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鷹槻れん

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#契約結婚
鷹槻れん

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「藤原さん、ここが、今日から貴方が働く公園緑地係です」
市役所五階。都市計画課の中にある、公園緑地係。そこが今日から私がお世話になる部署なのだ、と目の前の長身男性が言った。
彼は、一五八センチしかない私よりも、優に二十センチは高そうで……。
(なんて背の高いかたなのかしら!)
それが、私が彼に対して抱いた第一印象。
「僕はここで係長をしている塚田修太郎です。僕の他にもここにはあと二名いるんですが、彼らは今、市内の公園を回っていて不在です。お昼か……遅くとも夕方には戻ってくると思いますので、彼らのご紹介はその時にでも。――って聞いておられますか?」
次に感じたのが、(なんて心地よい声をした人なんでしょう!)ということで――。
ふと、幼い頃に読み聞かせをして下さったお兄さんのことを思い出してしまった私は、うっとりと眼前の彼の声に聞き惚れる。
「――おりさんっ? ……藤原、日織さんっ!?」
少し大きめな声で発せられた自分の名前にハッとして我に返ると、眼前の男性が妄想世界に飛んでしまっていた私の顔を、心底心配そうに見つめていた。
「ごっ、ごめんなさいっ」
また、やってしまった。
出勤初日からぼんやりしてしまうだなんて、お父様は勿論、私をここに入れるために尽力して下さった健二さんのお父様にも申し訳が立たない。
恥ずかしさに耳まで熱くなるのを感じながら謝罪すると、塚田さんがフッと微笑んだ。
「そんなに緊張しなくても大丈夫です。藤原さんのことは色々な方から伺っていますので、僕も一応予備知識は入れてあるつもりです。貴女をなるべく夢うつつにしないですむよう、僕も尽力しますので、藤原さんも一緒に頑張っていきましょうね」
塚田さん、年の頃は三十代前半くらいだろうか。
眼鏡の奥の優しい瞳に見つめられて、私は思わずドキドキしてしまった。
それを誤魔化すように一歩下がって彼から距離を取ると、
「が、頑張りますので! ご指導ご鞭撻のほどを宜しくお願いし、まっ……」
胸の高鳴りを悟られまいと一生懸命まくし立てたら、最後の最後に舌を噛んでしまった。
うー、どこまでも恥ずかしいっ。
強い羞恥心に、お辞儀の姿勢のまま動けなくなってしまった私に、不意に押し殺したような笑い声が降ってくる。
「……いや、失敬っ。藤原さんがあんまり可愛らしいものだから……つい」
未だ笑いを抑えきれないのか、時折言葉の端々に震えをにじませながら、塚田さんが言う。
男性から可愛らしい、なんて言われたことがなかった私は、うつむいたまま、思わずその言葉に肩をピクッと震わせて反応してしまった。
途端、ハッと息を呑む気配がして、
「あんまりにも話に聞いた通りの方だったので、ついうっかり可愛らしいとか言ってしまいました! いきなり不躾な言動をしてしまいましたね。……すみませんっ」
謝罪の言葉と同時に衣擦れの音がする。もしかして、頭を下げてくださってる……?
私が恐る恐る顔を上げると、思った通り、深々とお辞儀をした塚田さんがいらして、私は慌ててしまう。
「あ、ち、違いますっ。不躾だなんて思ってないですっ。あの……じ、実は、お恥ずかしい話、私、男性からそんなことを言われたの、初めてだったもので……その、何だか照れてしまいまして……」
彼の笑い声と、「ついうっかり」という言葉に救われたような気がしたところへ、「可愛らしい」の応酬。私は慣れないことの連続に、舞い上がってしまっただけなのだ。
取りつくろうように一気にそう言ったら、頬がほんわかと熱を持ったのが分かった。私はそれを隠すように、慌てて両頬に手を当てる。
そんな私の仕草を見た彼が、目を細めてとても優しく微笑んだ。途端、私は心臓を撃ち抜かれたように身動きが取れなくなってしまう。
(わわわっ。どうしましょう! 私、この人のことが好きになってしまったのです……!)
一目惚れ、というものがあることは物語で読んで知っていたけれど、まさか自分にそうなる日が来るだなんて、思いもしなかった。
でも……。
健二さんというものがある身で、それは決して許されない想い。
私は頭を二、三度軽く振ると、芽生えたばかりの恋心にそっとふたをした。
コメント
2件
一目惚れ༓٩(❛ั︎ᴗ❛ั︎ ๑)༊༅͙̥̇⁺೨*˚·
読了しました〜!第2話、めっちゃ良かったです🥀 塚田さんの声にうっとりしちゃう日織さんの感じ、可愛すぎます…!「何て心地よい声なんでしょう」って心の中で思っちゃうの、分かります。私もそういう声の人に出会ったことありますから。 最後の「恋心に蓋をした」ってところが切なくて、でもこれからどうなるんだろうってドキドキします。許嫁がいるのに恋しちゃう展開、好きです🌙