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◆ ロジンとヒカルの、少し騒がしい日常
第一章:朝の戦場?
千葉の静かな郊外。
ロジンの家では、毎朝“ちいさな戦い”が始まる。
「ヒカーール!!学校の準備はできたの!?」
「まだー!! 靴下が片方ないー!」
元クルド女性兵士として数々の戦場をくぐり抜けてきたロジンだが、
やんちゃ盛りの娘・ヒカル相手には完全に押され気味だった。
ヒカルは寝癖を爆発させたまま、リビングを走り回る。
ランドセルは開きっぱなし、教科書は床に散乱。
「ママ! 今日こそ体育ある?」
「昨日も聞いたでしょ、あるの。」
「じゃあ、縄跳び持ってかないと! あーーどこいったの縄跳びーー!」
ヒカルは明るく元気、そして喧嘩っ早い。
たいていの子どもに泣かされることはなく、
むしろ“泣かせる”側のことが多い。
ロジンは深いため息をついたが、
その目はどこか嬉しそうでもあった。
「ヒカル…あなた、ほんとにカイにそっくり。」
第二章:また呼び出し
放課後。
ロジンのスマホが震える。
表示は―
「国川台小学校・担任の佐伯先生」
ロジンは思わず天井を見上げる。
「また…?」
学校へ行くと、保健室のベッドに座ったヒカルと、困り顔の佐伯先生がいた。
「日向さん…今日もまた、クラスの男の子と喧嘩でして…。」
ヒカルは口を尖らせ、拗ねたように言う。
「だって! ショウタがね、“ヒカルだけ縄跳び二重跳びできてずるい!”って言うんだよ! だから言い返したら向こうが押してきて!」
佐伯先生は苦笑しながら続ける。
「まあ…ヒカルさんが最後に投げ飛ばしたので、相手のお母さんが少し。」
ロジンは額を押さえた。
「ヒカル、人を投げ飛ばしちゃだめ。教えたでしょう?」
「だって、ママも昔は
戦士だったんでしょ!」
「だからね、お友達を投げ飛ばしちゃ
いけないのよ!」
佐伯先生は優しく笑い、
「ただ…ケガはどちらも軽いので。ヒカルさんは根はいい子なんです。ただちょっと…元気すぎるだけで、ねっ!!」
ロジンは深々と頭を下げた。
第三章:母娘の帰り道
夕暮れの道を歩きながら、ロジンはヒカルの手を握った。
ヒカルは不満そうに頬をふくらませている。
「ママ、怒ってる?」
「怒ってない。心配してるだけ。」
「だってショウタが悪かったんだもん。」
ロジンは立ち止まり、しゃがんでヒカルと目を合わせた。
「ヒカル。強いのはいいことよ。でもね、本当に強い人は―
“戦わない方法”を見つけられる人なの。」
ヒカルはロジンの顔をじっと見つめた。
その瞳は、カイの面影を色濃く宿している。
「うーん…むずかしいね。」
「大丈夫。ママが一緒に考えてあげる。」
ヒカルは小さく頷き、ロジンの腕に抱きついた。
「ママ、大好き。」
ロジンはそっとヒカルの髪を撫でた。
第四章:静かな夜、語られた“強さ”
家に帰ると隼人が待っていて、
ロジンの顔を見た瞬間にため息をついた。
「また…呼び出し?」
「そう…。」
ヒカルは
すぐにロジンの後ろに隠れる。
隠れても、隼人にはバレている。
隼人は笑い、ヒカルの頭を優しく叩いた。
「ヒカル、喧嘩はダメだ。でも…守りたくて戦うなら、まず言葉で守れ。
おじさんは、昔兄さんからそう教わったよ。」
ヒカルは静かに聞いていた。
その言葉は、彼女の胸の奥にしっかりと刻まれた。
第五章:寝る前のひととき
布団に入ると、ヒカルはロジンに聞いた。
「ママ…パパも、やっぱり強かった?」
ロジンは優しい声で答える。
「ええ。とても強かった。
でもね…あなたが生まれたときより、嬉しそうな顔は見たことなかった。」
ヒカルは満足そうに笑った。
「じゃあ、ヒカルもっとがんばる。喧嘩しないで友だちもつくる!
