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#極道
鷹槻れん

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月詠 涼
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(……やはりまずかったか……?)
そう思ったものの、今さらどうしようもない。
横を見ると、千紗がわずかに眉根を寄せていた。彼女の性格を思うと、晴永だけに責を負わせるのは嫌だと思っていそうに見えた。
もっとも、彼女の交際相手である木朝良介の存在をにじませるのもまた、自分と瑠璃香同様に時期尚早なのだ。
晴永は小さく息を吐いた。
そうして口を開いた。
「ただ、俺も、藤井田さん同様、この人だ! という女性に巡り会えたら、絶対に離すつもりはありません!」
千紗も晴永も、相手がいるとは明言していない。
だが、いたら今度こそ絶対に逃がさない――。
そう告げることで、はっきりと言葉にしない形で、〝双方ともに〟相手がいるかもしれない、と仄めかした。
晴永の隣で、千紗が「やるじゃない」と晴永にだけ聞こえる声でつぶやいた。
***
会見が終わり、四人が壇上を降りても、しばらくは報道陣のざわめきが聞こえていた。
「お疲れさまでした」
藤井田社長が盛晴へ手を差し出す。
「藤井田さんも……」
盛晴もその手を握った。
「これからもよろしく頼むよ、一誠くん」
「こちらこそ」
祖父たちの世代に交わされた約束が、その握手で静かに幕を下ろしたように見えた。
晴永は、その様子を少し離れたところから眺める。
「新沼さん」
声を掛けられて振り向くと、千紗が立っていた。
「お疲れさま」
「藤井田さんも」
短いやり取り。
少し前までは、本人たちの意思に関わらず、婚約者同士として扱われる二人だった。
けれど、もう違う。
「これで、ようやく前を向いて歩けますね」
「そうだな」
「お互いに、パートナーを大事にしましょうね」
千紗が微笑む。
「俺の方は一年はお預けって言われてるんだけど、そっちは?」
「うちも同じような感じ」
どちらからともなく、自然と吐息がこぼれる。
「本当に好きな人と幸せになれますように!」
両手を組んでお祈りポーズをしてみせる千紗に、晴永は一瞬だけ目を瞬かせた。
「……それって」
「え? もちろん、新沼さんにだけ言ってるわけじゃないわ」
千紗が澄ました顔で答える。
「私自身にも、ね♪」
「まぁ、そりゃーそうか」
「はい」
晴永は小さく笑った。
「じゃあ、そっちも頑張って」
「新沼さんこそ」
「また落ち着いたら晴留のところで近況報告会しよう」
「楽しみにしてる! じゃあね!」
千紗はそう言って、父親のもとへ戻っていった。
晴永はその背中を見送りながら思う。
婚約者にはなれなかった。
なる必要もなかった。
それでも、互いの未来を願うことくらいはできるし、同じ苦難を乗り越えた者同士。きっといい友達になれる。
それで十分だった。
***
会見後も、晴永には息をつく暇がなかった。
社長について社長室へ戻ると、社長補佐として用意された晴永の机の上にはすでに新しい書類が積まれている。
「……これは今日中ですか?」
「できれば」
しれっと答えた社長秘書の藤代を、晴永は半眼で見る。
「会見が終わった直後くらい休ませてくれても……」
「社長もすでに色々動かれてます。新沼さんは社長補佐ですから頑張って社長を支えていただかないと」
「ホント、社長の小間使いだよな、社長補佐って」
「慣れてください」
淡々と答える藤代だって、社長と自分の業務をサポートしてくれている。過剰労働ではないだろうか?
そんなことを思いながら晴永が吐息を落とすと、藤代が別の書類を差し出してきた。
「それと、こちらを」
(これ以上やることが増えるのか……)
新たに出された書類を受け取りながら内心でうんざりしつつも、なるべく顔には出さないように気を付ける。
「何だ?」
それは社内人事に関する正式通達だった。
晴永は何気なく目を通す。
コメント
2件
千砂さんとの距離感がいい感じになってるね
いやあ、晴永と千紗の距離感がすごく良かったです。かつて婚約者同士だった二人が、今は「お互いの未来を願う」関係に落ち着くって、すごく自然で温かい着地だなと。会見での“いるかもしれない”の仄めかし方、あれはお互いのことを本当に分かってるからできる芸当ですね。ラストの社内人事通達……これは何か動きがありそうな予感。続きが気になります。お疲れさまです、鷹槻れんさん!