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もう一つの姿を現した少女、バッシュ・トライアングル
牛の魔物の姿の魔獣となってリオンに襲い掛かる。
それを見て逃げ出す人々。
そんな中、彼らとは逆に試合会場に入ってくる者がいた。
それは…
「しまった!遅かったか!?」
そう言ってはいってきたのは、ガ―レットの屋敷にバッシュと共にいた少女。
ミドリだった。
なにやら事情を知ってそうだ。
そう思ったロゼッタは彼女に話しかけた。
「キミは確か、ガ―レットの奴と一緒にいた…?」
「あたしはミドリ。別にあの男のことが好きなわけじゃ…」
「何か知っているのかい?」
「ああ、まあね」
このミドリという少女は、独自にバッシュを追っていたらしい。
魔物の姿を持つというバッシュを。
しかしミドリには、はっきりとした確証が無かった。
バッシュがなかなかその証拠を出さなかったからだ。
結果、対応が後手に回ってしまったという訳だ。
「なるほどね」
「こんなことなら、もっと早く行動しておけば…」
ガ―レットの屋敷に潜り込み、バッシュを監視し続けた。
しかしそんな努力も無駄になってしまった。
自責の念と後悔に駆られるミドリ。
だが…
「まあそう自分を責めるな」
そう言うロゼッタ。
彼女は視線を試合会場で戦うリオンと魔獣バッシュに向ける。
戦闘の中、魔獣バッシュに噛みつかれたリオン。
リオンは噛みつかれたまま、魔獣バッシュを地面に叩きつけた!
「今あそこで戦ってるのは、私の弟子でね」
「あなたの…?」
「なかなかいい勝負をしている」
「はあ」
「少し見守ろうじゃないか」
背中に強い衝撃を受け、耐えられず口を離してしまった。
そしてそれと共に、すかさずその顔に拳を叩きこんだ。
牙が砕け、口から血を吐く魔獣バッシュ。
『ぐッ…お前…!』
その衝撃に耐え切れず、倒れ込む魔獣バッシュ。
だがリオンはその隙を見逃さなかった。
素早く懐に入り込み、渾身のアッパーを放つ。
『うぐッ…』
「はぁ…はぁ…」
苦しそうにしながらも、なおも戦意を失わないリオン。
しかしそれでも立っているのがやっとの様子だ。
あと一撃で倒せるかもしれない。
そう考えた魔獣バッシュは拳を構える。
『これで終わらせてやる!』
そう言って飛び掛かる魔獣バッシュ。
それに対し、リオンもまた走り出した。
二人の距離が一気に縮まり、ぶつかり合うその直前…
リオンは一瞬だけ動きを止め、魔獣バッシュの攻撃を避ける。
そしてカウンターを放った。
『ガッ!?』
カウンターをまともに受けてしまう魔獣バッシュ。
だがそれで怯むことなく、今度は蹴りを入れてくる。
「うぐッ…」
腹部に直撃してしまい、リオンは後ろによろめいた。
そこに追い打ちをかけようと、魔獣バッシュが襲い掛かってくる。
だがリオンは慌てる様子もなく、静かに構えた。
「ここだ…」
そう呟き、タイミングを見計らう。
魔獣バッシュが拳を振るってきた瞬間、リオンは拳を繰り出した。
『なにッ!?』
拳が魔獣バッシュの胸にめり込む。
そのまま魔獣バッシュの身体を吹き飛ばし、地面に激突させた。
『何故だ…』
「なにがだ?」
『そこまでして何故戦うんだ…』
倒れながら訊ねてくる魔獣バッシュ。
リオンはそれに答えるように言った。
「俺には仲間がいるから。守りたい人達がいるから。だから俺は戦い続ける。大切なものを守るために…」
『大切なものか、さっきの奴らとキョウナのヤツか』
「まあね」
『そうか、だからキョウナのヤツは食事に…ふふふ…』
小声で何かを呟くバッシュ。
よくは聞こえなかったが、キョウナのことについてだろうか。
しかしそれに気を取られてはいけない。
リオンは警戒を怠らない。
『それがお前の強さの秘密ってわけか』
「ああ…」
『なら最後にもう一つ教えてくれないか?』
「なんだ?」
『お前は何者だ?』
「俺の名前はリオン。ただのしがない冒険者だよ」
そう答え、リオンは再び拳を構えた。
それを見た魔獣バッシュも起き上がり、同じく拳を構え直す。
そして二人は同時に飛び出した。
互いの拳が交差する。
『がッ…』
「くっ…」
『や、やはりこの姿では長く持たないか』
魔獣バッシュは自分の限界が近いことを察した。
なにしろ久々の変身だ。
上手く体が慣れ切っていない。
だから決着をつけるべく、全力で走る。
対するリオンも迎え撃つため、構えなおす。
両者の間合いがゼロになる。
魔獣バッシュの渾身の一撃を受け止める。
「これで終いだぁああ!!」
「まだ終わってない!」
最後の力を振り絞り、拳を放つ。
魔獣バッシュの顔面にクリーンヒット。
倒れたのは魔獣バッシュの方だった。
