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Ⅹ
目が覚める。
『・・・』
片側に琥珀さん、
もう片側に茜さんがいた。
なんでだぁ!
僕は昨日、
ベッドを2人に譲り、ソファーで寝た。
僕は今、ソファーにいる。
茜さんも、そう言う子なのか。
やっぱり、琥珀さんと似ている。
『おはよう、甘ちゃん。』
『おはよう、甘さん。』
2人が起きたようだ。
『おは、よう…?』
なんていえばいいのかわからなくなってきた。
『今日もあそこに行くの?』
茜さんが言った。
『はい、行きます。茜さん、体調は大丈夫ですか?』
『うん、今のところ大丈夫。』
とのことで、剣士署へ行く。
『おお、あの時の子か!』
入るとすぐ、如月さんがいた。
茜さんが、僕の背中に隠れた。
『お?銅じょーちゃんと似てるな。』
如月さんもそう思うか。
『似てますよね。』
そして、
その、琥珀さんとは仲良くなったみたいだ。
昨日、一緒にお風呂入ってたし、色々話していた。
琥珀さんのそんな姿を見るのは初めてだった。
と、
『ヤホー!って…あっ!あの時の!元気してるの?』
桜乃さんが来た。
『ふぇぇ…』
茜さんは、そんな声を出した。
怖いのかな。
『あ…えーと、この子の名前は茜さんで、それ以外のことは覚えていないそうです。』
『記憶喪失ってことか?銅と同じじゃん。』
『えぇ⁉︎甘師匠って記憶喪失なの⁉︎』
あ、自分が記憶喪失だってこと、桜乃さんに言ってなかったな。
『ごめんなさい、伝え忘れてました…』
『そうだったんだ。2人とも大丈夫なの?もしかして、琥珀ちゃんもなの?』
桜乃さんが心配してくれた。
『琥珀は記憶喪失ではありませんよ。茜さんは、今のところは大丈夫だと言っていました。』
『茜と一緒にいたみたいだけどどうしたんだ?どっかで会ったのか?』
そ、それは…
『昨日、あの後に茜さんが目を覚まして…花咲さんによろしくと言われまして…寮に泊めました…』
『ワオ!』
『甘師匠…』
『そんなんじゃない!』
やっぱりその反応をされた。
『鬼塚さんに、‘なら、お前のところに泊めてやれ’と、言われまして…』
『マジか!それは断れないわー。』
『鬼塚さん、怖いですもんねー。』
うん!その通りです!
断れない。
『それで、見回りに連れて行くのか?』
如月さんが訊いてきた。
僕は、茜さんの方を見て、
『見回りの時、どうしますか?』
僕も訊いてみる。
『ついていってもいい?』
僕は、如月さんと桜乃さんを見る。
2人は頷いてくれた。
『では、行きましょうか。』
その後、島田さんと岡野さんにも事情を話し、
今日は7人で見回りをすることになった。
33
今日も、何も起きないことを願いたい。
そうして、歩く。
『にしても、目を覚ましてくれてよかったよ。』
皆、心配していた。
だから、記憶喪失とはいえ、特に問題は無さそうでよかった。
今のところは、だけど。
『そうですね。』
一つ、問題があるとすれば…
注射器。
トラウマになっていることも問題ではあるけど、検査の結果も気になる。
結果によっては…
『・・・』
考えたくない。
きっと大丈夫だ。
きっと。
僕は、茜さんの方を見ようとした。
『え?』
僕は立ち止まった。
『うぐぅ…』
茜さんがぶつかってきた。
でも、
それどころではない。
あそこにいるのは…
十字路の横、
その奥に、
『アイツは。』
レインだ。
刀が、腰にぶら下がっている。
『ん?どうした、銅。』
皆がこちらにくる。
『少し、気になる人がいたので…』
アイツ、ここで何をしているんだ?
と、
こちらに気づいたようで、振り返る。
レインは、僕の方を見て笑う。
こちらに歩いてくる。
-僕は思うんだ。本当に人を傷つけ、殺し合うことが悪いことなのかと。-
レインの言葉。
いつ、誰かを殺してもおかしくない男。
『やあ、こんなところで会えるなんて思ってなかったよ。』
レインは、いつものように振る舞っている。
『何をしようとしてるんだ?』
僕は、目を細める。
『僕だって人間だよ?外を出歩くくらいするよ。』
『その刀を持ってか?』
刃物を持って外に行くことは、やむを得ない時や許可されている場合ではないと違反だ。
自分も、人のことは言えないけど、
『君も銃をずっと持ってるみたいだけど?それと同じさ。人狼だし、武器を持ってないと危険だからね。』
そう言われるのは仕方ない。
でも、前のことがあったせいで怪しく見える。
『お前、何かするつもりなんじゃないか?そんなことはさせないけどな。』
如月さんが僕の横に並ぶ。
皆が、レインを警戒していた。
『琥珀さんと茜さんは少し下がっていてください。』
レインの余裕そうな表情と態度。
明らかに戦い慣れていたり、実力に自信があるんだろう。
つまり、
強い。
『ごめんけど僕は、銅と話がしたいんだ。他の人は、下がってくれないかな。』
『嫌だね。私の実力を見せてあげる。』
『手を出すのなら、止める。』
皆は、僕の横に並んでくれた。
と、
レインが、片手を少し上げて、
パチン!
手を鳴らした。
!
後ろから、複数の人が現れた。
その人たちは剣や刀を持っている。
そして、武器を構えてこちらに走ってきた。
琥珀さんと茜さんが危ない!
皆が、そちらに走った。
僕も、そちらに行こうとした。
が、
『君は僕のことを止めなくていいのかい?』
!
レインも、刀に手を添えていた。
僕も、剣に手を添える。
『君はまだ、人を殺すことが悪いと思っているのかい?』
『当たり前だ。』
『人を殺したのに、かい?』
それは!
『僕は、情報屋と殺し屋みたいなのをしてるのさ。だから、君のことを監視してた。だから、隠していても無駄さ。』
情報屋と、
殺し屋?
『これから、殺し屋の仕事をするんだ。ある人を殺せと言われてね。だから、今からその場所に行くんだよ。』
何を言ってんだ?
そんなことをペラペラと、
『殺しに行くだと?僕にそれを言って、止められないと思ったのか?』
『今の君には止められない。前に言ったでしょ?君の弱点は、自分から相手を傷つけないってことだと。僕は君に手を出すつもりはないよ。君が手を出してこない限りね。』
っ、
『あの時も迷っていたのか止められなかった。だから、何を言っても君は止められない。』
そうだった。
あの時、僕は何もできなかった。
危険だとわかっていても止められなかった。
『それなら、剣術を磨いても無駄だよ。』
なら、どうすれば…
そんなの、
僕はレインに向けて走り、腕を掴もうとする。
『ほぉ、そう来たか。』
だが、避けられる。
僕はレインを追いかける。
『それで、捕まえられるかな?』
ヘラヘラとしている。
レインは、余裕そうだった。
『くそぉっ!』
まだ追いかける。
必死に捕まえようとする。
けど、
全て、ギリギリのところで避けられる。
と、
『やあっ!』
琥珀さんがレインを捕まえようとした。
茜さんも、必死に追いかけている。
『2人とも、離れるんだ!』
僕は必死に言う。
何をされるかわからない。
『安心してくれよ。僕だって別に、関係のない人を傷つけたいわけじゃない。』
そんなの、
信じられるわけがない。
『また1人増えてるね。でも弱い。また負け犬のお世話をいているのかい?君はお人好しなんだね。』
『くっ!舐めるな!』
僕は、レインの動きを見て、
ここだ!
レインの腕を掴んだ。
『おぉ、やるねぇ。でも、掴んだだけ。』
!
足を引っ掛けてきた。
『あっ!』
僕は、その場に倒れた。
その時に、レインの腕を離してしまった。
『また、0からだね。』
レインは、笑っていた。
やはり、戦い慣れている。
まだ、全然本気を出していないだろう。
なのに止められなかった。
でも!
まだ、立ち上がる。
そして、追いかける。
と、
『お?』
茜さんが、レインを捕まえた。
『君は新しい子だね?茜、だっけ?人狼かと思ったけど、弱いなぁ。ほら。』
レインが茜さんの腕を掴んだ。
『やめろ!』
僕も、捕まえようとする。
けど、
避けられる。
『やめて、離して…』
茜さんが怯えている。
『おいおい、暴れちゃダメだよ。うおっ!』
レインが、バランスを崩した。
そして、
‼︎
『え?』
茜さんが、橋の柵にぶつかり、
その奥に、
『茜さん!』
僕は、追いかける。
僕も、柵を越えて、
茜さんの手を掴む。
けど、
落ちる。
ザバーン!
