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呉林が指差したところは、女子トイレの奥にぽっかりと開いた、普通はあるはずの無い窓だった。ここは地下だ。
「ここは地下のはずじゃ」
「でも、これがねじ曲がっているけど、現実なのよ」
私は呉林のどんなことにも物怖じしない冷静な人格に顔が火照りそうになる。こんな世界でもやっぱり頼りになる。
「この窓の向こうに行くしかないか」
私は照れ隠しに真面目な顔を意識して作った。
私は左手で打ちっ放しのコンクリートを触る。ヒンヤリとした感触は紛れもなく現実だった。
「待って、怪我の治療をしてから行きましょ。多分、それからでも遅くはないわ」
呉林の親友をも思う気持ち、そして冷静な判断には眩暈がするほどだが、
「いや、今すぐ行こう。大丈夫だ」
「無理よ! この先も危険よ。私の姉さんは応急処置ができるのよ。後、私も。大学で資格を持っているの」
呉林は私の肩に手を置いた。
私は頭を振って、
「そんなことをしても、絶対落ち着けないさ! 今はこの興奮と怒りが体を勝手に動かすのを黙って見ているしかない!」
私は呉林の手を振り払い。窓を潜る。
窓の向こうは、相変わらずの打ちっ放しのコンクリートで、延々と続く通路となっていた。50メートル間隔で、女子トイレと同じく木製のドアが左側に幾つもある。まるで、女子トイレの延長線だった。
「待って、赤羽さん」
呉林もやってきた。スーツのポケットから何かを取り出した。手には赤い色の手紙が握られていた。
「私も行くわ」
しばらくして、呉林は何かを決心したように言い放つ。
「あのね。赤羽さん。これ、姉さんからの手紙。これからあなたは信じられない事をするの」
「なんだそれ。俺が信じられないことって……?」
私は呉林から手紙を受け取った。
しかし、暗くて読めない。壁や床のコンクリートは外からの光をかなり遮断している。天井には蛍光灯もない。
「ここは。女子トイレの延長線のようよ。でも、照明は無いみたい。手紙は読めなくても、赤羽さんのお守りにしてね。きっと、役に立つわ」
呉林は私の疑問の眼差しをにっこり笑って無視した。この手紙の内容を知っていないようだが、例の不思議な直観でこれからの事を知っているようだった。
「これから、何が起きるんだ」
私は暗い通路の終わりが見えてきて、