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「こちら、城主様のお部屋へお持ちいたしますね」
「リリアンナ様のお好きなお茶、旦那様もお気に召されていましたので……お二人分、こちらへ」
誰も、リリアンナへ向かって露骨には言わない。
けれど、城全体が当然のように、リリアンナをランディリックの隣へ置こうとしている。
最初は、そのたびに胸がざわついたリリアンナである。
(違うのに……)
だって自分たちはまだ正式に婚姻したわけではない。
王城からの認可も受けていない。
なのに――。
誰もランディリックと共寝するリリアンナを軽蔑しなかったし、婚前交渉を責める気配もなかった。
むしろ皆、どこか安心したような顔をしているようにすら見えた。
そんなある日のことだった。
リリアンナがナディエルを伴い、厨房の近くを通り掛かると、
「ご主人様も、ようやく落ち着かれましたね」
半ば開いた扉の向こうからそんな声が聞こえてきて、リリアンナは思わず足を止めた。
そばに控えていたナディエルが、それに気付いてわずかに眉を寄せる。
「リリアンナお嬢様?」
まるでこれ以上彼女たちの会話を聞かせたくないみたいに、先へ進むよう促される。
けれど、その時にはもう次の言葉が耳へ届いてしまっていた。
「旦那様がリリアンナお嬢様のことをそりゃあもう大切にしていらっしゃるのは分かっていましたけど……まさか奥様に、とまでお考えとは思いませんでしたわ」
「そうそう。娘としてお側へ置いていらっしゃるとばかり思っていたから……。いつになったら奥様をお迎えになるんだろうってヤキモキしてたのに……。全部杞憂だったってことよねぇ」
「それだよ。城主様ってば、縁談の話がきても全て断っておいでだったし……そもそも奥方様のためのお部屋はずっとリリアンナお嬢様に使わせたままだったから……みんなしてどれだけやきもきしたことか」
「でも……まさかそれすら、そういうおつもりでお嬢様を見ていらっしゃったから……だなんて思わなかった。そうなったって知らされた時は、正直びっくりしたわ」
「けど……おふたりが並んでいらっしゃるのを見たら、すごくお似合いで……なんだ、問題ないじゃないって思ったわ」
「そうそう。それに……。リリアンナ様がお側へ立たれるようになられてからの旦那様、身に纏う空気が柔らかくなられて……すごくいい兆候よね」
「前よりちゃんと眠ってくださるようになられたらしいし、いいことづくめだわ」
悪意など欠片もない声音だった。
それが、余計にリリアンナを戸惑わせる。
ギュッとドレスの生地を握りしめて固まってしまった主人を見て、とうとう我慢できなくなったのだろう。
「――コホン」
ナディエルがわざとらしく咳払いをした。
途端、厨房の中が水を打ったみたいに静まり返る。
「あっ……」
「し、……仕事に戻りましょっ」
慌てて取り繕う声と、いそいそと動き始める気配。
けれど、一度耳に入ってしまった言葉は消えない。
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コメント
2件
城のみんなから期待されまくってる感じだねー。 リリー、ほだされちゃう?
みぅです🤍🥀 お邪魔します。 第220話「ここにいたい④」、読み終えました。 周りが当たり前に二人を“そういう関係”として扱い始めてる空気、すごく伝わってきました。使用人たちの噂話、悪気がないからこそ、リリアンナの心にじわじわ刺さる感じが切ないです……。 「違うのに」って戸惑いながらも、城主の隣にいる自分を少しずつ受け入れていきそうな予感がして、続きが気になります。 二人の距離がどう変わっていくのか、ゆっくり見守りたいです🌙