下には、水があった。
『ぷはぁ!』
水から顔を出す。
それほど落ちる高さがなかったことと、水深が深めだったことで、なんとか助かった。
けど、
『自ら落ちてまで助けようとするなんて、流石だね。』
レインはそれだけ言って、どこかへ行ってしまった。
それより、
『茜さん!』
周りを見てみる。
と、
『ぷはぁ、』
茜さんが水面から顔を出した。
と、
ザブーン‼︎
『え?』
何か落ちてきたみたいだ。
?
そして、
『ぱぁっ、』
『え?』
琥珀さんが顔を出した。
『え?』
まさか、レインが?
『甘ちゃんと茜ちゃん、大丈夫?』
琥珀さんが心配してくれた。
『あ…うん、大丈夫…』
『琥珀ちゃんも大丈夫?』
『うん、大丈夫だよ。』
皆、大丈夫みたいだ。
よかっ…
あ、
『琥珀ちゃん、頭に水草が…』
僕は、琥珀さんの頭に乗っている水草を取る。
『えへへ、甘ちゃん、今琥珀のこと琥珀ちゃんって言った。』
『あ、』
しまった。
つい、つられて言ってしまった。
でも、琥珀さんは嬉しそうだった。
『これからも、琥珀ちゃんって呼んで欲しいな。』
『えぇ…』
それは…
『おーい、大丈夫かー?』
上を見ると、如月さんがいた。
とりあえず上がらないと。
どこから上がろう。
周りを見てみると、
なんとか、近くにある階段を見つけた。
うわぁー、べちゃべちゃだ…
気持ち悪い…
そして、
『くしゅん!』
寒い…
『へくちゅ!』
琥珀さんも茜さんも寒いのだろう。
『一旦戻るか。』
剣士署に戻ることになった。
34
『何やってんのあんたたち…』
戻れば、花咲さんにジト目で見られた…
『橋から落ちました…』
『はぁー』
花咲さんは額に手を当てて、首を横に振った。
呆れてるな…
とりあえず、
シャワーを浴びて、
用意してくれた服に着替える。
はぁ、
酷い目に遭った…
もう、お昼か。
食堂で何か食べよう。
食堂に行って、お昼ご飯を食べる。
残念ながら、あまり休める時間はなさそうだ。
午後の時間。
あの付近を見て回る。
レインたちはいない。
『結局、アイツらに逃げられちゃったもんな。』
誰一人、捕まえられなかった。
誰かが、殺されるかもしれないのに…
僕はただ、誰も傷つかないことを願うことしかできなかった。
『こっちの方に行ってみよう。』
島田さんが、まだ見ていなかった方を差して言った。
今の、第1隊の隊長は島田さんだ。
僕たちは、そちらに進む。
と、
『おい、あれ…』
?
如月さんが何かを見つけたみたいだ。
そこには、
『え…』
僕は、琥珀さんと茜さんに見せないようにした。
『見ない方がいいと思います。』
そこにあったのは、
無惨な姿になった人。
倒れていた。
『ここは、私に任せてください。』
島田さんが、そちらに歩いていく。
『…もう、ダメみたいだ……』
ダメ、
それはきっと、
もう、亡くなっているんだ。
『くっ!』
怖かっただろう。
苦しかっただろう。
島田さんが、無線で伝えた。
誰がやったのかはわからないけど、
きっと、
レインたちだろう。
『アイツ!』
悔しいけど、何もできない。
何もできなかった。
止められなかった。
しばらくして、
後処理隊が来た。
『こちらは、私たちに任せてください。』
僕たち第1隊は、見回りを続ける。
だけど、雰囲気は良くない。
特に何も起きないまま業務時間終わった。
剣士署に戻る。
『俺たちは、最善を尽くしたんだ、仕方ないんだよ。明日は休みだから、また明後日な。』
如月さんが言った。
『はい、お疲れ様でした。』
如月さんが行ってしまった。
如月さんは、笑顔を見せていた。
でも、いつもと違う。
きっと、無理矢理笑顔を作っていたんだろう。
僕を元気づけようとしてくれたんだ。
きっと、辛いはずなのに…
35
ー俺は、剣士署を出る。
振り返る。
誰もいない。
寂しくなる。
あの時のことを思い出してしまう。
シンちゃん…
俺は、あの人のおかげでここにいて、変われたんだ。
でも、今はいない。
俺が、守れなかったから。
銅のように、助けようとすらできなかった。
今日も、アイツらを捕まえられなかった。
その結果、誰かが犠牲になった。
俺は、まだ弱かったんだ。
昔の銅に比べれば、まだまだ弱いもんな。
最近の銅は強くなってきている気がする。
いつか、近いうちに、
あの頃のように強くなるだろう。
『ヘヘッ、負けねぇからな、アマちゃん。』
アマちゃんは、仲間であり、最大のライバルだ。ー
『甘太郎、例の結果が来たよ。』
花咲さんが話しかけてくる。
注射器の検査の結果だろう。
『少し厄介だなぁ。甘太郎にも関係があるかもしれない。』
僕にも、関係が?
僕の、嫌な予想が当たったのだろうか。
『ULF-60 の改良型、人狼の力を消す薬と同じものが検出されたそうよ。』
『え…』
なんだよそれ、
そんなものがあるのか…
『この薬品はまだほとんど出回っていないし、かなり高価なものなんだけど、甘太郎も気をつけておいた方がいい。』
『・・・』
あの時、あの男が持っていた注射器には何が入っていたんだろう。
だけど、
もうすでに、ってことも…
その予想が当たっていたら、
『ほぼ間違いないだろうけど、茜に打たれているかは、血液検査をしないとわからない。』
僕は、茜さんを見る。
『血液を取るのは、注射器みたいなものなんだけど、どうする?検査する?』
花咲さんが僕の耳元で、小声で言った。
『やめといた方が、良いと思います。』
僕も、小声で言う。
『茜はもう、人狼の力がないと思ってた方が良いだろうね。最悪、普通の人間以上の力を奪われているかもしれない。特に改良型は強すぎるから、そういうこともあるんだよ。』
茜さんは全体的に、少し弱く感じる。
今も、僕の腕を掴む力が弱い。
それは、もしかして…
『ま、今日はこんくらいで、またね〜』
花咲さんが手を振って、背を向ける。
僕も、軽く手をあげておく。
『・・・』
ULF-60。
そんなものがあるなんて知らなかった。
もしそれが、もっとたくさんあって、簡単に手に入れられて、有名になったら…
嫌な目で見られたりしなくなるだろうか…
でも、そんなの…
嫌だ。
僕が、人狼は悪い人ばかりではないことを証明するんだ。
Dream of memorY.4
ー『なんで、生きてるの、』
俺のことを否定される。
そんなの、しらねぇよ。
好きで生きているわけじゃない。
好きでこんなふうに生まれたわけじゃない。
『なら、タヒねば?』
いっそ、その方がいいんだろうな。
コイツらも、皆も、それを望んでいる。
俺は、それでもいいか。
だけど、
心のどこかで、
怖がっている。
幸せになりたいと思っている。
-今を頑張れば、いつか幸せになれるはずだ。だから、こんなことしか言えないけど、信じて、生きるんだ。-
本当に、そんな日が来るのだろうか。
僕の、本当の父の言葉。
僕は、それを信じるしかなかった。
-誰かが辛い思いをしているなら、助けるんだ。そして、その子が正しいなら守って、その子が間違えたなら正してあられる人になって欲しい。-
そんなの、難しいよ。
そんなこと、簡単にはできないよ。
-君には、特別な力がある。だから、君ならできるはずだ。-
『・・・』
『いてぇっ!』
一人、男の子が転けた。
コイツは、
いじめてきたヤツの一人だ。
笑ってやろう。
俺は、歩く。
ソイツのところまで行って、
『何やってんだよ。』
俺は、
ソイツに、
手を差し出した。
『は?』
ソイツは、俺を睨んだ。
そして、
『ふざけんな!』
俺の手を叩く
行ってしまった。
やっぱり、意味なんてない。
助けても、変わらない。
もう、嫌になる。
俺は、教室に行く。
『○○が怪我をしたのはお前のせいだろ。』
入れば、すぐこれだ。
先生に決めつけられた。
『うわ、最低。』
『帰れよ!』
『お前が怪我すればよかったのにな。』
皆がから、罵声を浴びせられる。
もう、お前らから傷つけれてんだよ。
クソどもが。
『ちげぇよ、俺が転けただけだ。』
今、なんで言った?
アイツ、何を…
『お前がやったんだろ?もしかして、言えないように脅したのか?』
先生が俺を見る。
冷たい目だ。
『アイツはかんけぇねえよ!』
でもアイツは、否定した。
何してんだよコイツ。
頭でも打ったのか?
