テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
──あれから十年余りの月日が流れた。
季節は巡り、子供だった二人も立派な青年へと成長していた。
大森は歌声を磨き、紅い帯を自在に操れるようになっていた。
その旋律は村を守るための結界の一部として使われ、彼は「紅の歌巫(かんなぎ)」として人々に頼られる存在となっていた。
一方で若井は、父母から受け継いだ琵琶型の大剣を手にし、剛力と波動を自在に操る戦士に育っていた。
「紅の帯と大剣の波動、この二人がいれば村は安泰だ」
──人々はそう言って、彼らを誇りに思っていた。
だが本人たちの胸の奥には、埋められない空白があった。
藤澤涼架。
三人で誓った“ずっと一緒だよ”の約束は、あの夜を境に引き裂かれたままだった。
⸻
ある日の夕暮れ。
市場の片隅で、大森と若井は偶然にも村人の話し声を耳にする。
「……この前さ、森の外れで薬を調合してる男を見かけたんだ」
「赤毛に……いや、違うな。少し金がかった髪で……目元がすごく綺麗でな」
「でもあの人影、あの藤澤さんとこの……涼ちゃんに似ててよ」
その名を聞いた瞬間、二人の心臓が跳ねた。
「……なんだって?」
若井は食い気味に声をあげる。
驚いた村人が振り返ると、そこには真剣な表情の若井と、顔色を失った大森が立っていた。
「……その人影を見たのはどこですか!?」
若井の声は荒く、切実だった。
村人はたじろぎつつも、ゆっくりと森の奥を指さした。
「夜明け前だったが……北の森の奥、薬草が多く生えるあたりだ。あんな所で人を見かけるなんて滅多にないが……」
大森は唇を震わせ、若井と目を合わせた。
そこには、抑えきれない希望の光が宿っていた。
⸻
夜。
丘の上に並んで座った二人は、風に揺れる草の音を聞きながら言葉を交わす。
「……涼ちゃん、本当に生きてるのかな」
大森の声は震えていた。
「生きてる。絶対に。……あの日からずっと、俺はそう信じてきた」
若井は拳を強く握る。
「村人の勘違いかもしれない。幻かもしれない。それでもいい。俺は……今度こそ、見つけたい」
大森は夜空を見上げた。
星々の間に、幼い頃の笑顔が浮かんで見える。
「……涼ちゃん。もしも本当に生きてるなら……お願いだから、戻ってきてよ」
風が吹き、遠くで鈴のような音がした。
二人の耳には、それが確かに藤澤の鍵盤の音色に聞こえた。
コメント
4件
めっちゃ気になる〜 涼ちゃん探しの希望が見えてきたね〜!!
続きが楽しみ!!SOIRAさんの作品、ほんとにわくわくするから大好き!