意識が遠のいていく――。
だが、“逃れたい”という一心だけが、僕を無理やり現実へ引き戻した。
肺の奥から、空気が荒く漏れる。
「ッ……はぁ、はぁっ……!」
視界がぐらぐらと揺れ、世界が歪む。
足首に鋭い痛みが走った。
どうやら落ちた拍子に、捻ってしまったらしい。
それでも、止まるわけにはいかなかった。
腕で地面を支え、這うようにしてその場を離れる。
背後から、風を裂くように彼の声が響く。
「晴明くん、待ってください! 危ないですよ……!」
その声は、まるで心底心配しているように聞こえた。
けれど――僕には、それが何よりも恐ろしかった。
視界の端に、民家が見える。
痛みに耐えながら、足を引きずってそこへ向かった。
膝も肘も擦りむけ、血が滲む。
寒さと痛みで全身が震えていた。
「……にげ、ないと……」
無理矢理足を動かした。
だが、突然足場がグラッと崩れた。
『うぁッ………』
どうやら転んでしまったようだ、
身体が再び地面に叩きつけられ、世界が音を失う。
静寂の中、遠くで聞こえる足音だけが近づいてきた。
「……どうして逃げるんですか」
その声は静かで、どこか悲しげだった。
気づけば、目の前に彼の靴がある。
――いつの間にか、追いつかれていた。
「やめて……来ないで……」
掠れた声で叫んでも、彼は止まらなかった。
代わりに膝をつき、優しく僕を抱き起こす。
「そんなに震えて……痛かったでしょう?」
手のひらが頬に触れた。
その手は驚くほど温かくて、
だからこそ、ぞっとするほど冷たかった。
「どうして逃げるんですか、晴明くん。
私は、ただ……あなたを守りたかっただけなのに」
その瞳には涙が滲んでいた。
本当に悲しそうな顔――けれど、そこに理性の光はなかった。
「離してっ……!」
掴まれた腕を必死に振り払おうとする。
だが、力の差は歴然だった。
「大丈夫です。もう逃げなくていいんですよ」
その言葉と同時に、何かが口に押し当てられる。
甘い香り――。
視界がぼやけ、身体の力が抜けていく。
「また……閉じ込めるの……?」
消えゆく意識の中で、そう呟く僕に、
彼は微笑みながら答えた。
「閉じ込めるんじゃありません。
……帰るんです。私たちの場所へ」
遠くで、風が鳴いた。
それは、自由の音にも似ていたけれど――
もう、僕には届かなかった。
なんか分からなくなってきた……
つらたん。
コメント
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デーモンハンターズ見ながらお送り致しますいつもどうり作品は最高です
続きが気になりすぎて 夜しか眠れない(?
私もこの続き全然わからん