俺を庇っているように聞こえる。
『そうか、保健室に行かなくていいのか?』
『いい、』
アイツは、席に座る。
それから、アイツは…
暴言は言ってくるけど、
暴力を振るわなくなった。
『・・・』
父が言ったことが、初めてわかった気がする。
けど、
他のヤツらはまだ、暴力を振るってくる。
まだ、終わったわけじゃない。
あの子も、
水をかけられていた。
水をかけたヤツらは笑っている。
何も、変わっていないように見える。
それだけ、いじめるヤツが多いから。
どいつもこいつも皆、敵だから。
『お前ら、教室から出ていけ。』
先生も敵だ。
あの子と、廊下に出た。
どうするか、
『狼夢さん、遊びたい…』
『は?』
遊んでる場合か?
『いつも、一人、遊んでる。悲しい。』
マジかよ…
でも、何もすることがない。
こんなところで、立っていたくはない。
どこかに行こう。
俺は適当に、歩く。
あの子が、ついてきた。
『遊ぶの?』
『ちげぇよ。』
遊ぶことしか考えてないのか?
はぁ、
『何がしたいんだ?』
『?』
何度か訊いたけど、この子は不思議そうな顔をするだけだった。
『狼夢さんの近くにいたい…』
『はぁ?』
何を言ってんだよ。
『お前なんかと一緒にいたくない。』
俺は、この子に冷たくする。
そうすれば、離れていくと思ったから。
でも、
『いい子、する。』
この子は離れようとしない。
もう、気にせず歩く。
ついてくる。
『どこいくの?』
俺は、外に出る。
人がこなさそうなところに行こう。
俺は、校舎裏に行く。
ここなら、ゆっくりできるだろう。
この子がいなければな。
『ともだち?なって欲しい。』
『それ、何回も聞いた。』
その度に断った。
『友達、なったらこれ、あげる。』
そして、あの子が何かを取り出した。
青透明の丸い球体。
『これ何。』
『わかんないの。落ちてた。』
『そんなのいらない。』
そう言ったら、あの子が悲しそうにした。
ちょっと綺麗だけど、
『友達、いない。欲しいよ…寂しいよ…』
また、泣きそうだった。
『・・・』
下を向いて、落ち込んでいる。
『そんなものはいらない。でも、しょうがないから友達になってやってもいいぞ。』
仕方ない。
この子が、演技をしているようには見えない。
悪い人ではないかもしれない。
どうかを試してみるのもいいかもしれないし、
『ほんと?』
『俺も、友達はいない。だから、なるなら初めての友達だ。』
『初めての友達、嬉しい。狼夢さん、好き。』
この子が、笑顔になった。
前以上の笑顔。
本当に嬉しいんだ。
『・・・』
この子が悪い人だと、思えない。
本当に、俺と同じ…なのか?
『遊ぼう?』
その子が、近くに生えていた白い花を取る。
そして、
俺の頭に乗せた。
『えへへ、かわいい。』
『勝手なことするなよ。花が可哀想だろ。』
俺は、花を落とす。
『あ、お花さん、ごめんなさい…』
その子は、花に謝った。
『やっぱり優しいんだね。』
『なっ!』
またやってしまった…
『は、花ごとき、どうでもいい!汚れるからやめろ。』
『ごめんね?嫌だった?』
本当に、嫌だった。
だけど、
『大したことない。気にするな。』
そう答えた。
その子が、優しそうな目を向けてきた。
それからしばらく、
ただ、空を見上げていた。
あの子は、そんな俺を見ていた。
『雲さんふわふわ!』
『はぁ、』
あの子は、楽しそうだ。
もうそろそろ、給食の時間か。
でも、あの場所に行きたくはない。
今日は、ここにいよう。
何も、食べられないのか。
まぁ、別にいい。
あまりお腹空いてないしな。
『お腹すいた。何か食べたい…』
だけど、
この子はお腹空いているみたい。
『なら、行ってこいよ。』
『狼夢さんは行かないの?』
『行かない。』
行っても、食べられるとも限らないしな。
『なら、私も行かない。』
『大丈夫なのか?』
さっきお腹すいたと言ってたのに…
『一人、怖い。』
・・・
ぐぅ〜
その子のお腹が鳴る。
『大丈夫だから…』
でも、あまり大丈夫そうではなかった。
『ちゃんと、家で食べさせてもらえてるのか?』
それが気になる。
『食べてない。』
『あ、ぁ、』
食べさせてくれないのかもしれない。
どうしよう。
あ、
あの時の…
行ってみよう。
俺は立ち上がる。
『どこいくの?まってぇ。』
俺は、学校から出る。
『お家帰るの?もっと、一緒にいたいよ…』
俺は、目的の場所に行く。
と、
『お、来たのか。弁当いるか?』
弁当屋。
ここなら、もしかしたらと思って来た。
『一つあればいい…お願いします…』
俺は、頭を下げる。
『いいぞ、ほら。』
そこに、二つの弁当があった。
『え、』
『後ろの子もだろ?持ってけ。』
二つの弁当を差し出してくる。
『ありがとうございます。』
俺はもう一度頭を下げる。
そして、
近くにあった公園のベンチで、
『ほら、食え。』
弁当を二つ渡す。
『一つもらっていい?』
『二つでもいいぞ。』
『一つで大丈夫だよ。』
そして、食べる。
この時間なら、誰もいない。
公園に行ったのは、いつが最後だろう。
少し、昔のことを思い出す。
『美味しい…』
その子は、涙を流して食べていた。
そうだな、
美味しい。
そして、食べ終わり、
そこら辺を、歩いていた。
『学校、戻らないの?』
『戻っても、いいことない。こうしてた方がいい。』
こうしてた方が、間違いなくいい。
そうだ。
もう、学校に行かなければいいんだ。
『パパとママに怒られちゃう…』
『・・・』
そういうわけにはいかないか。
『なら、戻るか。』
今から行けば、5時間目には間に合うはず。
俺たちは、学校に行く。
酷い目に遭った。
でも、なぜか、
今までほど、辛くない気がした。
下校。
その時に、
『大丈夫?痛くない?』
指、
鉛筆で刺されたところが痛む。
『大したことない。』
でも、
あの子は、
俺の手を、両手で持って、
『はむ。』
『な‼︎』
口に咥えた。
ぺろぺろ。
『やめろ!』
あの子に、傷口を舐められた。
『傷には、唾液がいいってパパが言ってたの。…嫌だった?ごめんなさい…汚かったね…』
あの子が落ち込んだ。
傷が唾液で治る?
そんなのは知らない。
『ごめん、急にされたからびっくりしただけ。』
『ほんと?』
あの子は心配そうに、こちらを見ていた。
『ああ、大丈夫だ。』
周りに人がいなくてよかったとは思ったけど。
『心配してくれて、ありがと。』
『血の味、する。』
『ごめん、俺の手の方が汚かったな。』
血が、まだ出てたのか。
『ううん、大丈夫だよ。』
そうか。
大丈夫か。
そうして、あの子と別れて、
家に着く。
と、
『狼夢!』
母が、怒っていた。
俺は、黙っていた。
言いたいことはたくさんあった。
だって、何もかもが違うから。
だけど、言えない。
余計に怒らせるだけだから。
無駄だから。
そして、
父が帰ると。
『出ていけ。』
父が、冷たく言った。
『そうね、30分くらい反省しなさい。』
母が、俺を引っ張って、
外に出される。
家の、ドアの鍵が閉まる音がした。
もう外は、日が沈み始めていた。
俺は、適当に歩く。
反省も何もする必要はない。
そして30分ほどして、
家の中に入らせてくれる。
いつか、幸せになれるんだろうか。
それから、あの子といることが増えた。
『明日も、遊ぼ?』
あの子に誘われる。
明日は、学校は休み。
『9時くらいからずっと遊べるよ?』
『まぁ、俺も大丈夫だけど…』
『あの、おべんと食べた公園に来てくれる?』
『あ、あぁ、うん。まぁ、大丈夫…』
親が、許してくれるだろうか。
まぁ、俺のことはあまり気にしていないだろうけど。
でも、
ーごみと、仲良くしてるんだってね。あんなのといるからいじめるんでしょ。あんなのと、もう関わらないようにして。ー
母は、この子のことを悪く思っていた。
もちろん父もだろう。
『待ってるね。またね?』
あの子は、帰っていった。
で、
家に帰って、
『明日、9時前から遊びに行ってくる。』
母に伝える。
『ごみとじゃないよね?』
やはり、そう聞いてきた。
あの子は、悪い子じゃない。
そう言いたかった。
でも、そしたら止められる。
『違うよ。』
だから、そう言った。
『そう。』
母もそれだけ言って、夜ご飯を作る。
そして、次の日。
8時半。
『もうそろそろ言ってくる。』
母は、何も言わなかった。
そして、あの公園に行く。
と、
もうすでにいた。
まだ、20分くらい前だろうに。
『あ、狼夢さん!』
『もう来てたのか。』
あの子の私服も、薄汚れていた。
『うん、楽しみだったから。』
あの子と友達になってから、あの子は笑顔を見せるようになった。
『遊ぼ?』
あの子と、遊んだ。
『クマさんだよー』
『あ、犬さんだよぉ…』
何をさせられているんだろう。
この子が持っていた、小さなぬいぐるみ。
それで、遊んでいた…
『にゃんにゃん、ねこさんも混ぜてー』
この子は、嬉しそうだ。
でも、
面白くない。
『これ、遊びなのか?あとこれ、俺に似合わないだろうし…』
『他のことする?』
とは言っても、他にすることなんてない。
『・・・』
何をしよう。
『何も、思いつかない…』
残念ながら、何も思いつかなかった。
でも、子供の声が聞こえる。
『誰かくるかもしれないし、他のとこに行こう。』
俺は、立ち上がる。
やはり、子供たちがいる。
あの子も、ついてきた。
あてもなく、
ただ歩く。
『どこにいくの?』
『どこだろう…』
もはや、知らない道を歩いていた。
ここは、田んぼか?
