テラーノベル
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スタジオの床に、夕方の光が斜めに差し込んでいた。アンプのランプが静かに光っていて、空気は少しだけ張りつめている。
「……よし、もう一回いこ」
もとの声で、音が重なる。
ひろのギター、りょかのキーボード、そしてドラムのリズム。
新曲は、今までよりも少しだけ柔らかくて、あたたかい。
歌い終わったあと、しばらく誰も喋らなかった。
「……これさ」
沈黙を破ったのは、ひろだった。
「分かる人には、秒で分かるよね」
りょかは鍵盤から手を離して、くすっと笑う。
「でもさ、
〇〇にしか分からないようにしてあるのがポイントでしょ」
もとは何も言わず、歌詞カードを指でなぞっていた。
そこに並んでいる言葉は、どれも〇〇との日常のかけら。
朝の匂い。
袖に残る温度。
名前を呼ばなくても伝わる合図。
「……うん」
もとは小さく頷いた。
「バレてもいい。
でも、〇〇に最初に届けば、それでいい」
その一言で、新曲は決まった。
***
数日後。
新曲配信当日。
〇〇は一人、部屋でスマホを握っていた。
通知欄には「新曲リリース」の文字。
「……聴こ」
イヤホンを耳に差し込んで、再生ボタンを押す。
流れてきたイントロだけで、胸がきゅっとなる。
優しくて、どこか懐かしい音。
歌詞が進むにつれて、〇〇の表情が変わっていく。
「……え?」
一文一文が、心に引っかかる。
——この言い回し
——このリズム
——この景色
全部、知ってる。
「……ちょっと待って」
思わずイヤホンを外して、また再生する。
でも、何度聴いても同じ。
「……これ、私じゃん」
顔が一気に熱くなる。
誰に言われたわけでもないのに、確信があった。
そのタイミングで、リビングから声がした。
「〇〇〜」
「新曲聴いた?」
「感想ききたーい」
3人とも、妙にテンションが軽い。
〇〇は一呼吸おいて、リビングへ向かった。
「……聴いたよ」
ソファに座っていたもとが、何でもなさそうに聞く。
「どうだった?」
〇〇はじっともとを見る。
「……なんかさ」
言葉を選びながら、少し間をあけて。
「すごく、身近な曲だなーって」
ひろがすぐ反応する。
「お、鋭いね」
りょかもにこにこしながら言う。
「分かる?
そういう人に向けた曲かも」
〇〇は視線をもとに戻す。
「……ねえ。
これ、私のこと?」
一瞬、空気が止まる。
もとは少しだけ目を丸くしてから、すぐにとぼけた笑顔を作った。
「え?」
「なんのことかなー?」
語尾が軽くて、わざとらしいくらい自然。
でも、ほんの少しだけ耳が赤い。
「え、違うの?」
〇〇が詰め寄ると、
「うん、全然?」
もとは肩をすくめる。
「たまたまじゃない?
よくある歌詞だよ」
〇〇は一拍置いて、じわじわ怒りが込み上げる。
「……たまたまで」
指を折りながら言う。
「私の口癖と、
好きな匂いと、
一緒に帰る時の歩幅と、
全部合うことある??」
「あるかもしれないじゃん」
もとは笑って流そうとする。
「偶然、偶然」
その瞬間——
「もー!!」
〇〇はクッションを掴んで、もとに投げた。
「絶対わざと!!
しかも〇〇にしか分からないとか、
一番ずるいやつじゃん!!」
ひろは腹を抱えて笑う。
「ほら、怒った」
りょかも楽しそう。
「照れてるだけだよね」
もとはクッションを受け止めて、少しだけ黙ったあと、柔らかく笑った。
「……ばれた?」
その一言で、〇〇の心臓が跳ねる。
「やっぱりじゃん……」
〇〇がそう呟くと、もとは立ち上がって、そっと頭に手を置いた。
「〇〇にだけ、分かればよかった」
低くて、優しい声。
「この曲さ、
〇〇がいなかったら、できてない」
〇〇は何も言えなくなって、顔を伏せた。
「……ばか」
小さく、でもちゃんと笑って。
「でも、嬉しい」
その言葉に、3人の表情が一気にほどけた。
——私だけが分かる、この曲。
——私だけに向けられた、匂わせ。
イヤホンから流れるメロディは、
その日から〇〇にとって、
世界で一番甘い曲になった。
できました!まめつぶさん?だったかな?初リクエストありがと!!
コメント
9件
ごめん、 35話のリクエスト見た? 出来ればやって欲しいです!
1番? やった〜(*^^*)
まじで神!