師匠世代の当然とも言える躊躇を一切無視してレイブ少年が大きな声で言う、言ってしまったのだ。
「じゃあ、ペトラはどうかな? さっきヴノの鼻先からダイブしたでしょ? 思い切りが良かったじゃない! だからペトラ! 崖とか壁から飛び降りる勇気有る者、思い切って局面を変える者、確かそう言う意味でしょう? どぉうぅ? 嫌だったら他のでも良いんだけどぉ!」
気楽過ぎる言葉をバストロが嗜(たしな)めるより早く、当の毛玉が嬉しそうな声を上げて答えてしまう。
『うわぁ、素敵ぃ! んじゃ今日からアタシはペトラですっ! どうぞ宜しくです、魔術師バストロ様、赤竜ジグエラ様、丈高きヴノ様っ! それに、ハタンガの南端、バーミリオンの里の唯一の生き残り、レイブ…… ハタンガの北端、竜の渓谷、ニーズヘッグの名をを継ぐ紅竜(こうりゅう)、ギレスラ…… アタシを貴方達のスリーマンセルに加えて下さいませっ! アタシ、ペトラは獣奴(じゅうど)になりたいのですっ!』
「グガ?」
「えええっ! ? んん、まあ良いか? んじゃあ、よろしくね、ペトラ!」
『はいぃっ! よろしくお願いします、レイブ兄様、ギレスラ兄様!』
「なはは、こちらこそ宜しくね、ペトラぁ♪」
「グ、グルルゥ♪ グルグルゥ♪」
事の急転に、言葉を失ってしまっている師匠たちのスリーマンセルを無視したままで、レイブとギレスラは命有る限り契り続ける特別な存在、獣奴にたった今名付けられてしまったばかりの小さい猪、ペトラを受け入れてしまうのであった。
スリーマンセル、所謂(いわゆる)三人組、判りやすく言えばトリオ、と言うヤツである。
多数決を取らざる得ない場合において最低人数で可否を分ける事が出来る事から、尊(たっと)いとされる奇数の中でも取り分け好まれる組織構成である。
魔術師と闘竜、獣奴で構成される『放浪者』、も基本的にこの数で行動を共にする場合が殆(ほとん)どである。
理由は簡単、五人組、いいや五名組み、七名組み、もっと極端に言えば百一名組みを想像して貰えば判り易いだろう……
二つの選択肢が提示された場合、万が一真っ二つに意見が分かれた場合にどうなるだろう?
最悪の結果を想像すれば戦慄だ、五十対五十一、血で血を洗う仁義も糞も無い殺し合いになってしまう可能性が考えられる事はご理解頂けるのでは無かろうか?
そんな修羅臭に満ちた事態を避けるために、賢いニンゲンと竜種、分別を持ったボア達は、
『基本、スリーマンセルで行こうよ』
『うんそうだよね』
『当然だよね』
そんな風な話し合いを経て、今の形に落ち着いていたのである。