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7:00
今日は、いつもより少しだけ早く目が覚めてしまった。
早めに起きたので散歩に行こうと立ち上がった瞬間、頭をハンマーで殴られたような鈍い痛みが走った。
ズキっ
「い”っ、!?」
ドサッ
痛みが走った瞬間、視界がぐらりと揺れ、そのまま床に倒れ込んだ。
「ぅ、はぁっ。」
目の前が真っ白になり、気ずけば倒れ込んでいた。
9:39
また起きた時、次には怠さと頭痛が襲ってきた。
軽い風邪だろう、とそう思い込まないと、少し怖かっただが、まぁそのうち治っているだろうなと思い、探偵社に行く支度をし、外に出た。
「ふーーっ、」
いつもどうりに話しかけれるようにドアの前で深呼吸をしてドアを開けた。
ガチャっ
「おっはよーう!」
「なーにが「おっはよーう!」だこの包帯無駄使い装置が!!!」
矢張り、入った途端国木田くんの怒声が浴びせられた。
いつもなら軽く通せるものの、今日は違かった。
国木田くんの怒声が頭の奥に響き、痛みが一気に強くなった。
ズキズキッ!!
「ぅ”ぁっ、」
「国木田、そこまでにしとけ。」
後ろから聞き慣れた、大好きなやさしいこえがした。
その声を聞いただけで、少しだけ息が楽になった
「だーざい、具合悪いんでしょ?」
心配させる訳にはいかず、咄嗟に嘘を付いてしまった。
「ぃえっ、大丈夫、なので、ハァッ」
「ぅ”っ!?、」
タッタッタ
胃からなにか込み上げてくる物に対応するため
走ってトイレに行き、
洗面台に手をついた瞬間、胃が大きく波打った。
今にも込み上げてきそうなのに、喉の奥が固まったみたいに動かない。
「……っ」
「ぅぇっ”」
えづく。
でも、何も出てこない。
背後で足音がして、落ち着いた声がした。
「……太宰、やっぱりお前相当きてるよ」
乱歩さんの声。
「ほら、無理しない。
吐けるなら吐いたほうがいい」
少し強めの口調。
指示みたいで、でも心配が滲んでいる。
「吐いて。
今なら、まだ楽になる」
正しい。
頭では、わかってる。
なのに――
喉が、ぎゅっと閉じた。
「……でき、ません……」
声が、思ったより震えた。
「……は?」
一瞬、乱歩さんが言葉を失う。
「気持ち悪いんだろ。
なら、吐けば――」
そこまで言いかけて、止まった。
前屈みになったままの私が、
えづくたびに強張っているのに気づいたから。
「……ああ」
小さく、息を吐く音。
「そういうことか」
乱歩さんは、声を落とした。
「……トラウマ、だね」
その一言で、胸が締めつけられた。
「……すみません」
反射で謝ると、すぐに被せられる。
「謝らなくていい。
君が悪いわけじゃない」
少し間を置いてから、
「じゃあ、吐かなくていい。
無理にやらせるのは、逆効果だ」
背中に、そっと手が添えられる。
「今は呼吸だけしよう。
僕がついてる」
気持ち悪さは、消えない。
頭も、まだ重い。
それでも。
「……」
張り詰めていたものが、
ゆっくり、ほどけていくのがわかった。
――吐けなかった。
――でも、理解された。
その安心感に、
一気に力が抜ける。
「ぁ、…乱歩さ……」
名前を呼んだところで、
視界が白く滲んだ。
12:38
カーテンの向こうで、機械音が一定の間隔で鳴っている。
静かで、やけに落ち着かない。
「……」
乱歩は椅子に座ったまま、天井を見上げた。
——さっきの反応。
あれは、ただの体調不良じゃない。
吐き気があるのに、身体が拒否する。
えづくたびに固まって、呼吸が浅くなる。
「……あーあ」
