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#極道
鷹槻れん

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月詠 涼
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『人事発令通知書』
発令日と効力発生日は今日の日付。
その下には、『企画部企画宣伝課 小笹瑠璃香』
と記されていた。
(瑠璃香が……異動?)
毎晩電話で連絡を取り合っているけれど、彼女からそんな話は聞いていない。
もしかしたら自分の時のように、突発的な人事異動だろうか?
そんなことを思いながら、書面を読み進める。
『貴殿を、本日付をもって、下記のとおり命じます』
のあとへ続く内容に視線を落とし――。
「……えっ!?」
思わず声が漏れた。
「どうした」
執務机の向こうで決裁書類に目を通していた盛晴が顔を上げる。
晴永は答えない。
いや、答えられなかった。
『【新所属】総務部秘書課』
百歩譲ってそこまではいい。
問題は、その下だった。
『社長補佐付き専属秘書』
晴永は思わず二度見する。
もう一度、名前と配属先を確認した。
しかし何度見ても異動してくるのは【企画部企画宣伝課 小笹瑠璃香】で、異動先は晴永の専属秘書だった。
「……藤代さん」
「はい」
「これ……どういう……?」
「見ての通りですが」
「いや、そうじゃなくて」
晴永は書類を指先で叩く。
「瑠……、小、笹さんが俺の専属秘書って」
「そのままの意味です」
「聞いてないんだけど」
「お伝えしていませんでしたので」
「……なんで?」
「人事って、大体そんなものでしょう?」
あまりにも当然のように返されて、言葉に詰まる。
「小笹さんには?」
「すでに打診し、ご本人からはご了承をいただいております」
「いつ?」
「先日です」
「……俺の専属秘書なのに……俺だけ知らなかったのか?」
「はい」
即答された。
晴永はしばらく藤代を見つめたあと、思わず額へ手を当てた。
「マジか……」
「何か問題でも?」
「いや」
もう一度、書類を見る。
小笹瑠璃香。
その名前を見ているうちに、自然と口元が緩んだ。
「全く」
むしろ、顔がにやけてしまって困るくらい、嬉しい。
けれど、そこでふと気付く。
「……これ、俺が何か言ったと思われないか?」
「その心配はありません」
藤代は即座に答えた。
「彼女を推したのは、社長と副社長、そして私だとお伝えしてあります」
「俺に相談がなかったのは?」
「わしが止めたからだ」
執務机の向こうから盛晴が口を挟んだ。
晴永が振り返る。
「……社長が?」
「ああ。お前を加えると、話がややこしくなると思ったのでな」
「ひどくないですか?」
「事実だろう」
盛晴は平然と言ってのける。
「お前に先に知らせれば、反対こそせんだろうが余計な気を回す。小笹さんもやりづらくなる」
「……」
「だから本人の意思を確認した上で決めた。それだけだ」
そう言い切ったあと、藤代へほんの一瞬意味深な視線が投げかけられた……ように見えた。
だが、だからと言って「俺たちのためですか?」と聞くのも何か違う気がして、晴永は押し黙るしかない。
小さく吐息を落として、もう一度書類へ目を落とす。
瑠璃香が自分のそばへ来る。
恋人としてではなく、一人の社員として評価され、選ばれて。
自分の仕事を支えるために。
「……そっか」
小笹瑠璃香。
その名前を見ているだけで、自然と口元が緩んだ。
***
婚約解消を公にし、さらには思いがけない人事まで知らされた一日が、ようやく終わろうとしていた――。
角宮家へ帰宅して夕食と入浴を済ませた晴永は、自室として充てがわれた部屋のベッドへ腰を下ろすと、スマートフォンを手に取った。
この屋敷の中では、どうも〝御曹司〟扱いされ過ぎて落ち着かない。
唯一気を抜ける空間が、子供の頃に自室として使っていたこの部屋だけなのだ。
常ならば食後に祖父の盛晴か、母・清香に呼び止められ、仕事の話や上に立つ者としての心構えなどを聞かされるのだが、今日だけは別だった。
日中の記者会見での心身的負担を考慮してくれたのだろう。
二人とも遠慮してくれた。
コメント
2件
晴永は知らなかったというのが瑠璃香には「自分を認められた」と言う証になりそう!
うわあ、この人事、めっちゃ粋な計らいですね……!晴永だけが知らされてなかったっていうのがもう、藤代さんと社長の連携プレーが渋い。何より「顔がにやけてしまうくらい嬉しい」って心情が仕事人っぽくてグッときました。陸璃香が評価されて選ばれて自分のそばに来る——恋愛抜きの信頼関係が伝わってきて、すごくあったかい気持ちになりました。