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平日の夜、Ifはまた『DICE』に足を運んでいた。
「今日も来てくれたんだ。」
いつものように初兎が笑顔で迎える。
でも今夜は、どこか落ち着かない様子だった。
「どうした?」
「……んー、なんでもない。」
その瞬間――背後から軽快な声が飛んできた。
「初兎さん、またあの人?最近あんたのテンション、だいぶ分かりやすいよ。」
振り返ると、そこには赤髪にポンパドールのクールな青年が立っていた。
キレのある目元、身なりもどこかスマートで、見るからに“売れっ子”の雰囲気。
「ああ……こいつ、うちの後輩。りうら。」
「どーも、はじめまして。りうらです。……で、あんたが“あの人”か。」
「“あの人”?」
「初兎さん、あんたの話ばっかしてるからさ。
『無理して笑う顔がたまんない』とか『本音で笑ったとこ一回見てみたい』とか。」
「おい、りうら!お前余計な――!」
「ふーん。」
Ifは、苦笑するように息をついた。
「俺の話、そんなにしてんのか。」
「いや……その……」
「意外とピュアじゃん、初兎さん。」
りうらはニヤッと笑って、Ifの隣にすっと座った。
「ねえ、今度俺にも指名くれない?先輩が嫉妬するとこ、ちょっと見たい。」
「お前な……!!」
「はは……面白いな、お前。」
初兎の顔が、あからさまにむくれている。
その様子が、なぜかIfには少し嬉しかった。
「じゃあ、今度気が向いたら。な?」
「うん、待ってる。」
そのやり取りに、初兎はついに立ち上がる。
「だーめ。まろちゃんは俺の客。譲らないから。」
「へえ、じゃあちゃんと“口だけ”じゃないとこ、見せないとね。」
初兎とりうらの間に、軽い火花が散る。
けれどその間に挟まれているIfは、なぜか居心地が悪くなかった。
――ああ、俺、少しずつこの夜に、ハマっていってるな。
そう思ったのは、たぶん初兎が、
自分のスマホをふいに掴んで、画面に自分の連絡先を入れたときだった。
「連絡先。もう、ちゃんと欲しいから。」
その声は、冗談じゃなかった。