「ところでお嬢様、どこで集合するんですか?」
可愛らしいふりをする執事の美嘉に、璃奈は冷たい声で答えた。
「学校よ。」
「えっ!迎えに来ないんですか!? 最低ですね!!」
さっきの話で少し大人しくなった美嘉が、驚きを隠せずに手に持っていたワンピースを落とした。璃奈はそれを拾いながら言った。
「私がそう望んだからよ。」
「なんで?もう調べられているんだから、家に来てもいいじゃん。」
さっきの話で大人しくなったと思いきや、今度はタメ口で話す美嘉。璃奈は睨みながら答えた。
「私に色々教えながら、こんな簡単なこともわからないの?」
「えへ。」
美嘉が惚れているふりをしているのを無視して、璃奈は制服を脱いだ。
「ちょちょ!なんで人前で脱ぐの!!」
「私たち、女の子同士よ?昔だって、私とお風呂入りたいって言ってたじゃない。」
「問題ありまくり!私は女の子が好きなんです!!」
璃奈が下着を脱ごうとした瞬間、手が止まった。
「本気で言ってんの?じゃあ、昔一緒にお風呂入りたいって言ったのは…」
「ああぁぁぁ‼」
「うるさい、黙れ。」
美嘉は焦りながら顔を何度も上下に振り、静まった。
「女の子が好きなら、早く出て行って。」
「人前で着替える弟子の方が悪いんじゃないの?」
「誰が君の弟子?」
無表情で美嘉を見つめる璃奈。しかし、美嘉はその無表情に恐ろしさを感じた。美嘉は「ははは」と苦笑いし、急いで部屋を出て行った。出ていく前に璃奈に聞こえるように言った。
「兄が羊をかぶったオオカミじゃなくて、お嬢様が羊をかぶったオオカミじゃないの?」
璃奈はその言葉を聞いて、俯きながら何かを考え始めた。
気づいたら、もうすぐ時間だった。璃奈は急いでワンピースを着て準備を整えた。部屋を出て階下に降りると、兄たちがリビングのソファに座っていた。母が声をかけてきた。
「そんなに急いでどうしたの?外に出る時間じゃないわよね。」
笑っているように見えるが、実際は全然笑っていない。そんな母に、兄が庇ってくれた。
「母さん、璃奈は友達と食べに行くだけだ。」
「こんな時間に行っちゃダメって言ったでしょ!!」
兄の言葉に激怒する母。その母に、璃奈は演技を始めた。
「お母さん…でも、これはお兄ちゃんから任されたことだから、行かないと。」
「そうだよ、お母さん。警察にとって大事な情報を引き出せるチャンスかもしれない。」
兄も演技を始めた。私よりもすごい演技だ。そんな演技に、璃奈は心の中で「やるね、お兄ちゃん…目的のために嫌いな私の味方をするなんて」と思った。
「もう遅刻しちゃう…」
「先に行け、俺が納得しておく。」
「ありがとう…」
言いたくない言葉を残し、璃奈は家を出た。
リビングには母と兄の二人だけが残った。先に気まずい雰囲気を壊したのは、母の方だった。
「ふん、なんでアイツを庇ったのよ。」
「仕方ない。警察の任務だから。それに、あいつのスマホ、GPSついてるからいいだろ。」
「うるさいわね!!」
母は怒って部屋に戻り、リビングには兄ひとりだけが残された。兄は小さな舌打ちをしながら独り言を言った。
「めんどくせぇ家族。」
「ごめんなさい、ちょっと遅れちゃった。」
「全然大丈夫だよ。」
「ありがとうございます。」
冬に近づいた寒い夜、その冷え込みを感じながらも璃奈はワンピースを着てきた。
「大丈夫?寒くない?」
「ちょっとだけ、でも大丈夫だよ!走ってきたから、少し暑い。」
「これでも着て。」
静樹 朱理は上着を脱がして璃奈に着させた。
「え、でも…」
「じゃあ、行こうか。」
朱里は拒否権も与えず、璃奈の腕を掴んで走り出した。
─作戦通り…このままか弱い女の子を演じ続ければ。
悪意で喜ぶ璃奈に対して、朱里は本当に嬉しそうな顔を浮かべていた。
「着いたよ。」
「ここは…?」
「お嬢様、平人の焼肉を食べたことある?なかったら、璃奈が初めて食べる焼肉は、私が一番最初になるね。」
さっきよりも嬉しそうな笑顔を浮かべる朱里。その笑顔を見て、璃奈は「演技」だとしか思えなかった。しかし、璃奈はまだ知らない。この笑顔は本物だということを。
「うん、今回が初めて。」
璃奈はまた嘘をついた。実は、この店には昔お父さんと来たことがある。でも朱里はそれを知っていたため、「初めて」と言った璃奈が気まずくなるのを避けて、あえて言わなかった。
「こんにちは、二名様で。」
朱里は何度も来ているかのように、慣れた会話をした。
「二名様ですね、かしこまりました。少々お待ちください。」
店員さんは私たちを見て笑った。
「なんで私たちのことを見て笑っているの?」
璃奈はその理由がわかっていながら、知らないふりをして朱里に聞いた。
「さぁ、私もわからない。」
朱里は璃奈を見てまた笑顔になった。そんな笑顔に、璃奈の心臓はなぜか高鳴った。
コメント
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最後のすごい!てか、みんながこんな時間にいじることが多いの何故知ってるのか、すっごい気になる!!笑
えぇ!!まって!!最後の最後のっっ!!ミステリーかと思いきや、『その笑顔に、何故か、心臓が高鳴った』ってなんでか!?ねぇ!! 意外な展開やら、予想外の会話やら、ミステリーしかない作品の中で、やっと恋愛が現れた!って感じでコメントが多いですね😂
「その笑顔に何故か、心臓が高鳴った」ってなに!!もしかして、璃奈ちゃん、恋した感じですか!?