小さく、独り言。
“吐けば楽”なんて、誰でも言える。
でも、あの状態でそれを押したら、逆に壊れる。
止めたのは、計算じゃない。
あれはもう、条件反射に近かった。
医師の説明は短かった。
脱水、疲労、精神的負荷。
無理に吐かせていたら、もっと長引いていた可能性が高い、と。
「だよね」
軽く返してから、ふっと息を吐く。
正解だった。
でも、それで全部済む話じゃない。
——君は、限界まで我慢してから崩れるタイプだ。
自分で自分を追い詰めて、
「大丈夫」って言い続けて、
倒れてから、やっと止まる。
……めんどくさい。
ほんとに。
でも。
カーテンの向こうにいる、眠ったままの顔を思い浮かべる。
「……」
起きたら、きっとまた謝る。
倒れたことも、吐けなかったことも、全部。
だからその前に、言うことは決めている。
“できなかった”話は、しない。
“止めた理由”だけを話す。
乱歩は立ち上がり、
いつもの調子に近い表情を作った。
——大丈夫。
今度は、ちゃんと間に合った。
そう思いながら、
静かにカーテンを開けた。
12:45
胸の奥が、ぐっと持ち上がる感覚。
喉の奥がひりついて、息が詰まる。
反射的に口元を押さえた。
——吐かなきゃ。
そう思った瞬間、体が固まった。
胃が強く訴えているのに、
喉が、開かない。
「……っ」
えずく音だけが漏れて、何も出ない。
視界の端が歪んで、指先が冷たくなる。
昔の感覚が、唐突に蘇った。
息ができなくて、声も出せなくて、
“吐くことすら許されなかった”記憶。
「……やっぱ、ダメか」
すぐそばで、落ち着いた声。
顔を上げると、乱歩さんが立っていた。
表情はいつも通り軽いのに、視線だけが鋭い。
「出したいのに出せない。
今はそういう状態だよ」
喉が、きゅっと縮こまる。
「無理にやる必要はないけどさ」
一歩近づいて、少しだけ屈む。
「そのまま我慢するのも、違う」
乱歩さんは命令口調じゃない。
ただ、事実を並べるみたいに言う。
「……ほら。息、浅くなってる」
指先が、こちらの手首に軽く触れた。
脈を取るでもなく、逃げ場を塞ぐでもなく。
「吐いて。
“今”の反応だって、ちゃんと出していい」
その一言で、
張り詰めていた何かが、少しだけ緩んだ。
喉が、ひくりと動く。
でも——
結局、何も出なかった。
乱歩さんはそれを見て、ため息もつかない。
「……そっか」
それだけ言って、視線を逸らす。
「じゃあ今は、ここまで」
カーテンの方を見ながら、いつもの調子で。
「続きは__体が起きてからでいいや」
その言葉を最後に、
意識が、静かに沈んでいった。
——そして、
意識が浮上して、
最初に聞こえたのは、規則的な電子音だった。
……生きてる。
そう思った次の瞬間、
胸の奥がきゅっと縮んだ。
「……」
身体を起こそうとして、少しだけ力を入れる。
「お、起きた?」
すぐそばから、軽い声。
視線を向けると、椅子に座ったままの乱歩さんがいた。
腕を組んで、こちらを見ている。
その姿を見た瞬間、
口が勝手に動いた。
「……すみま――」
「はい、ストップ」
被せるみたいに、でも強くはない。
「今、その言葉使うとこじゃないから」
一瞬、言葉を失う。
「……でも……」
倒れたこと。
心配をかけたこと。
吐けなかったこと。
何に謝ろうとしたのか、自分でもわからない。
乱歩さんは、こちらをじっと見てから、少しだけ肩をすくめた。
「太宰さ、起きて一発目が謝罪ってさ」
軽く鼻で笑う。
「それ、もう癖になってるよ。お前」
図星で、何も言えなくなる。
「別に怒ってないし、困ってもない。
