旅館の廊下は、夕食後の談笑も消え、静かな灯りだけが揺れている。陽はふと思い立ち、窓際のベンチに腰かけた。
「……眠れないのは、みおも?」
振り返ると、佐伯澪がそっと隣に立っていた。
「うん。みんな楽しそうに話してるから、逆に落ち着かなくて」
二人きりの静寂が、どこか心地よかった。
ふと澪が口を開く。
「ねぇ、陽くん……じゃなくて」
ちらりと笑って、少し照れた声で続けた。
「“はる”って呼んでくれない?」
澪は驚きながらも、陽の瞳をまっすぐに見つめた。
「わかった。じゃあ俺も、“みお”って呼ぶね」
その提案に、澪は小さく頷いた。
「ありがとう、はる」
廊下に、二人の名前だけがこだまするようだった。
「ねえ、これからもこの名前で呼び合おう?」
「うん、約束だよ」
夜風が、二人の距離をそっと縮めた。
同じ季節を感じるその瞬間が、忘れられない「夜の約束」になった。
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