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初兎ちゃんに連れられるように、りうらは昇降口まで歩いた。
夕焼けのオレンジが揺れる床を、二人の影が並んで伸びる。
けれどその間、初兎ちゃんは一度もりうらに触れようとしなかった。
(……なんで。こういう時くらい、手を引っ張るとかしないの)
そう思ってしまった自分に、小さく戸惑う。
校舎を出た瞬間、初兎が立ち止まった。
「りうちゃん」
『……なに』
初兎ちゃんはりうらの顔を見る前に、視線を落とした。
ぐっと拳を握りしめて。
「ごめん。気づくの遅かった」
『なにが』
「りうちゃん、怖かったやろ? さっきの」
胸が、少し痛む。
(怖かったよ。めちゃくちゃ……でも)
りうらは小さく首を振った。
『……初兎ちゃんが来て……ほっとした』
「ほんまは……抱きしめて落ち着かせたかった」
「でも、触れたら……りうちゃん嫌がるやろ。怖がるやろ。せやから、できへんかった」
いつもは強気なのに、今日の初兎ちゃんは弱くて不器用だ。
(……ほんとは。触られるのが怖いんじゃない)
(“勝手に読める“自分が……相手を傷つけるのが怖いんだ)
りうらは、ぎゅっと指先を握った。
『ねぇ、初兎ちゃん』
「ん?」
『……怒ってるの?』
初兎は少し驚いたように目を丸くし、
「怒ってるに決まっとるやろ」
『……やっぱり』
「りうちゃんに、触ったことにな」
その一言で、りうらの息が止まった。
初兎は一歩だけ近づく。
触れない距離、でも限界ギリギリまで。
りうらの目の前、ほんの数センチに立ちながら。
「りうちゃんに触れてええのは……俺だけやって、思っとる」
その心の奥を読めなくても、言葉だけで十分すぎた。
『……そんなの、勝手すぎ』
「勝手やで?でも……今だけは、譲れへん」
触れたい。
でも触れられない。
葛藤が指先から伝わってくるほどだった。
『……じゃあ』
「……?」
『……手くらい、繋いでいいよ』
りうらの手が、そっと、ゆっくり差し出される。
触れたら読めてしまう。
きっと胸が苦しくなるほど全部伝わる。
それでも
(初兎ちゃんなら……いい)
初兎ちゃんは震える指先で、その手に触れようとした。
ほんの一瞬、指同士がかすかに触れた
りうらに、初兎の心が一気に流れ込んだ。
(……怖がらせてまうかもしれん。拒まれるかもしれん。それでも……それでも、触れたい。触れたい。触れたい…)
その“好きに似た感情”が大きすぎて、りうらは息を呑んだ。
初兎ちゃんはすぐに手を離した。
「ごめんっ、やっぱまだ無理させるんちゃうかって……!」
慌てて手を引っ込めようとした瞬間、
りうらは、初兎の指を掴んだ。
『……離さないで』
『初兎ちゃんの“気持ち”なら…読んでもいい』
「……ほんなら、読んでええで」
二人の手が完全に繋がれた瞬間。
りうらの胸に、初兎のまっすぐすぎる気持ちが流れ込む。
(好きや……好きで、しゃあない)
りうらは思わず目をそらし、顔を隠した。
『……っ、ばか……』
初兎ちゃんは嬉しそうに笑った。
「照れんのも、可愛すぎる」
夕焼けの帰り道、りうらは初兎の手をぎゅっと握り返した。
300♡