パパが笑ってくれるように!」
ロジンはその言葉に胸がいっぱいになった。
そっと
ヒカルの手を握り、目を閉じる。
「あなたならできるわ。
だって…カイと私の子なんだから。」
雪のように静かな夜―
ロジンとヒカルの日常は、騒がしいけれど温かく続いていく。
◆ ヒカル、正義の拳じゃなく“言葉”で
隼人、突然の転勤
ある晩、夕食を囲みながら隼人は静かに口を開いた。
「ロジン、ヒカル…俺、転勤になった。
北海道の千歳基地だ。」
ロジンの箸が止まった。
ヒカルも驚いた目で隼人を見る。
「えっ…おじさん、遠くに行くの?」
隼人は寂しさを
こらえて笑った。
「航空自衛隊の仕事だからな。でも、絶対に会いに戻る。約束だ。」
ヒカルは黙っていたが、やがて強く頷いた。
ロジンはゆっくりと、
「あなたの仕事は誇りだもの。ここは私とヒカルで大丈夫。」
家族の形は変わる。
けれど絆は変わらない。
翌月、隼人は千歳へ赴任し、
ロジンとヒカルは
2人暮らしを始めた。
ヒカル、教室の異変に気付く
ヒカルのクラスには、いつも静かで引っ込み思案の男の子がいた。
海斗(かいと
小柄で、声が小さく、いつもうつむいている。
ある日の放課後。
ヒカルは靴箱で、海斗が数人の男子に囲まれているのを見つけた。
「お前、昨日の宿題見せなかったろ!」
「生意気なんだよ、お前は!」
海斗は怯えて、声も出ない。
ヒカルの足が一歩、自然に前へ出た。
「やめろよ。」
男子たちは振り返る。
「ヒカル? お前関係ないだろ。」
「ああ、また喧嘩する気?」
ヒカルは深呼吸した。
ロジンに言われた言葉が胸に浮かぶ。
“強い人は、戦わない方法を選べる人よ。
ヒカルは睨む代わりに、はっきりと言った。
「海斗が悪いことした? 宿題は自分でやるもんでしょ。」
男子たちは動揺する。
「う、うるせーよ!!関係ないだろ!!」
ヒカルはさらに言った。
「先生呼んでくるよ?やめないと。」
男子たちは舌打ちしながら散っていった。
ヒカルは海斗のそばへしゃがむ。
「大丈夫?」
海斗は泣きながら、かすかに頷いた。
ロジン、母の“強さ”を見せる
家に帰ると、ロジンはヒカルの表情から何かあったとすぐ気づく。
「今日は…何があったの?」
ヒカルは正直に話した。
ロジンは黙って聞き、
ヒカルの頭を優しく撫でた。
「ヒカル。あなたは本当に、強い子ね。」
ヒカルは驚いて顔を上げる。
「喧嘩しなかったでしょ?
あれはね、ママよりずっと強い勇気よ。」
ヒカルの胸が熱くなった。
ロジンは続ける。
「ただ、ひとりで抱えないで。
困っている子がいたら、先生にも必ず話すの。」
ヒカルは素直に頷いた。
海斗の涙と友情のはじまり
数日後。
ヒカルと海斗は帰り道が一緒になった。
海斗は小さな声で言う。
「ヒカルちゃん、ありがと…。
あの日、助けてくれて。」
ヒカルは照れて頭をかいた。
「べつに…。海斗が困ってたから。」
海斗はゆっくり続けた。
「僕は、ヒカルちゃんみたいに強くなれないな。」
ヒカルは立ち止まって言った。
「海斗は強いよ。」
海斗は驚く。
「泣いたり、逃げたくても我慢したり……。
それってすごいことだよ。」
海斗の目に、涙が浮かんだ。
その涙は、恐怖ではなく安堵の涙だった。
母と娘の夜
夜、ヒカルはロジンに海斗の話をして、今日あったことを全部伝えた。
ロジンは微笑みながら言う。
「ヒカル、あなた
友だち出来たのね。」
ヒカルは嬉しそうに笑った。
そのとき、スマホが鳴る。
画面には “隼人”。
テレビ電話越しに、隼人は満面の笑顔で言った。
「ヒカル、最近どうだ?」
「ママに怒られてない?」
ヒカルは胸を張って答える。
「大丈夫よ! 喧嘩してないよ! 困ってる子助けたんだぜ!!」
隼人は目を丸くしたあと、優しく頷いた。
「兄さんもお前を誇りに思うよ。
ヒカル、お前はちゃんと強さを使えてる。」
ヒカルは誇らしく笑った。
ロジンの胸にも、静かな温かさが満ちた。
◆ 2人暮らしの日々
ロジンとヒカルの生活は、慌ただしくも幸せだった。
・朝は走り回るヒカル
・仕事に向かうロジン
・学校のトラブルも笑って乗り越える
・夕飯はふたりで並んで台所に立つ
・夜は隼人からの電話で一日の終わりを迎える
ヒカルはまだ子どもだ。
でも――
その中には、カイの心とロジンの強さが確かに息づいている。
そして彼女は、少しずつ、自分の“強さの使い方”を学び始めていた。
