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心地いい温もりに抱かれて、まどろみかけていた矢先に、ふと脳裏に浮かんだことがあって、私はパッと目を見開いた。
「……どうした?」
同じように眠りかけていただろう彼が、身じろいで私の顔を覗き込む。
「あっ……と、今思い出したんですが、婚姻届ってまだ……でしたよね?」
「ああ、そうだな」と、うろたえる私とは裏腹に、淡々と頷く彼へ、
「あの私……、式を挙げて結婚証明書にサインをした時点で、もう既に結婚をしたような気分になっていて……」
今になって気づいた自らの勘違いをボソボソと話した。
……それで私ったら、何のためらいもなく、彼の家に一緒に帰って来ちゃって……。
……よく考えたら、本当の意味での結婚って、まだ……なんだよね。
そう思ったら、彼の家にいることが、なんだか無性に居たたまれなく思えてきた。
式の後に流れで一緒に帰るのはありだとしても、もうすっかり新婚気取りだったことに、我ながらこそばゆさを感じて、ベッドの中からもそもそと脱け出そうとすると、
「……そんなことを、気にしていたのか」
彼に後ろから腕を回され、ぐっと抱き寄せられた。
「だって、なんだか当たり前みたいに、あなたの家に……」
拭いがたい私の歯がゆさを、
「──嬉しい」
彼の一言が、打ち砕く。
「当たり前のように君がそう思ってくれたことが、嬉しい」
背中から強く抱かれて、
「あっ……」
と、小さく声が漏れる。
「婚姻届は早めに出して、すぐにでも共にここへ住めるようにしよう」
「はい……」
彼の心臓の鼓動を真近に感じつつ頷いて返すと、ようやくほぅーっと安堵に包まれて、安らかな眠りに身を委ねることができた──。