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もちもち丸ののの
失礼します
戸をそっと開けて入る
やあ
初めまして
そう貼り付けたような笑みを浮かべて笑うその人
その椅子に
そう促されて部屋の真ん中に置かれた椅子に座る
長い間、名前を与えられず申し訳なかったね
はい
早速本題に入ったようだ
もともと決まっていたかのような着々とした会話
どうだい
ここの孤児院は楽しいか?
はい
おかげさまで
そう付け加えれば目の前の人の表情と“心”がかわる
あぁなぜだろう
わかってしまうのだ
その微細な心の変化
それは良かったよ
僕は君の名前を持ってきたんだ
すぐにでも聞きたいかい?
なぜか頷くつもりはなかった
多分それを期待されているように感じたからだ
じゃあ、少し話をしようか
そう切り替えてまた向き直った
君はシャークんと仲がいいそうだね
はい
ただそれは外から聞いた感想に過ぎない
実際一緒にいてどうなのかを聞きたいんだ
なんて抽象的な質問だ
少し落胆する
それはこの人の心がダダ漏れで貼り付けられた笑みすらをも見えなくさせるから
一緒にいてとても楽しいです
彼は言語能力に優れていたからすぐに打ち解けることができましたし
何よりあの場の誰よりも優しいと思っています
そう伝えれば意外にも目を丸くして見られる
うーん
それは良かった
君も聞いていただろう
あの子の素行を
えぇ、まぁ少し過剰な表現だと思っていましたけどね
まぁそうだろうね
君からしたらそうだろう
その含みのある言い方はまだ俺の知らない彼があることを実感させてくる
そうだそうだ
君は身長がだいぶ伸びたみたいだね
それだけじゃなくて筋肉もついた
何かで鍛えたの?
いや、ここでの“アソビ”とか手伝いをよくしていたからかと….
あと、栄養のあるものをいただけているので
ははは
良いことを言うねぇ
今目の前にいる人の“心”は興味
俺がそれをどう“扱う”か
君は言葉が上手いよ
HöflichkeitsformenもBescheidenheitも使えている
そう言われたのは意外だから反応に困る
まあまあ
君の話がたくさん聞けて嬉しいよ
これは上部の言葉だろう
笑顔がまた貼り付け直された感覚
それを見て俺もそっと口角を上げた
寒くなってきたね
今日は雪の予報だったからかな
そうですね
ここのご飯は美味しいか?
寝る時も寒くない?
満足していますよ。ここの生活には
そう伝えればその人はにこりと微笑んだ
それは“心”からの_______
孤児院の子達はね
みんな好みがあって
これさえあればと言うんだ
君に聞くのはこれが初めてになるね
君は何かある?
そう聞かれて少し考えた
あそこでもらった綺麗な洋服たち?
それともスマイルに買ってもらった本?
それとも….
いやちがう
それらはなくても
….特に
絞り出した俺の答えだった
….へぇ
珍しいね
物じゃないのかな。人は?
一瞬、シャークんが頭に思い浮かんだ
がすぐに消えた
いません
そう答えた
じゃあ行きたい場所とかはあるかな?
….考えたこともないです
俺の本音だった
相手の目を見る気にはなれなかった
“心”がきっと興味でなくなってるから
その変化を知りたくないと思った
…ま
そうだよな
そう数拍おいて言葉が聞こえる
ここにくるまでいろいろあっただろう
大事なものって無くしてから気づくんだ
その言葉たちは俺の浅いところでとどまるだけだった
はい
かろうじてでたこたえだった
じゃあさ
もし“取り戻せる”なら何が良い?
前の国を思った
だけどそこにはない
取り戻す
ってなんだ
だって俺は
俺には
まるで何もと言ったような顔をするな
そういった目の前の人は眉を下げてそう言った
….君は今、
相手がそう言いかけて飲み込んだ言葉が肌に染み込むように“心”の底からと伝わってくる
“ホシイものもマモルものもないのか”と
まぁ、いいさ
ないものはないんだ
人間は皆身軽
何も持たないもの
それが初めの人間だからな
失うものすらないんだ
なぁ、
もう一つだけ聞かせてくれるかい
一気に“心”が見えなくなる
それに少し焦りを覚えて背筋が伸びた
君は何を差し出せる?
何も持たないと言ったお前が差し出せるものはなんだ
さしだす
ってなんだ
わからない
なんの代償に
なんのために
ちがう
この人は意味を求めているわけじゃない
きっとそうだ
何もないと定義された
きっと俺の手の中にあるこれや持たされた服と答えた方が違和感はない
きっとそうだ
でも与えられたものを差し出すのはあまりにもおかしいだろう
なにもない
俺にあるのは
あるのは
考えたうちにそっと口を開いた
相手の目を見て
はっきりと音にする
俺には何もない
差し出せるものがあるとしたら
この俺の命だけです
間が開く
唾を飲み込むのが見てとれる
“心”は見えない
ただぎらぎらとした野心が滲み出ている
そうか、
それだけだった
本当にそれだけ
相手は困ったような顔をしてまた言った
そうか….
いい
今はまだそれでいい
そう言われた
1拍おいてまた口が開かれた
たくさん話してくれてありがとう
君から何か話したいことはあるかい?
…なにも
わかった
何かあったらすぐ指導員にでも伝えなさい
対処してあげるから
はい
じゃあ、君に
名を
意味は
大事な時間を共に過ごす存在
これから君は
きんとき
だ
お、長かったな
案内された部屋には俺より前に呼び出された皆が溜まっていた
その中にいたシャークんの方へまっすぐ向かった
ねぇ
名前で呼んでよシャークん
….教えてみ
きんとき
俺は今日からきんときだよ
そう言えば、目を逸らさずに彼は言った
きんとき
うん
満足か?
なぜか俺は目を逸らしてしまった
うん
なんか、嫌なことでも言われたか?
いや、
多分言われてない
さっきの会話はここで年の違う人たちとするような会話ではない
“大人”との会話だった
したことのない会話の内容に俺は違和感が募るばかりだったが
その場では何も疑おうともしていなかったんだ
ふぅん
なぁきんとき
ゲームしに行こうぜ
部屋から出たらダメだって言われたよ
あ、そういえばそうか
することないなあ
俺は自分の手の中にある本を開きながら隣に座った
一緒に読もう
難しくてわからない単語が多いんだ
たまには読書もいいもんか
いいぜ
読もう
気づけば部屋は人で溢れかえるようで
いる場所すら怪しくなってきた頃
今日はみな自室に戻りなさい
自分の棟の自分の部屋に
そういったのは
さっき話していた“大人”だった
すぐに全員この窮屈な部屋から飛び出していく
今ここの全員には名前があって皆が名前を呼び合う
なにか俺は不思議な気持ちだった
そのまま1日が過ぎ
理由もわからぬまま部屋にいた
シャークんはいつもと変わらずゲームに張り付き
ときおり俺の本を覗き込んで教えてくれる
心地が良かった
ずっとそうだ
この心地よさはなんだったか
がたんと音が鳴り部屋の外が騒がしくなった
なんだ?
シャークんが振り返った瞬間
部屋の扉が勢いよく開く
そこにはものすごい形相の別室の子達
どうしたの
そう尋ねれば
少し息を弾ませながら口を開く
俺たちの“シゴト”が決まったんだ
君たち2人は___________
静かな動作で扉を開けて部屋に入った
晴れ日なのもあってか明るすぎる部屋に少し顔を顰める
なかむ
お、スマイルきたね
“オモシロイ”ことが起こってるみたいだな
目の前のぎらぎらとした目はその野心をあらわにしているように思えた
ははっ
ようやくみつけた
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