テラーノベル
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その夜は、やけに風が強かった。
村の灯りを揺らす木々のざわめきは、何か不吉な前触れのように響いていた。
「ねぇ、明日もまた三人で遊ぼうね」
夕方、草原の帰り道にそう笑った藤澤の声が、まだ耳に残っている。
大森も若井も、その笑顔を当たり前のように信じていた。
まさか、それが最後になるなんて思いもしなかった。
⸻
深夜。
藤澤の家の戸が開きっぱなしになっているのを、近所の村人が最初に気づいた。
「おかしいな……夜に開けっ放しなんて」
心配して中を覗くと、そこにあったはずの温もりが消えていた。
ベッドは乱れていない。
靴も置きっぱなし。
ただ、本人だけが忽然と姿を消していた。
「涼ちゃんが……涼ちゃんがいないんです!」
母親が声を張り上げ、泣き崩れる。
父親も蒼白な顔で戸口に立ち尽くし、何度も何度も外を見渡した。
⸻
すぐに村中が騒ぎになった。
松明を手に、数十人もの大人たちが夜の森へ入っていく。
「涼ちゃんー!」「どこだー!」
必死の呼び声が、闇に吸い込まれていく。
その列の最後尾で、まだ幼い大森と若井も、眠気なんて吹き飛んで走っていた。
「……嘘だろ……ほんとに、いなくなったのかよ」
若井の手が震えている。
大森も唇を噛んで、「きっと見つかるよ」と言ったが、自分の声が震えていた。
⸻
しかし、どれだけ探しても藤澤の姿は見つからなかった。
村の端から端まで、森の奥深くまで。
朝が来ても、夜が明けても。
やがて村人たちの間で、言葉にならない憶測がささやかれ始める。
「……誰かに連れて行かれたんじゃないか」
「あの薬師の家系だろう? 力を狙われたんだ」
その声を耳にした母親が嗚咽を上げ、父親が「やめてくれ」と掠れた声で叫ぶ。
大森と若井はただ、胸の奥が張り裂けそうで、涙が溢れるのを止められなかった。
⸻
夜明け。
二人は草原の丘に腰を下ろした。
まだ探し続けている大人たちの声が、遠くかすかに響いている。
「……嘘だよな」
若井が呟く。
「昨日まで、ここで笑ってたのに」
大森は返事をせず、空を見上げた。
紅い帯を出そうと声を出したが、震えすぎて上手く音が出ない。
帯はひとすじだけ、頼りなく揺れて、すぐに消えた。
「涼ちゃん……」
二人の幼い声は、朝焼けの空に溶けていった。
その誓いも、その笑顔も、突然引き裂かれてしまったのだ。
コメント
9件
力を使いすぎて、、、とか、?、
せつないね〜涼ちゃんの無事を祈りたいよ〜( ᵒ̴̶̷᷄꒳ᵒ̴̶̷᷅ )
クスシキパロ大好きです!続き楽しみにしてます💕