ロジンとヒカル、新しい舞台へ
ロジン、職場での違和感**
千葉郊外での生活が始まって1年。
ロジンは食品工場のパートで働きながら、ヒカルを育てていた。
同僚や上司は皆優しく、職場環境も悪くない。
けれど―
ロジンの心のどこかに、ずっと“くすぶる違和感”があった。
(私は…もっと誰かのためにできることがある気がする。)
ある日、職場の休憩室で、同僚のインドネシア人女性・ミナが話しかけてきた。
「ロジンさん、日本語とても上手。わたし、もっと勉強したい…教えてくれませんか?」
ロジンは驚いた。
しかし教えてみると、心が自然に温かさで満ちた。
ミナの目が輝きながら言う。
「わかりやすい! 先生みたい!」
その一言が、ロジンの胸で小さく火を灯した。
日本語学校との出会い
別の日、ロジンは地域の国際交流センターで行われていた
“外国人向け生活教室”に参加した。
ふと目に入ったポスター。
《日本語教師・ボランティア募集》
ロジンは胸がドキッとした。
担当者に相談すると
「ロジンさん、日本語を第二言語として習得した経験がある人は、
とても良い先生になるんですよ。」
試しにボランティアで授業をしてみると、
教室は笑顔で満ちた。
ロジンは感じた。
(これだ、私がやりたいことは。)
その日の帰り道、彼女はヒカルに言った。
「ママね、日本語の先生になりたいと思う。」
ヒカルは目を輝かせた。
「絶対似合うよ! ママ、日本語とても、上手だもん!」
ヒカル、新しい挑戦を見つける。
一方ヒカルは、毎日
元気いっぱい。
放課後に校庭で休み時間があったある日、
高学年のバスケ部員が練習しているのを見て、目を輝かせた。
ヒカルは友達の海斗とボール遊びをしているうちに、自然と興味が湧いた。
「ヒカルちゃん、バスケやってみたら?」
海斗の言葉に、ヒカルは胸を高鳴らせた。
翌週、体験入部でシュートを打ってみる。
パシュッ!
綺麗にリングに吸い込まれた瞬間、
ヒカルの心は一瞬で決まった。
「これだ!! ヒカル、ここで頑張る!」
コーチも驚くほどの身体能力。
走るのが速く、反射神経も抜群。
そして何より―負けず嫌い。
ヒカルは正式にクラブチームへ入部した。
ロジン、新たな世界へ踏み出す
ロジンは日本語教師の養成講座に通い始めた。
クラスには中国、ブラジル、ベトナム、ミャンマーなど
多様なバックグラウンドを持つ人々がいた。
講師は言った。
「“外国人だから大変”ではありません。
“外国人だからこそ見える世界がある”。
それを日本語に変えるのが私たちの仕事です。」
その言葉は、ロジンの胸に深く響いた。
彼女は夜の勉強も、家事育児も両立した。
疲れる日も多かったが、
ヒカルが応援してくれた。
「ママ頑張って! ヒカルも明日の試合頑張るよ!」
母娘は互いに励まし合いながら、
それぞれの道を歩み始めた。
ヒカル、初めての練習試合
ヒカルのクラブチーム初の練習試合。
ロジンは日本語教室の授業が終わって
すぐ体育館へ駆けつけた。
ヒカルはコートの上で、目を輝かせていた。
「ママ! 見ててね!」
試合が始まる。
相手は
地域のクラブの強豪チーム。
何度もボールを奪われ、悔しい思いをする。
しかし、ヒカルは、粘り強く食らいつく。
(強い人は、戦う前に“諦めない”。)
ロジンの言葉が心に響いていた。
終盤、ヒカルにパスが回る。
残り10秒。
ドリブルでひとり抜き、
ジャンプシュート。
パシン!
リングに吸い込まれた。
体育館に歓声が響き、
ヒカルのチームは逆転勝利した。
ロジンは目頭が熱くなった。
「ヒカル…あなた、本当に強くなった成長したわね…。」
母娘、静かな夜
試合後、2人で帰り道を歩く。
ヒカルは興奮が冷めずに話し続ける。
「ねえママ! リングに入った瞬間ね、胸がドキューンってしてね!」
ロジンは笑いながら聞いていた。
そして、ふと夜空を見上げる。
綺麗なあの時
カイと砂漠の廃村で
見た様な星空が広がっていた。
「ヒカル。ママも新しい仕事、きっとできる気がする。」
ヒカルはロジンの手を握る。
「絶対できるよ!
だってママは、ヒカルのママだもん!!」
ロジンは笑い、ヒカルを抱き寄せた。
「ありがとう…あなたがいるから、ママも頑張れる。」
千葉の静かな住宅街に、
母娘の笑い声が響く。
ロジンとヒカルの新しい日常は、
優しさと挑戦で満ちていた。