だから、そのカードは今しまっといて」
軽い調子なのに、
突き放された感じはしなかった。
「……」
シーツを握ったまま黙っていると、
乱歩さんは少しだけ声を落とす。
「吐けなかったのも、倒れたのも、
お前のミスじゃない」
一拍。
「単に、限界だっただけ」
責めても庇ってもいない、
ただ事実を言う声音。
喉の奥が、少し熱くなった。
「……」
「だからさ」
乱歩さんは立ち上がって、カーテンの方をちらっと見る。
「起きたばっかの人の仕事は、
謝ることじゃなくて、回復すること」
それから、いつもの少し楽しそうな笑い方。
「ほら、今は専門家も機械も味方なんだから。
お前は大人しくしてなよ」
「……はい」
小さく返すと、
乱歩さんは満足そうに頷いた。
「よろしい」
謝れなかったことに、
なぜか少しだけ、救われた気がした。
「…、」
少しの沈黙のあと、太宰は視線を逸らした。
カーテンの向こうを見ているふりをして、何も言わない。
「……」
その様子を、乱歩さんは見逃さない。
「あとさ」
軽い声。
けれど、目は鋭い。
「お前、都合悪くなると黙る癖あるよね」
太宰の肩が、ほんの一瞬だけ揺れた。
「……そうですか?」
とぼけた口調。
いつもの調子に戻そうとしている。
乱歩さんは、呆れたように笑う。
「ほら、そうやって。
話題変えるか、冗談言うか、黙るか」
椅子の背にもたれながら続ける。
「今回は“黙る”を選んだわけだ」
太宰は返事をしない。
シーツの端を、無意識に指で弄っている。
「悪い癖ってわけじゃないけどさ」
乱歩さんの声が、少しだけ落ちた。
「それ、限界の時に出るやつ」
空気が、静かに張りつめる。
「……」
「平気な時は、いくらでも喋るのに。
本当にきつい時だけ、急に静かになる」
言い切りでも、責めでもない。
ただの事実確認みたいな口調。
太宰は小さく息を吐いた。
「……さすがですね、乱歩さん」
軽口のつもりだった。
でも、声は少し掠れていた。
乱歩さんは肩をすくめる。
「褒めても何も出ないよ」
それから、少し間を置いて。
「黙っててもいいけどさ。
一人で抱え込むのは、今回はナシ」
太宰は、ゆっくり乱歩さんを見る。
「……それは、ご命令ですか?」
「違う違う」
即答。
「提案。
倒れる前に言えたら、今回は合格ってだけ」
太宰は一瞬、困ったように笑ってから、視線を落とした。
「……努力目標、ということで」
乱歩さんは、その返しに満足そうに頷く。
「それでいい」
少しの沈黙。
けれど、さっきまでの重さはなかった。
太宰は、胸の奥でひっそり思う。
——黙る癖。
——謝る癖。
全部、見抜かれている。
それが、なぜか不快ではなかった。
太宰は、視線を落としたまま、ぽつりと口を開いた。
「……じつは、」
声は低くて、いつもの軽さがない。
「吐けなかったの、怖かったんです」
乱歩さんは何も言わない。
ただ、聞いている。
「昔のこと思い出して……
体が言うことを聞かなくなって」
指先が、シーツを強く掴む。
「自分でも、情けないなって」
そこで、言葉が止まる。
乱歩さんは、少しだけ目を細めた。
「ふーん」
それだけ。
評価もしないし、否定もしない。
「……言えたじゃん」
太宰は、驚いたように顔を上げる。
「えっ…、?」
「今の。
ちゃんと“限界の前”」
一拍。
「合格」
太宰は、ほんの少しだけ、力の抜けた笑みを浮かべた。
「……それなら、よかったです」
それ以上は何も言わなかった。
乱歩さんも、深追いしない。
病室には、また規則的な電子音だけが戻ってきた。
でもさっきより、
少しだけ、息がしやすかった。