住宅地を抜けて、緑と茶色の四角いものがたくさんある場所に来た。
ここは、人がほとんどいない。
『わあ!きれい!』
あの子は、景色を見て言った。
そうかな。
まぁ、見慣れた家ばかり見るよりマシだけど…
と、
あれは、
本当の親と見た…
名前はなんだっけ。
そこに向けて歩く。
あの子も、歩く。
そして着いたのは。
『わぁ!もっときれい!』
薄いピンク色の花をつけた木。
花びらが、落ちていく。
そこら地面も、花びらでピンク色になっている。
綺麗だ。
すごいな。
周りの木は、緑色なのに、
この木だけはピンク色だ。
ふと、あの子を見る。
目を輝かせて、ピンク色の木を見ていた。
あ、
『髪に、花びらついてんぞ。』
『え?』
取ってやる。
『ほら。』
一枚の花びら。
手から離すと、風に乗ってどこかに飛ばされる。
俺はしばらく、目で追いかけた。
そして、
また歩く。
大したものはないけど、
見慣れないものを見るのは楽しい。
あの子も、楽しそうだし。
しばらくはこうしていよう。
そして、
川に着く。
『水?流れてるの?』
『これは、川だよ。知らないのか?』
『かわ?初めて見た。』
そうなのか。
とは言っても、俺もあまり見たことはなかった。
川に近づいてみる。
水の流れる音が心地よい。
『冷たい、』
あの子は、川の水を触っていた。
俺も触ってみる。
確かに冷たい。
『狼夢さん、体洗ってもいい?』
『え?ここでか?』
何を言ってんだ?
『うん、』
まあ、いいか。
『俺は向こうにいるから、好きにしてていいぞ。』
俺は、もう少し上の方にいく。
お、
魚が泳いでいる。
俺も少し入ってみるか。
俺は靴と靴下を脱いで、川に入る。
冷たっ!
そして魚は、遠くに逃げた。
さすがに、あっちまでは…
深すぎる。
戻るか…
と、
『わ、わあ!』
え?
あの子の方を見ると、
転けそうになっていた。
あぶねぇな。
だが、
『ちょっ!』
ふらふらしている。
そして、
『きゃあ!』
あの子が、バランスを崩した。
!
走る。
なんとか、受け止めた。
『狼夢さん、ありがとうございます。』
『ったく、気をつけないと流されるぞ。』
『ごめんなさい…』
『え、』
だけど、気になったのは…
身体中、傷だらけだった。
中には、かなり痛そうな傷もある。
『もう、戻るぞ。』
『でも、まだ洗えてないよ。』
『服を着ろ。もう行く。』
俺は、見てはいけないものを見た気がする。
あんな傷、俺にはない。
俺が、守っていたはずなのに、
なんで…
『もう着たよ。』
『他のとこに行くぞ。』
『狼夢さん、怖いよ?どうしたの…』
『置いてくぞ、早くこい。』
俺は歩き出す。
あの子は、後を追いかけてきた。
『ごめんなさい。何かしちゃったかな、』
違う。
何もしていない。
『その傷、誰につけられたの。』
『この傷は…ほとんどがパパとママだよ。』
やっぱりだ。
親から、やられたんだ。
『私は、大丈夫だよ。』
『・・・』
俺に、止められるとは思えない。
だからと言って、他に何かできるわけじゃない。
どうすればいいのかわからない。
『気にしてくれてありがとう。』
『・・・』
『あの、狼夢君って言ってもいい?』
『あぁ…』
俺にできること。
それは、
家以外で、この子に傷をつけないようにすること。
まだ、俺はマシだから。
だから、俺が守るんだ。
俺たちは、その後も色々行った。
なるべく長い間、一緒にいた。
家にいる時間が少なくて済むように。ー
36
Ⅺ
目が覚める。
今日もソファーで寝たので、身体の至る所が痛い。
隣を見る。
茜さんと、琥珀さんがいた。
夢を思い出す。
その中でも、一番に残っているのは…
身体中にあった傷。
今の琥珀さんには、あまり見ないようにしていたが、傷はないはずだ。
でも、夢の中の小さな琥珀さんには、酷い傷があった。
あの傷なら、いくつか跡が残ってもおかしくない。
?
琥珀さんの肌…
『あ、あぁぁぁぁぁぁつ、』
小さな頃の琥珀さんの肌に、普通に触れたし、見た。
『………………………………っ!』
ギャアァァァァァァァァァァァァァァァァ‼︎
心の中で叫ぶ。
『甘ちゃん、おはよう、』
!
琥珀さんが起きた。
だめだ。
琥珀さんを見ると思い出す。
何やってんだよ、昔の僕!
『ふぅ〜。おはよう、琥珀様。』
大きく息を吐いて、落ち着く。
『甘ちゃん、大丈夫?』
『え?大丈夫だよ?』
自分でも、大丈夫なのかわからない。
『おはよう、甘さん。』
茜さんも起きた。
『おはようございます、茜さん。』
笑顔で、挨拶をする。
今日は、茜さんの服を買いに行かなきゃだな。
昨日、茜さん用の服があまりなかったので、買いに行くことになった。
まず、顔を洗お…
頭から白い花が咲いてる!
鏡に映る僕の髪に、白い花のついた髪飾りが付いていた。
『琥珀さん?』
『・・・』
目を逸らすな〜
これは、
茜さんにあげよう。
その方が絶対似合う。
茜さんの髪につける。
『それ、あげますね。』
『あ、ありがとうございます。」
茜さんは嬉しそうだ。
朝食を食べて、
準備をして、
バスに乗り、ショッピングセンターへ行く。
37
どれがいいだろうか。
3人で、見ていく。
『これはどうかな?』
琥珀さんが一着、服を持ってくる。
それは…
あの時僕に勧めたやつだ。
茜さんなら、いいかな?
『ち、ちょっと…派手かな……』
まぁ、そうなるよね。
うーん、
悩むなぁ。
『・・・』
男が、女性物の服を見てて大丈夫なんだろうか。
いまさらだけど思った。
まぁ、いいか。
『なら、これはどうかな?』
また、琥珀さんが一着の服を持ってくる。
それは…
僕と、琥珀さん用で買った服と似ている。
というより、
ほぼ、色違いである。
今回は、白いシャツに薄い黄色の羽織ものか。
うん、似合いそうだ。
あとは、
グレージュのスカートも購入する。
『あの、お金出してくれてありがとう。』
『あぁ、大丈夫ですよ。これくらい、なんてことありませんので。』
自分も、最初は琥珀さんが出してくれたからなぁ。
でも、あのお金は、
新田先生のかな…
まだ、お礼できていない。
また、行かないとな。
さて、あとはどうしようかな。
服屋が多くあって、雑貨屋やペットショップ…
ペットショップか。
『このあと、どこか行きたいところはありますか?』
『特に、ないかな、』
『私ももう大丈夫。』
2人は、特に行きたいところはないようだ。
なら、
『ちょっと、ペットショップに行ってもいいですか?』
何かを飼うわけではないけど、ちょっと気になる。
2人とも、頷いてくれた。
ペットショップに入る。
すぐ横に、犬と猫がいる。
『ワンちゃんとニャンちゃんだぁ!』
『わぁ〜かわいい!』
2人とも、嬉しそうだ。
僕も、ほとんど見たことがない。
動物って、こんな感じなんだ。
向こうに、魚もいる。
水の中を泳ぐ、綺麗な色をした魚。
『綺麗だなぁ、』
奥には、ウサギや小鳥、そしてハムスターもいる。
『どの子もかわいい!』
2人は、本当に楽しそうだった。
飼いたい。
『飼いたいな…』
2人も、飼いたいみたいだ。
どうしよう。
でも、仕事の時とか、家を空けているしなぁ。
ちゃんと世話をしてあげられるだろうか。
ちょっと難しいな。
『この子たちを飼うのは、難しそうだからなぁ、』
うーん。
『そっか…』
2人とも、残念そうだった。
僕がここに連れてきたから、なんとかしてあげないと…
調べてみるか、
スマホで、調べてみる。
大丈夫ではあるみたいだけど、
生き物だ。
可哀想なことをしたくない。
と、
あの時のことを思い出す。
夢の中ではあったけど、
これなら…
…どうかな?
