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めっちゃ可愛いです(泣)🫶🫶🤭🤭
お題:『声』『水族館』
「凛」
柔らかな音が鼓膜を揺らした。俺はうっすらと瞼を持ち上げて、その音の持ち主を呼んだ。
「兄ちゃ…ん?」
「おはよう凛」
「……おはよう」
朝目覚めたら隣に兄が居る。こんなこと、あの頃は想像もできなかっただろう。
「凛、今日は出掛けるからな」
「うん、わかった」
俺は兄ちゃんの声が好きだ。たまらなく愛おしいとでも言うような、そんな声で兄ちゃんは俺の名を呼ぶ。だからやっぱり、兄ちゃんの声が大好きだ。
ただ一つ例外を除いては……
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「消えろ凛。俺の人生にもうお前はいらない」
「兄ちゃん……」
俺は兄ちゃんの声が嫌いだ。温度を感じない、冷たい声。まるで、俺なんかに興味など無いと言われているような気がする。だから今もやっぱり、兄ちゃんの声が大嫌いだ。
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「何、ボーっとしてんだよ。さっさと準備しろよ」
俺が思考の海に沈んでいると、額が軽く弾かれた。
一応額を抑えてみるが全くと言っていいほど、痛みなど感じなかったので、やっぱり兄ちゃんは世界一優しいと思う。
「んー」
なんとなく兄ちゃんのほうに両手を伸ばしてみる。
「抱っこは無理だぞ」
「わかってる……」
抱っこなんて期待してない。そもそも俺の方が体格がいいのだ、抱っこなんてできたら化け物だ。
「……しょうがねぇな」
やっぱり兄ちゃんはかっこいい。流石に抱っこはしてもらえないけど、リビングまで手を引いてくれた。
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「そういえば今日、どこ行くの?」
「__水族館……嫌か?」
……水族館、別に普通だ。なのに兄ちゃんが言うとなぜか不思議な言葉に感じる。
「別にいいけど……珍しいね、どうしたの?」
「なんとなく……」
今日の兄ちゃんはなんだか兄ちゃんらしくない。そもそも糸師冴は無駄なことを嫌う人間だ。なのに”なんとなく”だけで水族館に行こうという。全くもって時間の無駄なのに。
「ふーん」
「なんだよ」
「別に」
ちょっと兄ちゃんの眉間に皺が寄ったけど、そんなの気にならないほど俺は浮かれていた。だって兄ちゃんと久しぶりのデートができるのだから。
「さっさと準備しろよ、じゃないとおいてくからな」
「待って!」
少し焦ったフリをしてみるけど、兄ちゃんがおいていく気なんてないって俺は知ってる。現に自分は準備が終わっているのに俺を待っているのがなによりの証拠だ。
――――――――――――――――――――――――
電車に揺られて水族館に向かう。 電車内は意外と空いていたので座ることができた。
しばらく電車に揺られていると、「降りるぞ」そんな声が隣から聞こえた。__俺は、その声に従って電車を降りた。
電車を降り、少し歩くとそこには普通の建物よりかは大きめな建物があった。__なるほど、ここが水族館か。
昔、一度だけ家族で水族館に行ったことがあるが、その水族館とはまた、別の水族館のようだった。
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館内を見回してみると、__今日が平日だからか、人が少ない。俺も兄ちゃんもあまり、人混みが得意な方ではないので助かった。
「兄ちゃんどこから行く?」
「あ?あーまぁ、どこでもいい」
「はぁ?なんだよそれ、兄ちゃんが連れてきたんだろ」
「じゃあ、凛の好きなとこに行きたい」
「結局変わらないじゃん」
兄ちゃんはたまに適当なところがある。というかサッカーのこと以外は割と適当だ。だから俺が聞き返してもあまり意味が無いことを分かってはいる。けれど、幼い頃からなんでも兄ちゃんに任せっきりだった俺は、こういうときどうしたらいいのか分かない。
「じゃあ深海魚のコーナーでも行くか?」
「はぁ?兄ちゃん俺が苦手なのわかって言ってるだろ!」
兄ちゃんはちょっと意地悪だ。今だって俺が深海魚を苦手なのわかってて、そこに行こうと言ったのだから。―――深海魚は怖い。俺はホラー映画などが好きだが、あれとはまた違った怖さが深海魚にはある、それが苦手だ。
「でもあそこが一番空いてるぞ、凛」
確かに、人が少ないとはいえ人気のコーナーは少し混んでいる。なら兄ちゃんが言う通り深海魚のコーナーからまわった方がいいのかもしれない。
「はぁ、じゃあ俺、目瞑っとくから連れてってよ」
「はぁ?それまわる意味あんのか」
「……ある」
「……まぁいい。手、離すなよ。はぐれても知らねぇからな」
「うん」
やっぱり深海魚は怖いので、目を瞑ることにした。ならまわる意味がないと思うだろ?俺だってそう思う。でも俺たちが深海魚のコーナーをまわっているうちに、人気のコーナーが少しでも空いたらいいなと思い、しょうがなくまわることにした。
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視覚を封じた状態だと他の感覚が鋭くなるようだ。客の声が普段より大きく聞こえる、その中でもより一層大きく聞こえる声は___
「終わったぞ、目開けろ」
やっぱり兄ちゃんの声だ。
「ん、ありがとう」
「嗚呼、次はどこに行くんだ?」
「クラゲ見たい」
「じゃあ行くか」
俺たちはクラゲを見に行った。その後も次々と色々なところに行き、人混みもあってか、疲れ果てた俺たちは帰路についた。
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「どうだ?楽しかったか?」
「まぁ……でもなんでいきなり水族館に行こうと思ったんだ?」
「なんとなくだが……強いて言うなら凛とデートがしたかった」
そう言って意地悪い笑みを浮かべる冴に、羞恥で顔を真っ赤にさせ、わなわなと震える凛はクッションを投げつけるのだった__。