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言葉もなく塞ぎ込む私に、心中を察したらしいチーフが、
「……このところ仕事が立て込んでいたから。進めていたプロジェクトが佳境に入っていた上に、社長との話のタイミングも合わなくて、それで君にもずっと連絡も出来ずじまいで……」
そう話してストレートのジンをごくっと飲み込むと、「悪かったな」と、頭を下げた。
「……いいんです」と、うつむいて小さく呟く。
そういえば矢代チーフはとても忙しそうで、あまり会社にも居なかったように思う。きっと仕事に万全を期そうと、一人で立ち回っていたんだろうな……そういうところが完璧主義で……。
前はそんな仕事への真摯な姿勢が好きだったのに、今はそれがまるで恋愛は二の次のようにも思えて……。
頭ではぐるぐるといろんな考えが回っていて、理由は全部わかったのに、なんだか素直には受け入れられない自分がいた……。
「ようやくちゃんとした休みが取れそうだから、出かける約束でもしないか?」
そう誘いかけられて、黙ってふるふると首を左右に振った。
「……どうして?」
「もう、いいんです……」
そう口に出して、なぜそんなことを言っているんだろうと自分でも思う。
「もう本当にいいので……。帰ります。お疲れ様でした」
それだけを告げて、テーブルを立った。
一度しぼみかけていた気持ちは、なかなか膨らませることはできなくて、素直じゃないと自分自身でもよくわかっているのに、すぐに気持ちを切り替えて、喜んで彼の誘いに乗るようなことは私には出来なかった……。