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「アレス……逃げろ……」


あの時の自分とは違う。俺は強くなったはずだ。今度こそ守れる――その想いは、無惨にも打ち砕かれた。


「が……!」


敵が師匠の胸に突き立てた腕を引き抜く。師匠の口からは大量の血が吐き出され、胸からも赤い筋が流れ落ちていく。


「うわあああああああ!!」


混乱して何が起こっているのか理解できていない。それでも、ただ一つ、こいつを絶対に殺さなければならないという衝動だけが俺を突き動かした。俺は立ち上がり、剣を握りしめて敵に斬りかかる。


だが、その攻撃はあまりにもあっさりといなされた。剣を振り抜いた隙を突かれ、まず鳩尾に一発、体が宙に浮いた瞬間、顔面に続けざまに二発の拳が叩き込まれる。


視界が真っ暗になり、意識が遠のいていく。ここで倒れるわけにはいかないと必死に抗おうとするが、体は言うことを聞かなかった。


最後に見えたのは、寂しげな表情を浮かべる師匠の顔だった――そして俺の意識は途絶えた。




----------------




「……はっ!」


目が覚め、辺りを見渡す。先程まであんなに激しい死闘が繰り広げられたのがまるで嘘のように風景は静かで、穏やかだった。


……ただ一箇所を除いて。


そこには胸に穴が空き、右肩から先が失われた師匠の死体が横たわっていた。


「あ……ぐぁ……か」


俺は言葉にならない声を上げた。頭の中が誰に掻き乱されるような感覚に襲われる。


「うおええええええ」


吐いた。どうしようもない絶望と悲しみが俺を押しつぶす。


これで三度目だ。俺は結局、大切なものを何一つ守れなかった。いや、守るどころか俺のせいで師匠は死んだ。何も成長していない。ただの修行ごっこだったのだ。


「はは……はははあああははははははははは!」


壊れた。完全に、心が。俺は泣きながら笑い続けた。


「結局!ははっ……なんも意味なかったな!なんだったんだよ!あははははは!」


俺は数分間涙を流しながら笑い続けていた。


「はは……はぁ……」


やがて、笑い疲れた頃だ。ふと、こんな考えがよぎった。もう、どうでもいい。俺には何も残されていない。死のう。そう思い、近くに落ちていた俺の剣を手に取り、首に充てがった。


力を込めると、剣の刃が首に食い込む。少量の血が滲み、鈍い痛みを感じた。


だが、俺はそこで手を止めた。いや、止めたというより止めてしまった。


「くそっ……何なんだよ…… 」


別に父さんや師匠を思い出したわけではない。復讐の念に駆られたわけでもない。


ただ、死ぬのが怖かった。


「死ねよ!死ね死ね死ね死ね死ね死ね!」


罪悪感で押しつぶされそうだった。

結局は俺の勇気なんてその程度だったんだ。怖くて死ぬことすらできない。ただの臆病者だ。


「死ねよ……」


そう呟き、手から剣が落ちた。俺にはもうどうすることも出来なかった。




----------------




結局、また復讐する事を選んだ。それしか残された道はなかったし、それが罪滅ぼしになる気がしたんだ。


死体から力を奪うことができる植物を師匠から教わった通りに、使ってみる。


死体に種子を埋め込み、そこに実が実るまで待つ。実ったら、その実を食べることで死んだものの力を奪うことができるらしい。原理は知らなかったし、知る気もなかった。


俺は機械のように淡々と作業を進めて、準備を終え、実が実るのを待った。


3時間くらいか。すぐに実は成った。


とても小さく、赤に近い色をした実だった。それを一口で飲み込んだ。どんな味や食感だったかなんて覚えていない。そんな余裕などなかった。


すると、筋力や魔力などが手に入った。ただ、経験や記憶、技術などは引き継がないらしい。


体は驚くほど軽く、全身から魔力が噴き出るような感覚だ。


俺は五界覇神第五位になった。




----------------




あれから百……何十年が経過した。正確な年月は数えていない。


迷宮に何度も潜り、無数の魔道具を手に入れた。役に立つものから、そうでないガラクタまで、様々だ。


その中には、体の老化を遅らせるものがあった。最近起きた戦争のときに、長寿種のエルフやドワーフで人体実験を行った時の副産物らしい。


それを用いて、俺は寿命で死ぬことはほぼ無くなった。


まあ、寿命がないわけでは無い。一般的にエルフなどの寿命は五百年程度と言われている。多分俺もそのくらいは生きるだろう。


さて、その後も修行を続けてはいたんだが、九十年目くらいで肉体の限界を感じ始めた。これ以上は伸びない。何故かわからないがそういう確信があった。


そこからはヘラクレスに関しての情報収集に力を注いだ。


旅銭はどうしていたかというと、迷宮で獲得した物を売っていた。


迷宮の報酬は魔道具だけ、みたいな言い方をしていたが全然そんなことはなく、財宝や魔力結晶など、様々なものがあり、それを売っていたので金には困らなかった。


全部合わせたら長寿種でも一生遊んで暮らせるレベルだ。


そうして全ての大陸を巡り、ついにやつのいる場所を突き止めた。


俺は師匠の剣を片手に、やつの元へ向かった。

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