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目が覚めた時、部屋はやけに静かだった。
Ifはぼんやりと天井を見上げ、次に自分の手の中にある温もりに気づいた。
横を見ると、まだ寝息を立てている初兎がいる。
白いシーツの中、柔らかく丸まった背中。
少し乱れた銀髪。まぶたの下の長いまつげ。
――夢じゃないんだな。
昨夜のキス、交わした言葉、優しい指先。
全部がまだ、身体のどこかに残っていた。
けれど、そのまま手を伸ばすのは怖かった。
「……起きてるでしょ。」
ふいに、初兎の声がした。目は閉じたまま。
「気配でわかるよ。お兄さん、寝相よさそうだし。」
「……名前、呼べよ。」
「え?」
「“お兄さん”じゃなくて、“まろちゃん”って。」
初兎は小さく笑った。
「…まろちゃん」
その一言に、心臓がまた少し跳ねた。
「……昨日のこと、後悔してる?」
「してない。でも――」
「でも?」
「……お前にとって、こういうの“よくあること”なんじゃないかって、考えた。」
「……」
初兎は少しだけ黙って、ゆっくり体を起こす。
寝起きの顔で、真面目な目をしてIfを見た。
「俺さ、たしかに嘘つきかもしれない。」
「……」
「でも昨日の夜、まろちゃんといたのは全部ほんとだよ。」
Ifは言葉を詰まらせる。
「でも、たぶん――まだ恋人には、なれないよね?」
「……そうだな。」
ふたりの距離は、また少しだけ開いた。
でも、それは“終わり”じゃなく、“保留”のような空気だった。
「だったらさ。」
初兎は小さく笑って、Ifの頬に軽くキスを落とした。
「“恋人未満”ってことで、俺に少しずつ甘えて?」
「……調子乗るな。」
「乗るわ。だって、まろちゃんの顔がちゃんと嬉しそう。」
顔を背けても、耳の先まで赤くなっているのを、初兎はちゃんと見抜いていた。