確か、あそこに、
『ちょっと、こっちにきてくれませんか?』
2人を呼ぶ。
「「?」」
2人とも、不思議そうな表情をする。
でも、2人を連れてある場所へ。
36
Ⅺ
目が覚める。
今日もソファーで寝たので、身体の至る所が痛い。
隣を見る。
茜さんと、琥珀さんがいた。
夢を思い出す。
その中でも、一番に残っているのは…
身体中にあった傷。
今の琥珀さんには、あまり見ないようにしていたが、傷はないはずだ。
でも、夢の中の小さな琥珀さんには、酷い傷があった。
あの傷なら、いくつか跡が残ってもおかしくない。
?
琥珀さんの肌…
『あ、あぁぁぁぁぁぁつ、』
小さな頃の琥珀さんの肌に、普通に触れたし、見た。
『………………………………っ!』
ギャアァァァァァァァァァァァァァァァァ‼︎
心の中で叫ぶ。
『甘ちゃん、おはよう、』
!
琥珀さんが起きた。
だめだ。
琥珀さんを見ると思い出す。
何やってんだよ、昔の僕!
『ふぅ〜。おはよう、琥珀様。』
大きく息を吐いて、落ち着く。
『甘ちゃん、大丈夫?』
『え?大丈夫だよ?』
自分でも、大丈夫なのかわからない。
『おはよう、甘さん。』
茜さんも起きた。
『おはようございます、茜さん。』
笑顔で、挨拶をする。
今日は、茜さんの服を買いに行かなきゃだな。
昨日、茜さん用の服があまりなかったので、買いに行くことになった。
まず、顔を洗お…
頭から白い花が咲いてる!
鏡に映る僕の髪に、白い花のついた髪飾りが付いていた。
『琥珀さん?』
『・・・』
目を逸らすな〜
これは、
茜さんにあげよう。
その方が絶対似合う。
茜さんの髪につける。
『それ、あげますね。』
『あ、ありがとうございます。」
茜さんは嬉しそうだ。
朝食を食べて、
準備をして、
バスに乗り、ショッピングセンターへ行く。
37
どれがいいだろうか。
3人で、見ていく。
『これはどうかな?』
琥珀さんが一着、服を持ってくる。
それは…
あの時僕に勧めたやつだ。
茜さんなら、いいかな?
『ち、ちょっと…派手かな……』
まぁ、そうなるよね。
うーん、
悩むなぁ。
『・・・』
男が、女性物の服を見てて大丈夫なんだろうか。
いまさらだけど思った。
まぁ、いいか。
『なら、これはどうかな?』
また、琥珀さんが一着の服を持ってくる。
それは…
僕と、琥珀さん用で買った服と似ている。
というより、
ほぼ、色違いである。
今回は、白いシャツに薄い黄色の羽織ものか。
うん、似合いそうだ。
あとは、
グレージュのスカートも購入する。
『あの、お金出してくれてありがとう。』
『あぁ、大丈夫ですよ。これくらい、なんてことありませんので。』
自分も、最初は琥珀さんが出してくれたからなぁ。
でも、あのお金は、
新田先生のかな…
まだ、お礼できていない。
また、行かないとな。
さて、あとはどうしようかな。
服屋が多くあって、雑貨屋やペットショップ…
ペットショップか。
『このあと、どこか行きたいところはありますか?』
『特に、ないかな、』
『私ももう大丈夫。』
2人は、特に行きたいところはないようだ。
なら、
『ちょっと、ペットショップに行ってもいいですか?』
何かを飼うわけではないけど、ちょっと気になる。
2人とも、頷いてくれた。
ペットショップに入る。
すぐ横に、犬と猫がいる。
『ワンちゃんとニャンちゃんだぁ!』
『わぁ〜かわいい!』
2人とも、嬉しそうだ。
僕も、ほとんど見たことがない。
動物って、こんな感じなんだ。
向こうに、魚もいる。
水の中を泳ぐ、綺麗な色をした魚。
『綺麗だなぁ、』
奥には、ウサギや小鳥、そしてハムスターもいる。
『どの子もかわいい!』
2人は、本当に楽しそうだった。
飼いたい。
『飼いたいな…』
2人も、飼いたいみたいだ。
どうしよう。
でも、仕事の時とか、家を空けているしなぁ。
ちゃんと世話をしてあげられるだろうか。
ちょっと難しいな。
『この子たちを飼うのは、難しそうだからなぁ、』
うーん。
『そっか…』
2人とも、残念そうだった。
僕がここに連れてきたから、なんとかしてあげないと…
調べてみるか、
スマホで、調べてみる。
大丈夫ではあるみたいだけど、
生き物だ。
可哀想なことをしたくない。
と、
あの時のことを思い出す。
夢の中ではあったけど、
これなら…
…どうかな?
確か、あそこに、
『ちょっと、こっちにきてくれませんか?』
2人を呼ぶ。
「「?」」
2人とも、不思議そうな表情をする。
でも、2人を連れてある場所へ。
38
そこは、ゲームセンターだ。
人がちょこちょこいるのと、音が色々聞こえるのは苦手だけど…
ここに、
『あ、あの子かわいい!』
『ほんとだ!』
昔の琥珀さんは、ぬいぐるみが好きだった。
今はわからないし、生きている方がいいかもしれない。
あと、茜さんはどうだろうか。
それが少し心配だった。
でも、
2人とも、気に入った子を見つけたみたいだ。
あれは…
UFOキャッチャーとか言う機械の中にある、
ハムスターのぬいぐるみか。
確かに、かわいい。
一回100円か。
お金を入れる。
『そこのボタンを押すのかな?』
よくわからない。
琥珀さんと、茜さんにさせてみる。
いいところにいったんだけど、
すぐ、その場に落ちてしまう。
もう一回。
もう一回、
もう一回…
………
チャリン。
本当に取れるのだろうか。
と、
お!
しっかり掴んでいる。
そして、
『とれた!』
見事、一つとった。
でも、
2人に渡すなら、
もう一つ、だな。
チャリン。
自分もやってみる。
うわ、
マジか、
掴む力が弱くないか?
もう一度、
『ぬああ!』
まだまだ!
『ああ!』
最後の一回、
『あと少しなのに!』
これでラストォ!
ポトリ。
『へ、へへ、まだ、お金はあるぜ…』
『もう、大丈夫だよ?』
『甘さん、大丈夫?』
2人から心配される。
頼むから、取らせてくれ!
と、
『よし!』
なんとか、とれた。
『はい、この子もどうぞ。』
2人に渡す。
これで、1人1つずつになる。
『甘ちゃんはいいの?』
『僕はいいよ。』
2人が喜んでくれればいい。
『ありがとう。大事にするね。』
僕も、2人も笑顔になった。
さて、
お昼か、
『お昼、ここらで食べましょうか。』
皆で、前に行ったカフェに行くことに。
皆、注文して、食べる。
そして皆が食べ終わり、
帰る。
と、
『あの、甘さん。』
茜さんが僕を呼んだ。
『何か、ありましたか?』
僕は、茜さんを見る。
『私にも敬語ではなくて構いませんよ?あと、茜と呼んで欲しいのと…』
茜さんが、少し下を向いた。
『私も甘ちゃんと、呼んでもいい?』
茜さんの頬が赤くなっている。
『あ、あぁ、大丈夫です。あ、大丈夫…』
こっちも恥ずかしくなる。
『あ、甘ちゃん。』
『ふぇぇ⁉︎』
変な声が出た。
『い、今のは呼んでみただけ…』
『・・・』
そ、そうか…
『茜ちゃんとだったら、浮気しても許すよ?』
『うぐっ!』
浮気…
て、許すんだ…
『えと、甘ちゃんと琥珀ちゃんはお付き合いしてるの?』
『うん、甘ちゃんとお付き合いしてるよ、』
ああ、茜さんに伝えてなかったな。
『ご、ごめんなさい!私、邪魔だよね…』
『ううん、邪魔じゃないよ。これからもずっと、いっしょにいようね。』
『ほんと?いっしょにいてもいいの?』
『うん!』
琥珀さんが頷いた。
茜さんが僕を見た。
『琥珀がいいって言ってるなら、僕も大丈夫だよ。』
笑顔を見せる。
なんか、悪いことしてる気分だけど、
いいのかな。
その分、2人を幸せにしよう。
39
このあとはどうしよう。
たまには家で、ゆっくりしているのもいいかもしれない。
2人は、先程取ったぬいぐるみで遊んでるいる。
僕は、
スマホって、ゲームとかもできるんだっけ?
