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都市計画課には日織たちがいる公園緑地係のほかに、管理係、まちづくり推進係、道路整備推進係、計画係があって、各々に係長と部下が数名ずつ配置されている。各係の係長の上に二名の課長補佐、その上に課長が、という構図だ。
日織のような臨時職員は、公園緑地係のほかには道路整備推進係に若い男性が配属されているのみだった。
(彼が同年代の女性だったら話しやすかったのに。残念なのです……)
塚田に連れられて、あちこちの係で挨拶を済ませながら、この課には自分のような臨職に同性が居ないと知って少しガッカリした日織だ。
「本来ならこういう案内は課長がするんだけどね、藤原さんのことは僕に一任されているから……ごめんね」
塚田が、課長へ日織を紹介した直後、何故か申し訳なさそうにそう言って頭を下げた。
(申し訳ないのは私のほうなのですっ)
それは、自分の父や許婚の健二の父親から、課長と塚田へじきじきに何らかの申し入れがあったということだと思った日織だ。
きっと、自分がそれだけ頼りないと思われている証拠に違いない、と気持ちが凹む。
「あの、私のほうこそ何だかすみません……」
ここに入れたのも日織の実力ではなく、いわゆるコネ入庁だ。父親はくわしくは言ってくれなかったけれど、恐らく議員をしている健二の父――神崎天馬――の力添えが大きかったに違いない。
(組織の中に入ってからも、人の手をわずらわせるような扱いしかされない私って本当情けないのですっ)
そう思いながらしゅん……として謝った日織に、塚田が「一旦席にもどりましょうか」と言って挨拶回りを中断する。
(まだ、計画係と管理係に行けていないのに……)
日織は自分の不甲斐なさが悔しくてたまらなかった。
自分たちの係の島に着くと、塚田は日織を自分の席のすぐ近くにある、綺麗に片付けられた机に導いた。
「ここが藤原さんのデスクです。自由に使ってくださいね」
周りのデスクには物が所狭しと積み上げられていて、天板がほとんど見えなかった。けれど、日織にあてがわれたデスクの上だけは何も載っていなくて。
キョロキョロと周りのデスクと見比べていたら、塚田が苦笑する。
「……突貫工事でそこだけ片付けたの、バレちゃいましたか?」
頭をかきながらへらりと照れくさそうに笑う塚田に、日織の心臓はドクンッと跳ね上がった。
(ダメ。これ以上好きになったら、後戻りできなくなってしまうのですっ)
不意に塚田が見せる無邪気な笑顔がまぶしくて、日織はたまらなく胸が苦しくなる。
日織は、落ち込んでいたことを忘れてしまうくらい塚田の笑顔に引き込まれている自分に気が付いて怖くなった。
日織は慌てて塚田の笑顔から視線をそらせると、「か、片付けていただいてどうも有難うございますっ。すごくすごく嬉しいのですっ!」と口早に言った。
それは、誰の目から見ても明らかに挙動不審で。
「……藤原さん?」
塚田に気遣わしげな視線を向けられてしまったのも無理はない。
でも、それがまたしんどくてたまらない日織だ。
「あのっ、カバンは……ひ、引き出しの中で構いませんか?」
胸の痛みを誤魔化すように、右手一番下の、少し大きめの引き出しを指差しながら問う。
「あぁ、僕は本当、駄目な上司ですね。貴女に荷物を持たせたまま挨拶回りをさせてしまっていたとか。――カバンは……もちろんそこでも構いませんが……女子更衣室のほうにロッカーもありますので……」
塚田はそこまで言って、まだ挨拶に行けていない管理係のほうへ視線を転じると、そこで一人黙々とデスクワークに勤しんでいる女性に声をかけた。
「中本さーん! 今、大丈夫ですか?」
その声に、すぐさま中本さんと呼ばれた女性が二人の方へやってくる。
年の頃は日織より七つ、八つ上くらいだろうか。今日都市計画課の中で出会ったどの女性陣よりも、彼女が一番日織の年齢に近い気がした。
「すみません、お忙しいのに」
塚田がそう前置きするのに対して
「大丈夫です。塚田さんの呼び出しならいつでも大歓迎です!」
言って、とても嬉しそうにニコッと笑う。
そんな中本の笑顔を見て日織は悟った。
――彼女も、塚田さんのことが好きに違いないのです、と。
「えっと、こちら。今日からうちの係に配属になった臨職の藤原日織さんです」
自分をとても優しい目で見つめながら紹介してくれた塚田に合わせて、日織は出来るだけ礼儀正しくお辞儀をした。
「藤原日織です。よろしくお願いします」
続いて、塚田が日織に中本を紹介しようとしたら、
「管理係の中本佳苗です、よろしく!」
彼の言葉を待たず、半ば強引に中本が自ら自己紹介を終えてしまった。そうして日織に向かってサッと手を差し出してくる。
日織が慌ててその手を取ると、思いのほか強くギュッと握られて、思わず痛さで顔をしかめそうになってしまった。でも、そんなことをするのは失礼だと思った日織は、一生懸命我慢した。
鷹槻れん

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コメント
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第3話、読み終わりました!管理係の中本さん、登場の仕方から存在感がすごくて、日織が一瞬で「彼女も塚田さんのことが好き」と悟る場面、ゾクッとしました。同じ相手を慕う者同士の緊張感、この先どう転ぶのか気になります。それにしても塚田さんの、日織のデスクだけ急ピッチで片付けたエピソード、あの照れ笑いズルいですね…。組織の空気感や日織のコンプレックスも丁寧で、没入しながら読めました。次話も楽しみにしています!