テラーノベル
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その瞬間だった。
ラウンジの外から、女の悲鳴が突き刺さる。
「きゃあああッ!!」
乾いた銃声。
立て続けに二発。
ガラスが砕け散る音が廊下いっぱいに響いた。
一瞬で、ホテルの空気が崩壊する。
誰かが叫ぶ。
誰かが転ぶ。
逃げ惑う足音が重なり合い、さっきまで優雅だった会場は、地獄みたいな騒音へ変わっていた。
鈴木は反射的に振り返る。
霧矢は小さく舌打ちした。
「……めんどくさ」
イヤホンから冬橋の声が飛ぶ。
『裏口使え! 直斗、鈴木連れて下がれ!』
「了解ッス」
返事をした、その時だった。
ルージュが静かに笑う。
「もう遅いかも」
次の瞬間。
ラウンジの扉が爆音と共に蹴破られた。
蝶番ごと吹き飛ぶ。
黒服の男たちが雪崩れ込む。
拳銃。
防弾ベスト。
鋭い殺気。
先頭の男が怒鳴った。
「ルージュ確保!!生かして連れて帰れ!!」
その声と同時に。
霧矢の空気が変わった。
さっきまでの飄々とした笑顔が、音もなく消える。
パン。
乾いた一発。
先頭の男の額へ、小さな赤い穴が開いた。
男は何が起きたのか理解する間もなく、その場へ崩れ落ちる。
静寂は、一秒も続かなかった。
「撃てッ!!」
銃声が一斉に響く。
だが。
霧矢はもうそこにいなかった。
横へ半歩。
身体を紙一重で滑らせる。
撃ちながら歩く。
まるで雨の中を歩くぐらい自然に。
パン。
パン。
二人。
三人。
男たちが順番に倒れていく。
狙いは急所だけ。
迷いも、焦りも、一切ない。
ただ。
邪魔だから、消している。
そんな戦い方だった。
男たちは慌てて物陰へ散る。
弾丸が壁を砕き、ガラス片が雪みたいに舞う。
その瞬間。
「チョモ、伏せて!」
ルージュの叫びが飛ぶ。
身体が勝手に動いた。
#御本人様とは一切関係ありません
🫧想美🎐🍏
561
#だけなんだ
だけなんだ
653
だけなんだ
3,529
鈴木は床へ飛び込む。
次の瞬間。
さっきまで頭があった場所を弾丸が貫いた。
壁に深い穴が開く。
「……っ!」
心臓が暴れる。
ルージュはヒールを脱ぎ捨てていた。
長いドレスを片手で裂き、動きを邪魔する裾を破る。
「アンタ、意外と戦えるタイプ?」
霧矢が軽く笑う。
「……知らないわよ!」
返事と同時に。
近付いた男の腕を掴む。
流れるような動きだった。
躊躇なく、握っていたペンを男の喉へ突き刺す。
男が息を詰まらせ、崩れ落ちる。
鈴木は目を見開く。
ルージュは血のついた指で髪を払った。
「見すぎ」
その横顔に迷いはなかった。
鈴木は理解する。
この女も。
もう、とっくに普通じゃない。
霧矢が思わず笑う。
「あは」
「やっぱアンタ好きだわ」
「最悪」
ルージュは吐き捨てる。
その時だった。
廊下の奥から、重たい足音が響く。
一人。
また一人。
そして最後に現れた男を見て、霧矢の纏う空気が変わった。
刺青。
黒いスーツ。
人より一回り大きい身体。
威圧感だけで息が詰まる。
男は霧矢を見つけると、ゆっくり笑った。
「……合六の飼い犬じゃねぇか」
その声には、長年煮え続けた憎しみが滲んでいた。
鈴木が呟く。
「知り合い?」
霧矢は笑わない。
「前の組織の残党」
「合六サンの邪魔だったから潰したヤツ」
男は肩を鳴らした。
「テメェに潰された仲間の借り、返しに来た」
ラウンジの空気が張り詰める。
ルージュが舌打ちした。
「ほんと最悪の日」
男が銃を構える。
「今日は逃がさねぇ」
叫ぶより早く。
天井へ向かって一発撃つ。
轟音。