遊んでみようかな。
スマホを取り出す。
ピロン!
と、
スマホが鳴った。
なんだろう。
スマホの画面を見ると、
{銅で間違いないかな?今、無法地帯で面白いことが起きてるんだけど、君も来ないかい?
レイン}
!
レイン!
なんでメッセージを…
アイツ、一体何を…
無法地帯。
今から行くか?
『どうしたの?』
『大丈夫?』
2人を連れて行くべきだろうか。
訊こう。
『今から無法地帯に行くけど、琥珀と茜は行く?あそこは今、危険かもしれないけど…』
琥珀さんは一度連れて行ったことがあるわけだけど…
今は、もっと危険かもしれない。
今の僕に、何かできるとは思えないけど、
こんなメッセージを送られて、何もしないわけにはいかない。
『行くよ。』
『私も行く。』
2人も来るみたいだ。
『よし、行こう!』
僕たちは走った。
そして、
立ち入り禁止?
出入り口に人がおらず、立ち入り禁止の看板が立てられていた。
でも、行けそうだ。
行くしかない。
無法地帯の中へ入る。
人がいない。
一体どこに…
歩く。
と、
遠くで、銃声が聞こえる。
やはり、何かが起こっているんだ。
銃を持つ。
この銃、残りの弾はどれくらい残ってるんだろう。
せいぜい、2発程度しかないだろう。
でも、他に武器はない。
やるしかない。
色々な方向を見ながら進む。
と、
『アンタも来たのね。』
!
背後から声がした。
勢いよく振り返ると、
ヒナタさんがいた。
『こっちにも、敵が来てるわよ。その女たちは戦えないんでしょ。そこに隠れてなさい。』
こちらに敵が来ている。
僕は、ヒナタさんが差した方に琥珀さんと茜さんを隠す。
そして、銃を構える。
『ちゃんと弾はあるんでしょうねぇ。』
『それは、わからないです。』
『はぁ?なら、コレを使いなさい!』
そして渡されたのは、ナイフ。
『ありがとうございます。使わせていただきます。』
40
ナイフを受け取り、構える。
『来るわよ!』
ヒナタさんが見ていたところから、剣を持った人たちが飛び出してきた。
僕は走る。
が、
ヒナタさんの方が速く動いた。
『はあっ!』
ヒナタさんが、短剣を振る。
僕も、ナイフを振る。
バン!
相手の中には銃を持つ人もいた。
『せああっ!』
ナイフを振り回す。
!
この感覚、
『クソッ‼︎』
敵が、次々と倒れていく。
そして、
あっという間に全員を倒していた。
『アンタ、なかなかやるわね。』
ヒナタさんが短剣を空中で回しながら、こちらに来る。
『ヒナタさんこそ、驚きました。』
とても速い動きで、次々と敵を倒していた。
『アタシは戦い慣れてんのよ。次はあっちね。』
ヒナタさんが走る。
僕も、琥珀さんと茜さんを連れて追いかける。
ヒナタさんは、建物の壁を越えていく。
速いな。
僕たちは、少し遠回りをしながら追いかけ続ける。
まただ、
また、剣などを持った人たちが現れる。
『ここに隠れてて。』
2人に隠れてもらって、ナイフを構える。
そして突っ込む。
『やあっ!』
ナイフを振る。
次は、そこだ!
ナイフを振り回し、敵を倒していく。
『右!』
ヒナタさんが言った。
!
右側から、剣が振り下ろされてきた。
間一髪、避ける。
背中を合わせるように、ヒナタさんがいる。
『ありがとうございます。助かりました。』
『礼は、勝ってからにしなさい。』
僕と、ヒナタさんは走る。
敵と、戦っていく。
『はっ!』
ナイフを空中で持ち替えて、斬る。
終わりだ。
近くの敵は全員倒した。
『アンタ、傷だらけじゃない。それ、わざとやってない?』
『先に、傷をつけるわけにはいかないと思ったんです。』
『はぁー。アンタ、バカなのね。あんなヤツに手加減なんかいらないわ。ここは無法地帯だから、悪いヤツは殺したっていいのよ。』
そうなんだろう。
だけど、
『そう言うわけには…』
やっぱり、抵抗がある。
41
と、
前から人の気配がした。
『ははは、やっぱりキミは面白い。』
『レイン!』
レインが笑いながら、手を叩きながら歩いてくる。
『来てくれたんだね。ま、来るとは思ってたけど。どう?面白いでしょ?』
『くっ!』
いつものように、ヘラヘラとしている。
『これ全部、アンタたちの仕業なのね。なら、アタシが止めるわ。』
ヒナタさんが、その場で短剣を振り、構える。
僕も、ナイフを構える。
『僕は、キミに傷をつけたいわけじゃない。そう言っただろう?』
コイツ、何を言ってんだ?
『ただ、キミの選択が正しいのかを見てみたいんだ。それでキミの夢が叶うのかをね。』
ヒナタさんが走る。
『おっと。リンネ、よろしく。』
と、
レインの後ろから、人の姿が。
その、まだ少女らしき人が、ヒナタさんの方に歩く。
そして、
隠していた手に、ナイフがある。
両手に1つずつ。
ヒナタさんは斬りかかるが、リンネと言われた少女は、ナイフで受け止めた。
僕も走る。
武器を使えなくても、止める!
僕は、リンネに向けて走り、
近くまで行って、
レインに、狙いを定める。
『へぇ、』
だが、
避けられた。
『今のは、そのナイフを使えば致命傷を与えられただろうね。』
っ!
まだ、追いかける。
『それは、昨日も散々やっただろう?無駄だと思うけど。』
『諦めるつもりはない。』
僕は、追いかけ続ける。
『なら…』
レインが、怪しく笑う。
と、
え?
『今までのが、本気だと思った?』
レインが、すぐ耳元で言った。
ほんの一瞬で、視界から消えた。
『コレでも、続けるのかい?』
『・・・』
レインの本気は、思っていた以上だった。
今の僕に、倒せる力はない。
なら、どうすればいい?
わからない。
どうすれば…
と、
!
誰かに押された。
僕は、倒れる。
と、
ナイフが、飛んできていた。
『ボーっとしてたら、殺されるわよ!』
また、ヒナタさんが助けてくれたようだ。
そちらも、苦戦しているようだ。
なら、
僕は、
ナイフを構え、
レインに向かって走る。
そして、
ナイフを、レインの首を狙って振る。
スッ!
首元で止める。
でも、
レインは動かなかった。
『残念、そのまま斬るのかと思ってたのに。』
そのまま斬っていたら、レインに致命傷を与えていたはずなのに、
レインは冷静だった。
なら、
倒す!
足を引っ掛けて、倒そうとする。
でも、また避けられた。
『それも、無駄だね。』
やっぱりダメだった。
なら、どうすればいい?
僕が先に攻撃をするか?
でも、レインが、
刀を使ってきたら?
勝てるのだろうか…
『おや?』
ヒュン!
何かが、とんでもない速さで飛んできた。
『危ない危ない、あと少しで当たってたよ。』
レインは、避けたのか?
あんな速さの何かを、
ピュン!
まただ。
すぐ真横を、何かが通った。
これは…
よく聞いてみると、
遠くで、破裂音のような音がする。
銃声だ。
他の銃声に混じって、一際大きい銃声が聞こえる。
『ふむ、あそこかぁ。なかなかの腕前だ。』
レインは、弾丸を全て避けた。
コイツ、本当に人間かよ。
『あの人は、完全に殺す気だな。さて、帰るか。』
何?
『行こうか、リンネ。』
2人が、逃げようとしている。
『逃すと思ってんの?』
ヒナタさんが走る。
僕も、追いかける。
だが、
『またね〜。』
レインが、何かを落とした。
これは?
落ちた何かから、白煙が上がる。
そして、
あたり一面、煙に覆われて見えなくなった。
逃げられた。
42
ー『逃げたか。』
遠い、マンションの上。
俺は、銃のスコープを覗く。
白煙で、見えなくなった。
あの男、危険だ。
間違いなく、強いんだろう。
でもアイツは、何もしなかったようだ。
あの赤髪の男と灰色の目を持つ女が、犯罪組織の仲間だとは思えない。
だけど、周りにいた奴らはは全員、ここをよく襲ってくる犯罪組織の仲間だった。
だとしたら、
何がしたかったんだろう。
まぁいいか。
もう、アイツが来ないことを願おう。
五十嵐と蒼の方も、片付いたようだし。
これで、一旦は終わった。
銃を下ろす。
風が、紺色の髪を揺らす。
この無法地帯に住んでいる人の中で、今は俺だけが人狼だ。
この力のせいで、親に利用された。
毎日、黒いコンタクトをつけさせられて、髪も、黒く染められた。
まぁ、おかげで酷い目には遭わなかったけど、俺が酷いことをした。
親も自分も気に入らない。
人が、信じられない。
師匠の銃を見る。
師匠なら、仕留められただろうな。
さて、
食べられそうなものでも探すか。
もちろん、金なんて持ってない。
弾丸も、もう残りは少ない。
あのバカなら、金は持ってるだろう。
今日も、稼いだんだろうな。
でも、ほんの少し。
あんな安い金で、命をかけて戦うんだ。
弱いくせに。
本当に、
『・・・』
マンションを降りると、
何かが落ちていた。
いや、
置いてあった。
ペットボトルの水と、ハンバーガー?
