テラーノベル
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#リクエスト待ってます!
放課後の理科準備室。窓から差し込む西日は、埃のダンスをオレンジ色に染め上げていた。
結衣は、古びたノートパソコンの画面を見つめている。画面の真ん中で、小さな黒い「点」が、リズムに合わせて明滅していた。
ト、ト、ト、トン。
それは音楽というよりは、心臓の鼓動に近い何かだった。
「ねえ、これ何に見える?」
隣に座る、ヘッドホンを首にかけた少年・ハルが訊いた。
「点、でしょ?」
「そうだけど、そうじゃないんだ。これは、言葉になる前の欠片(かけら)だよ」
ハルがキーを叩くと、点の明滅が激しくなる。
トトトトト、と加速するリズム。
結衣の視界の中で、黒い点は次第に形を変え始める。それはある時は「。」になり、ある時は誰かの「瞳」になり、またある時は、広大な宇宙にぽつんと浮かぶ「惑星」に見えた。
「言葉にすると、全部決まっちゃうだろ。でも、この『点』のままでいれば、何にでもなれる気がしない?」
ハルの言葉が、ビートの隙間に滑り込んでくる。
結衣は目を閉じた。
まぶたの裏に、無数の「点」が降り注ぐ。
それらは意味を持たないまま、ただ心地よい速度で結衣の思考を塗り替えていった。
悩みも、明日への不安も、すべてがこの点の中に吸い込まれ、圧縮されていく。
画面の中で、点の動きが止まる。
静寂。
そして、一気に弾けるような、低音の振動。
「……あ」
結衣が目を開けたとき、画面には『点.mp4』というファイル名だけが表示されていた。
「面白かった?」
ハルが少しだけ悪戯っぽく笑う。
結衣は自分の胸のあたりをそっと押さえた。そこにはまだ、あの点のリズムが小さく残っている。
「……続き、あるの?」
「どうかな。君が何かを見つけたら、それが続きになるんじゃない?」
窓の外、街の明かりが一つ、また一つと灯り始めた。
それは遠くから見れば、夜の帳に打たれた、無数の美しい「点」のよう
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おーー!