シャンデリアが砕け、無数のガラス片が降り注ぐ。
視界が遮られた。
その隙に男が突っ込む。
だが。
霧矢は動かなかった。
一歩だけ前へ出る。
パン。
パン。
二発。
男の後ろにいた部下が倒れる。
男の目が大きく開いた。
「……は?」
霧矢は笑っていた。
銃口を向けられているのに。
それでも恐怖という感情が、一欠片も見えない。
「アンタらさ」
軽い声。
「撃つ前に喋りすぎ」
その瞬間。
霧矢の姿が消えた。
違う。
速すぎて見えなかった。
気付けば、男の懐へ潜り込んでいる。
距離、ゼロ。
男が銃を向け直すより早く。
霧矢の袖から、小さな刃が滑り落ちた。
「仕込んどくもんッスね」
刃が腹へ沈む。
深く。
迷いなく。
「手は、多い方が便利だから」
男の口から血が溢れる。
ゆっくり崩れ落ちる。
霧矢は刃を引き抜いた。
鮮血が頬へ飛ぶ。
それでも。
表情は変わらない。
「あーあ」
ぽつり。
「床汚れた」
服を見る。
袖についた血を摘まむ。
「服もぉ……買ったばっかなのにぃ」
その一言だけで。
鈴木は背筋が凍った。
ルージュでさえ。
ほんの一瞬だけ。
霧矢を見つめる目が変わる。
人を見る目じゃない。
“理解できない何か”を見る目だった。
その時。
「直斗!!」
冬橋が飛び込んできた。
状況を一瞬で見渡す。
死体。
血。
倒れた男たち。
そして。
返り血を浴びた霧矢。
数秒だけ沈黙する。
それから低く言った。
「……やりすぎだ」
霧矢は首を傾げる。
「そうッスか?」
「一般人がいる場所だ」
霧矢は周囲を見回す。
泣き叫ぶ客。
震えるスタッフ。
割れたガラス。
「あ」
少しだけ目を丸くした。
まるで今、初めて気付いたように。
冬橋は深く息を吐く。
「撤収する」
「了解ッス」
「鈴木、お前も来い」
だが。
鈴木は動けなかった。
視線の先。
ルージュが立っている。
白いドレスは血で赤く染まっていた。
それでも。
不思議なくらい綺麗だった。
ルージュは静かに鈴木を見る。
「チョモ」
その呼び方だけで、胸が締め付けられる。
ルージュは、少しだけ笑った。
「またね」
次の瞬間。
窓へ駆ける。
躊躇なく飛び込んだ。
ガラスが夜空へ弾け飛ぶ。
冷たい夜風が吹き込む。
鈴木が窓際へ駆け寄る。
だが。
もう姿はない。
下の道路。
黒い車がタイヤを鳴らしながら急発進する。
赤いテールランプだけが、夜の街へ吸い込まれていった。
鈴木は割れた窓の前で立ち尽くす。
霧矢が隣へ並んだ。
「逃げられたね」
「……」
「追う?」
鈴木は答えない。
震えている自分の手を見つめる。
怒りなのか。
恐怖なのか。
それとも――。
ほんの少しだけ。
ルージュという人間を理解してしまったことへの、嫌悪なのか。
その答えだけは。
まだ、自分でも分からなかった。
コメント
3件
霧矢の戦闘シーン待ってました!もうカッコ良すぎる…銃の扱いもナイフ忍ばせとくのとかも策士すぎて!ルージュもまた霧矢と同じような人なのかなと思っていたのですが、人間らしい感情が垣間見えて楽しかったです!目的のルージュは逃げてしまってどうなるのか…今後の展開がとても楽しみです!」
第15話、一気に引き込まれました……! 霧矢さんの戦闘シーン、あんなに軽い口調なのに一瞬で空気が変わるところが鳥肌ものでした。特に「床汚れた」って呟いた後の背筋の凍り方がすごくて。ルージュさんもまさかペン一振りであの動きとは……「見すぎ」の台詞、かっこよすぎて何度も反芻しちゃいました。最後の「またね」も切なくて、次の展開が気になって仕方ないです。素敵な物語をありがとうございます!