃないかな。一緒に住んで、もし上手くいかなかったら、今の関係も失っちゃうかもしれないって」
俺はハッとした。確かに、ラウールは慎重な性格だ。特に大切なものに関しては。
「でも、俺はラウールとの関係が壊れるなんて思ってないよ」
「めめはそうでも、ラウールは不安なんだと思うよ」
阿部ちゃんが優しく俺の肩を叩く。
「ラウールは、めめとの関係を本当に大切にしてるからこそ、失敗したくないんだろうね」
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作者名「木結」（雪だるまアイコン）でご検索ください。
※おまけ小説（18歳以上推奨）も収録しております。
閲覧の際は、年齢とご体調に応じてご自身のご判断でご覧ください。
