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ヘラクレスは今、デザース大陸にいる。


雨が全く降らず、見渡す限り砂漠の大陸だ。


ここからやつのいる場所までは、徒歩で三年はかかるだろう。俺が今いる場所から真反対に位置しているのだから。


「じゃあ、着く前にいなくなってしまっているのでは?」と思うだろう。


実は、すでに布石を置いてある。壊すと転移する箱を各地に散らしておいたのだ。


この箱、実はかなり希少な代物だったが、学者や研究者の協力もあって量産に成功した。たった数十年かそこらでだ。俺ひとりでは解決できなかった課題も、彼らの手にかかれば次々と片付いていった。


その箱の横には、遠隔で爆破可能な魔道具が設置してある。これに魔力を流せば、瞬時に転移が起きる仕組みだ。


装備の準備も万全だ。迷宮で手に入れた鎧や、師匠の剣、さらには神級の治癒魔法が施されたスクロールも揃っている。


俺はそれらを手にし、深呼吸をして静かに言った。


「……行くか」


胸に決意を込めながら、魔力を魔道具に流し込むと、俺の身体は白い光に包まれた。




----------------




デザース大陸に着いた。


「……ん?」


違和感を感じる。こんな場所に箱を設置しただろうか?

箱の周りには認識阻害の魔法をかけてあるので誰かに弄られる事はないはずだが……


まあ、些細なことだ。俺は気にせず、足早に砂漠の中を進んでいった。


いつもなら、辺り一体が砂で覆われている事や他の大陸とは比べ物にならない暑さに驚くだろうがそんな余裕はなかった。


俺は今から人殺しをするのだから。


さて、ここからは街へ向かう。街には知り合いがいるのでそこで情報収集を行うためだ。


そうして、街へ向かって歩いていると――


「……まじかよ」


何と偶然にもそこにはヘラクレスがいた。


俺の胸の奥に煮えたぎるような怒りが瞬時に膨れ上がったが、衝動に流されないよう冷静を保ち、奴を観察することにした。


誰かと一緒にいる。金髪の少年だ。おそらく年は十、十一ぐらいだろうか。


何か話しているようだ。


「------」


「----?」


遠くて話の内容まではわからないが、時折ヘラクレスが微笑んでいるように見えた。すぐに飛び掛かりたい衝動を抑え、俺は息を殺して観察を続けた。


「------!」


「-----」


最後にヘラクレスが少年に何かを告げると、少年はどこかへ去っていった


その時、ヘラクレスがふいに声を上げた。


「おい!出てこい!」


どうやら、俺が隠れているのが気づかれてしまったらしい。


俺は背後に回り込み、無言で刀を抜き、奇襲を仕掛けた。


ヘラクレスは間一髪で身を捩ってそれを避け、距離を取った。


「| 土蔦《アースアイヴィ》」


奴が何かを唱えたが、俺は気にせず踏み込んだ。だが、突然、足が砂に絡まり、動きが止まった。


砂が足元にまとわりつき、石のように硬く固まっている。足を引き抜こうとする俺に、ヘラクレスが話しかけてきた。


「待て。なぜ俺を襲う?」


「なぜ?ハッ!本当に言っているのか?お前」


俺が吐き捨てると、奴はしばし考え込んだ後、低く言った。


「……すまない、心当たりがない」


その言葉がさらに俺の怒りに火をつけた。


「ふざけてんじゃねえぞぉ!」


砂を蹴破り、再び奴に襲い掛かった。




----------------




一日が経った。


互いに何度もぶつかり合い、砂漠には大きなクレーターがいくつもでき、俺もヘラクレスも傷だらけだった。息が荒く、腕も震えている。互いに限界は近い。


早く諦めてくれ――互いにそう思っていた。


だが、勝負は意外な形で終わりを迎えた。


上段から一気に振りかぶり、奴に踏み込んだ。


普段ならば避けるか防ぐかされていたが、今回は違う。


奴がなぜか俺の背後に視線を向け、気を取られていたのだ。


違和感を覚えつつも、刀を振り下ろす。ヘラクレスの左腕が中を舞い、砂に血が飛び散った。


今が好機だと、残り少ない力を振り絞ってさらに踏み込み、もう一度刀を振る。肩から腰にかけて深く斬り込むと、ヘラクレスは地面に仰向けで倒れ込んだ。


俺はとどめを刺そうと刀を振り上げた。


その時だった――


「……やめてください。お願いします。殺さないでください」


突然、あの少年が俺とヘラクレスの間に割り込んできた。膝をつき、地面に頭を擦り付け、震える声で懇願している。


少年の懇願に、胸の奥でくすぶっていたものがぐらりと揺らぐ。このまま振り下ろせば、俺は――いや、今さら止まるなんてできない。だが、少年の必死な声が心を刺す。


「なんで……こんな奴のために、そこまで必死なんだよ」


自分でも声が震えているのがわかった。少年の視線が俺を貫くようで、まるで俺が悪者に見られているかのようだった。俺は正しいことをしているんだ。正義を執行しているはずだ……なのに、どうしてこんな気持ちになる?


「俺が悪いってのか?……この男が何をしたかも知らないお前が、俺を悪者みたいにしやがって」


気づけば吐き捨てるように言っていた。胸が締めつけられる。こんな目で見られるためにここまで来たんじゃない。俺は、ただ……


だが、次の瞬間、激痛が胸に走る。


俺の胸から見知らぬ腕が突き出していた。

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