保「はぁ、はぁ」
 
 昨日の夜は寝つきが悪かった。
 
 出張で有明に寝泊まりが決まっており、慣れない場所だから、と思うかもしれないが、そうでは無い。
 隊長クラスの人物は個室が設けられ、更に同部隊でない僕は客としての扱いを受けるため、プライベートに関しては重々に配慮がされている。
基地としての造りも立川と大差はない。
 寝具も高級とまではいかないが、それなりにいいものが用意されている。
 まぁ、大きな要因としては、今目の前にいる人物が関係しているだろう。
 
 
 保(涼しい顔しよって)
 
 
 ナンバーズを着ての実戦訓練。
 いくら隊長と言っても保科だって副隊長として申し分ない強さを示している。
 
 それなりに力を使うはずだが、目の前にいる男は汗ひとつかかず涼しい顔をしながら立っていた。
 
 
 鳴「今日はここまでだ」
 
 保「…」
 鳴「動きはなかなか悪くなかったぞ」
 
 保「、ありがとうございました」
 
 
 いつもゲームに明け暮れている人と、同一人物か疑うほどに、彼の存在は大きく、まさに雲の上の存在だった。
 
 周りからは天才と称(たた)えられ、その才能はまさに鬼才と呼べるだろう。
 
 
 
 
 
 
 
 保「…さすがやな」
 
 
 鳴海隊長が姿を消したのを確認してから、武器を置き、地面に尻を着けた。
 テレビや共同討伐の時に、戦う姿を見るたび、すごいと思った。
 
 それがこうやって1戦を混じえたことで、どれだけの凄さなのか、身をもって体験できた。
 
 
 
 
 
 
 天才。
 
 それだけ聞けばそれまでだ。
 僕も、あの人は天才だと思う。
 
 だがそれだけではない。
 多くの隊員がそうだ。
亜白隊長でも、四ノ宮長官であっても、才能を持ちながら、それに理由を付けず、努力を惜しまない。
 
 もちろん、鳴海隊長も例外ではない。
 ずば抜けた才能があるのは事実だが、才能だけで第1部隊隊長に着くなど、それこそ神業とも言えよう。
 
 あの人も、絶え間ない努力をしてきたのだ。
 今彼の立っている場所は間違いなく、自分で掴んだ努力の証だろう。
 
 
 
 
 
 だからこそ、嬉しかった。
 そんな人に、僕の力が認められたことが。
 
 
 本当にそれだけだった。
たったこれだけで、僕は、鳴海弦という男に、未だかつて無い感情を、向けることになったのだ。
 
 
 
 
 
 自分の恋心が、こんなにも黒いのは、それだけ、己の努力が、力が、執着とも言えるほど醜いものだからだろう。
 
 諦めろと、何度も、何度も言われて、それでも諦めきれずに、副隊長の座に着いた。
 初めて僕を認めてくれた亜白隊長に、少しでも恩を返したくて、第1部隊への移動は断ったが、彼の存在は、明らかに僕に光を差してくれた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 保(ごめんなぁ)
 
 鳴海さん、、あなたに、こんな気持ちを向けてしまったこと。
 僕は、あなたの近くに、いない方がいいのかもしれない。
 
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