『クッ…まだ、終わってないぞ…!』
フラつきながらも立ち上がる魔獣バッシュ。
人間体の『バッシュ・トライアングル』として長い時間を過ごしていた。
そのせいで『魔獣バッシュ』としての身体に慣れ切っていないのだ。
一方のリオン。
体力の限界なのか立つことも出来ずにいた。
しかし目は死んでいない。
最後の力を振り絞り駆け出すと、渾身の一撃を放つべく拳を握り締めた。
「うおおお!!」
叫び声を上げ、拳を突きだすリオン。
対する魔獣バッシュは避けようとするが、もはや間に合わない。
リオンの拳は魔獣バッシュの胸に直撃した。
「これで終わりだ!」
『があああああ!!!』
魔獣バッシュの絶叫。
直撃し、大きく吹き飛ぶ魔獣バッシュ。
空中で体勢を立てなおすことができず、そのまま落下する。
大きな音を立てて倒れ伏す。
ピクリとも動かない。
審判は慌てて魔獣バッシュの元へと駆け寄る。
どうやら気絶しているようだ。
「勝者!リオン選手!」
勝利宣言が、人のいなくなった試合会場に響き渡る。
「やった!勝ったわよ!リオンさんが勝った!」
「ああっ…!よくやったな…!」
観客席に残っていたアリスとシルヴィ。
その二人がハイタッチを交わす。
「すごいです…まさかあの魔獣を倒しちゃうなんて…」
「まあ当然といえば当然さ。だって彼は…ふふっ」
そんな二人を見て、嬉しそうに微笑むロゼッタ。
そして、当の本人であるリオンはというと…
気を失い、その場に倒れていた。
リオンと魔獣バッシュ、そのどちらが勝ってもおかしくなかった。
いや、もしかすると相打ちになっていたかもしれない。
それほどまでに二人の力は拮抗していた。
だが勝負を制したのはリオンだ。
それが現実。
「リオンさん!」
アリスがリオンの元に駆け寄る。
他の皆もそれに続き、彼のもとへ集まった。
「リオンさん、大丈夫ですか!?」
心配そうな表情を浮かべるアリス。
彼女の呼びかけに対し、リオンは小さく返事をした。
「うぅん…」
「よかった…」
ホッとした様子を見せる一同。
だがその直後、リオンは苦しそうに咳き込んだ。
口元を押さえると、そこには赤い血がべっとりとくっついていた。
口の中を何か所か切ってしまっているようだ。
試合中は気が張っていたせいか、全く気が付かなかった。
「リオン君、無理はしない方がいい。医務室まで運ぶから君は安静にしているんだ」
「はい…」
「立てるかい?」
「なんとか…大丈夫だと思います」
アリスとシルヴィの肩を借り、何とか立ち上がるリオン。
丁度そこに、審判が読んできた救護班が到着した。
一方、ロゼッタは別のことを考えていた。
彼女はミドリと共に、倒れたバッシュを見ていた。
と、その時…
「う、うぅ…」
魔獣バッシュが姿を変え、試合前の姿に戻っていく。
人間の少女、バッシュ・トライアングルの姿に。
あれ以上、魔獣としての姿を維持するのは不可能だったらしい。
「く、があ…」
「おっと、動くなよ。今の私でもお前を止めるくらいはできるからな」
そう言いながら、仕込み杖の刃をバッシュに見せつけるロゼッタ。
余計なことをする前に捕縛する。
そう考えるロゼッタ。
「バッシュ!?」
「もう起きたかっ…!」
アリスとシルヴィが叫ぶ。
とはいえ、あれだけの傷を負っているのだ。
バッシュも妙なことは出来ないだろう。
そう考えていた。
しかし…
「…」
「なにッ!?」
小声で何かを呟くバッシュ。
ロゼッタがそれを聞き、驚嘆の声をあげる。
彼女の表情が、徐々に青ざめていく。
そして…
「ははははは…はははははッ!」
狂ったように笑い始めるバッシュ。
これには流石に動揺を隠しきれない。
一体何があったのか?
何故笑っているのか?
その理由はすぐに判明した。
バッシュの身体に変化が起きはじめた。
「まずい!」
それを見たロゼッタが叫ぶ。
バッシュの身体は先ほどの戦いでボロボロ。
ここで捕縛されるくらいならば…
そう考えたのだろう…
「一体何が!?」
「こいつ、魔力を体内で暴走させて…!?」
「つまりどういう…」
「爆発する!」
ロゼッタの声を聞き、その場にいた者達が全員いっせいに逃げ出した。
傷の痛みも忘れ、リオンが駆けだす。
アリスも、倒れたメリーランを抱えながら。
シルヴィとミドリもロゼッタとともに。
「医療班の皆さん、審判さんも!」
シルヴィの声を聞き、医療班と審判も逃げ出した。
バッシュは変わらず笑い続けている。
そして次の瞬間…
大きな音を立て大爆発が起きた。
轟音が鳴り響き、爆風が辺り一帯を襲う。
爆風で吹き飛ばされる会場、地面から剥がされ吹き飛ばされる石畳。
幸い死者は出なかったものの、会場はほぼ全壊。
その後、大会運営側が事態を把握した頃には全てが終わっていた…