なんでここに、
と、
紙が置いてあった。
手に取り、見てみると…
助かったぜサンキューな!
その水とハンバーガーは、いつものお礼だ。
俺たちはいつだって待ってるから、あの場所に、気が向いたらでもいいから来いよ!
五十嵐と蒼より
本当に、バカな奴だ。
この島に来るのは俺だけでよかったのに。
連れてかれたのは、俺だけだったはずなのに。
アイツらがついて来て、無法地帯の奴らを助けたいとか言い出して、
誰も行きたがらない場所に行って、
本当に、助けている。
何がしたいのか、よくわからない。
自ら苦しむ道を選ぶなんて、
『本当に、バカな奴だな。』ー
43
『逃げられたわね。』
ヒナタさんが言った。
もう、アイツの姿は見えない。
『アンタ、アイツのこと知ってるみたいだったけど、仲間じゃないでしょうね。』
『違います。レインという男とは、前にも会ったことがあって、人を殺すことが悪いことだとは思わないって言ってたんです。アイツのことは、初めて会った時から危険な人だと思っていました。』
アイツは刀を持っていた。
普通なら、あんなものを持っているはずがない。
『アイツは、情報屋と殺し屋をしていて、昨日はある人を殺すと言っていました。そして、少しして、近くで死体を見つけました。』
アイツは昨日、本当にやったんだろう。
『結構やばそうね。あの女もかなり戦い慣れているようだったし、まだ本気じゃなさそうだったわ。』
リンネとは初めて会ったけど、ヒナタさんでも倒せなかったということは、かなり強いんだろう。
でも、僕は…
何もできなかった。
レインは、僕の弱点を知っている。
だから、刀を使わないんだ。
完全に、舐められている。
『あ、また助けてくださりありがとうございました。』
僕は、頭を下げる。
そして、ナイフを返す。
『別に、構わないわ。でもここだと、助けてくれる人なんてほとんどいないから、気をつけて。そうね、それこそ五十嵐と蒼くらいしか、他人を守ろうとする人はいないだろうね。』
そうなんだろうか。
でも、
助けてくれた人もいたような…
『皆、他人に興味ないのよ。助けてくれる人がいても、それは利用しようとしてるだけだから、騙されないようにした方がいいわね。』
利用しようとしてるだけ、か。
言われてみれば、そうだったのかもしれない。
『それだけ、ここは厳しい環境なのよ。この島自体、日本から見放されてるわけだけど、ここは無法地帯だから、特に犯罪も多いのよ。』
この島が、日本から見放されてる、か。
『さて、弾丸を買いに行きましょ。あっちで売ってるから。』
『え?』
弾丸を、買いに?
『弾丸、もうないんでしょ?殺されるわよ。』
『は、はい…』
僕は、ヒナタさんについていく。
琥珀さんと茜さんを連れて。
しばらくして、
『ここよ。』
1つのお店に入る。
『え、』
そこに、
銃がたくさん並んでいた。
『あ、あぁ…』
ナイフや、剣まで…
『マイケル、弾丸を買いに来たわよ。』
『なんだ?ヒナタ、弾丸が欲しいのか?』
そして、
ガタイのいい、外国人らしき男が立っていた。
『アタシじゃないわ、アイツによ。』
『だ、弾丸を買いに来ました…』
マイケル?がこちらを見る。
『あぁ?初めてみる奴だな。で、何ミリのが欲しいんだ?』
何ミリ…
『えと、この銃に合ったものを…』
『おいアンタ、コレをどこで手に入れたんだ⁉︎』
マイケルは僕の銃を見て、驚いた。
『その…僕、記憶喪失でして…覚えてないんです…』
そんなに珍しいのだろうか。
『8万、いや10万出す!だからコレを売ってくれ‼︎』
『・・・』
じ、じ10万‼︎
そんなにすごいのか?
だけど、
まだ使えるし、
思い出すまで、売らない方が良いだろう。
『すみませんが、コレは売れません。』
この銃を、なぜ僕が持っているのかがわからない。
だから、それがわからない今、勝手なことはしない方がいいだろう。
『そうか…コレにに合うのは、コイツだな。』
マイケルが1つ、弾丸の入った箱を取り出した。
『一箱3000円だ。コレでも、安い方だからな。』
実際、どれくらいかかるのかなんてわからないけど、
2つくらい買おう。
6000円を出す。
と、
『1000円くらいなら出してあげるわ。』
ヒナタさんが1000円を出した。
『え?えと、僕のですよね?
『出してやるって言ってんのよ。利用価値がありそうだからね。』
『あ、あぁ…』
利用されるのか。
僕は5000円出してそれを購入する。
『アンタって、騙されやすいのね。』
え?
『普通ならこうなった時は、殺される。だから、気をつけろって言ったのよ。』
『・・・』
『死にたくなかったら敵だと思ったヤツに遠慮はいらないし、他人を信じない方がいいわ。』
それだけを言って、ヒナタさんは店を出た。
そうなんだろう。
自分でも、わかっている。
レインにも、似たようなことを言われたな。
でも、
そんなことを、したくない。
するべきじゃない。
そう思っている僕がいる。
どっちが正しいんだろう。
わからない。
僕も、店から出る。
帰るか。
ここにいるのが怖い。
怖くなってしまった。
五十嵐さんと蒼さんに声をかけようと思ってたけど、
やめよう。
僕は、歩く。
『甘ちゃん…』
琥珀さんと茜さんは、心配そうにこちらを見ていた。
無理やり笑顔をつくる。
そして、無法地帯を出る。
44
家に着く。
もう、18時か。
夕食の準備をしよう。
琥珀さんと茜さんの2人と、夜ご飯を作る。
今日はオムライスとサラダ、あとコーンスープ。
『今回は美味しいの、できると思うから…』
琥珀さんは、ちょっと心配そうだった。
でも、僕も茜さんも料理はほとんどできない。
オムライスは琥珀さんにお願いして、
僕はきゅうりを切り、茜さんはレタスの葉を剥がす。
そして、
ミニトマトを添えて、
サラダが完成した。
まぁ、こんなもんか?
オムライスも、もうできそうだ。
他にできる準備をしておこう。
そして、
完成した。
「「「いただきます。」」」
さて、食べよう。
オムライスをひとかけらスプーンに乗せ、口に運ぶ。
!
『美味しい!』
卵が、ふんわりとしている。
『美味しいよ琥珀ちゃん。あとで、オムライスの作り方教えて?』
茜さんも、気に入ったようだ。
『うふふ、ありがとう。作り方は、また次の時に教えるね。』
そうだな。
僕も、料理の作り方を教えてもらおうかな。
スマホでも、調べたら出てくるかな?
こんな、美味しい料理を作ってみたいと、
そんなことを思ってしまうオムライスだった。
食べ終わって、
風呂の時間。
『今日はみんなで入ろ?』
へ?
『いや、流石に3人は入れないと思うよ…』
2人でも、かなり狭かったし、
無理がある。
なんとか、みんなで入ることは避けた。
琥珀さんと茜さんが先に風呂に入って、
僕は、2人が出た後に入る。
1人の時間だ。
2人には悪いけど、1人の時間もいいと思う。
何も考えず、ボーっとする。
けど、
-『君は自分から攻撃をしない。相手からの攻撃を受けてから戦うようにしているみたいだね。』
『君は、敵にも優しくしようとしてるように見える。それじゃあ、近いうちに殺されちゃうよ?』
『まず君は半年ほど眠っていたみたいだけど、今の君はあまりに弱すぎる。』-
あの時のレインの言葉が、頭をよぎる。
なるべく人を傷つけず、正しく、強くなるためにはどうすればいい?
『人を救うためには、犠牲も必要なんだよ。』
犠牲。
何かを買うのにお金が必要なように、
何かを得たいのなら、それ相応の代償が必要なんだ。
昔の僕は、どんな選択をしたんだろう。
何をすればいいか、わからなくなってきた。
もう出よう。
風呂を出る。
その後は、寝る準備をする。
『今日はみんなでねよ?』
『流石に3人は難しいんじゃないかな。』
2人までだと思う。
3人いたら、寝返りすらできないだろう。
昨日も、一昨日もこの話をした気がするけど…
『甘ちゃん、最近一緒にいてくれないから寂しいよ〜』
琥珀さんが、頬を膨らませていた。
『今までずっと一緒にいすぎただけじゃないか。』
『そうかもしれないけど、ずっと一緒がいいの。』
これでも結構一緒にいた気がするんだけど…
仕方ない。
『わかったよ。茜がいいなら、みんなで寝よう。』
『いいよ。私もそうしたい、から。』
茜さんもいいみたいだ。
僕は、ベッドで横になる。
『甘ちゃんは真ん中ね?』
は、はぁ…
2人も横になる。
2人に挟まれる。
『両側、大丈夫か?変わるけど…』
『大丈夫だよ。』
『こっちも大丈夫。』
ならいいか?
眠ろう。
電気を消して、
眠る。
-死にたくなかったら敵だと思ったヤツに遠慮はいらないし、他人を信じない方がいいわ。-
あの言葉が忘れられず、なかなか寝付けなかった。
Dream of memorY.5
ーどうすればいいんだろう。
わからない。
親から暴力を振るわれているのなら、
どうしたらいい?
『・・・』
あの子のことばかり考えていた。
俺は頭を横に振る。
違う!
あの子は、騙してるんだ。
きっとそうだ。
信じてなんか…
アレを見て、信じるなと言われる方が難しいだろう。
なら、やっぱり…
学校に行く。
今日も変わらず、暴力を振るわれる。
痛い。
なのに、
足りない。
あの子はもっと…
『くっ‼︎』
歯を食いしばり、拳を強く握りしめる。
そして、
『大丈夫?痛い?』
あの子が、心配してきた。
『別に、痛くないからいい。』
この子に比べれば、
なんともないのと変わらなく感じる。
『狼夢君、無理してる?』
無理、
それは…って、
『狼夢、君?』
『うん、狼夢君。』
いつもと違う。
いつもは確か、狼夢さんって言ってたような。
『昨日、そう呼んでいいって訊いたらいいって言ってくれたよ?』
そうだっけ?
覚えていない。
そういえば…
そんなことを訊かれて、
適当に返したような…
まぁ、いいや。
『別に、無理してない。教室行くぞ。』
『うん。』
今日は、
『人狼。コイツらは、産まれた時から最低なヤツだ。』
酷い授業だ。
僕は、教室の前に立たされる。
『人狼には、こう!するといい。』
先生に殴られる。
そして、周りから笑われる。
人の苦しむ姿を見て笑えるなんて、
素晴らしいクズだな。
そんなことを思った。
休み時間、
泥水をかけられて、
髪を引っ張られて、
膝蹴りをくらう。
『お前も、ゴミだな。』
なんだよそれ。
お前らがゴミだろ。
でも、そんなこと言えない。
水道で、頭を洗う。
身体の方は、仕方ないか…
給食の時間。
俺とあの子の机の上に乗せられたのは、
残り物ばかり。
そして、
ゴミが入っている。
こんなの、いらない。
食えるわけがない。
『お腹、すいた…』
そうだよな。
でも、食べれるものなんてない。
あの弁当屋に行くか。
俺は立ち上がり、教室から出る。
『まってぇ!』
あの子がついてきた。
『弁当屋に行くぞ。』
あそここそ、信じていいのかがわからない。
でも、あそこしかない。
そして、弁当屋へ。
『今日もきたのか。ほら、弁当だ。』
『ありがとうございます。』
弁当を受け取って、公園で食べる。
さて、戻らないと。
学校に戻って、
つまらない授業を受けて、
帰る時間になって、
帰ろう。
あの子と帰る。
『お前は、俺のことを疑ったりしないのか?』
気になって、訊いてみた。
すると、
『ううん、疑ったことなんてないよ?だって狼夢君、優しいもん。』
『おまっ!優しくなんてないって言っただろ。』
でも、
『ちゃんと優しくしてくれたよ?』
この子は言うことを聞かない。
『そんなこと…』
『ごみって、名前で呼んで欲しいな、』
本当に、勝手だな…
『そんな名前でなんか呼ぶか!』
そんな名前で呼びたくない。
『なら、狼夢君が新しい名前付けて?』
『嫌だよ。』
面倒だな。
『お前はあっちだろ?さよなら。』
あの子と別れる。
そして家に着いて、
家を、また追い出された。
弁当屋に行くか。
『また来たのか、ほらよ。』
弁当箱を渡された。
『ありが…』
え?
向こうに、人が写った写真が飾られていた。
『あぁ、あれか?あの人は、私の姉さんだ。
『ねぇさん…』
『昨年に、亡くなったんだ。あの子も、人狼だった。』
そうか、だから…
『困ったことがあれば、ここにくるといい。昨日一緒にいた彼女も連れてな。』
『ありがとうございます…』
この人も、信じていいかもしれない。
弁当を食べて、家に帰る。
家に帰っても、少量のご飯しか出してくれない。
弁当を食べてよかった。
そんな日々が、しばらく続いた。
そんなある日。
黒板に、机に、狼無と書かれていた。
僕の名前も、ひどいと思うようになった。
人狼でも、夢を持っていいとかなんとかで、狼夢という名前になった。
でも、狼という字が嫌いだった。
俺は、狼じゃないから。
なのに夢が無にされてしまったなら、もうそれは、悪口にまで聞こえる。
『無能!』
『無価値のゴミ!』
やっぱり、そういう意味か。
今日から、そう言われるんだろうな。
本当に、そうだった。
まぁ、予想はしていたけど。
もう帰ろう。
『きゃあ!』
と、
あの子が叫んだ。
なんだろう。
『どうした?』
嫌な予感がした。
が、
『むし!や!こわい!』
あの子のスカートに、
なんだっけこれ?
赤くて黒色の丸い模様がある丸っこい虫がいた。
なんか色々丸いな。
あ、
確か、てんとう虫?
害はないよな?
『はぁー、』
ため息を吐いて、
手で振り払ってやる。
『狼夢君、怖くないの?』
『怖くはないな。』
なんならちょっと可愛くも見えるくらいだ。
『ありがと、狼夢君。』
『・・・』
この子も、そう呼ぶ。
きっと、この子は、
この子だけが、夢として呼んでくれているのかな。
でも、やっぱり嫌になる。
家でも、
『狼夢!何度言ったらわかるの?本当に私の話を聞いてるの?今までのは全部無駄だったんだね。』
『無能だなお前は。出て行け。』
また、家から追い出される。
『お前は、他人なんだよ。この家にはいらない。もう戻ってこなくていい。俺は、それを望んでいる。』
やはり、父は俺を歓迎なんてしていなかったんだろう。
人狼である俺を歓迎したのは、あの母だけたった。
人狼のことを信じてたんだろう。
でも、裏切られた。
まぁ仕方ないか。
事実を知らないから、先生が言ったから、嘘を信じてしまったんだろう。
は?
なんだよそれ!
ふざけんなよ!
俺は人狼だ。
だから、周りからいじめられることなんてわかるだろ。
簡単に騙されてんじゃねぇよ!
俺は、頭を抱える。
俺もあの子も、苦しんでんだよ。
何もしてないのに、辛い思いをしてんだよ。
いつも通り、弁当屋へ。
もう夏だ。
暑い。
『・・・』
あの家に、あと何日いられるだろうか。
そのあとは、どうしたらいいだろうか。
わからない。
今日は、あそこに帰れるのかな。
行ってみるしかないか。
帰ると、
父は、明らかに不機嫌そうだった。
母も、俺のことを気にしなかった。
次の日、
あまり寝れなかったせいで、眠い。
でも、やっぱりいつも通りで、
いじめられて、
痛い思いをする。
俺に、居場所がないようで、
『っ‼︎』
イライラする。
そんな時、
『ねぇ、狼夢君。あそぼ?』
あの子が、話しかけてきた。
『何でお前と遊ばなきゃいけないんだよ!あ、間違えた、遊ぶって何するの?』
いつも気を張っていたので、強い口調になってしまった。
『狼夢君は何をしたい?』
あの子が訊いてくる。
何をしたいって訊かれても…
それより、その名前が気に入らない。
『まず、狼夢って呼ばないで。俺はその名前が嫌いだから。』
親ではない、あの親からつけられた名前。
昨日のことを思い出す。
今は、そいつらも名前も大っ嫌いだ。
『ごめんね。なら、新しい名前を考える遊びをしよ?』
新しい名前を考える、
遊び?
『なんだそれ?』
よくわからない。
だけど、あの時も言っていたような、
『お互いにお互いの名前を考えて、それを新しい名前として呼び合うの!』
いきなり言われても困る。
だけど、いいかもしれない。
俺が狼夢と言われることがなくなって、
あの子を、名前で言えるかもしれない。
悪くないな。
でも、
やっぱりすぐには決められない。
帰り道で、
家で、
考えてみる。
そして、
!
バチン!
父に、頬を叩かれた。
『これが、人に手を出すってことだ。覚えておけ。』ー