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第二十四話「残された人たち」
葬式の日。
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空は、やけに静かだった。
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高橋佳の名前が書かれた祭壇。
写真の中の佳は——
あまりにも、いつも通りに笑っていた。
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(……なんで)
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山本美憂は、その写真を見つめる。
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(なんでそんな顔してるの)
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まるで。
何もなかったみたいに。
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会場には、人が集まっていた。
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佳の両親。
そして、美憂の両親。
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親同士も顔見知りだから。
それだけに——
空気は、重かった。
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「……なんで」
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佳の母親の声。
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涙でぐちゃぐちゃになった顔。
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「なんで何も言ってくれなかったの……」
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震える声。
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佳の父親は、何も言わない。
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ただ、歯を食いしばっていた。
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拳が、白くなるほど握られている。
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その姿が——
何よりも、辛さを物語っていた。
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(……知らなかったんだ)
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美憂の胸が、締め付けられる。
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誰も知らなかった。
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病気のこと。
余命のこと。
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全部。
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(……最後まで、一人で)
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あの人は、抱えていた。
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視線をずらす。
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そこには——
学校の子たち。
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いつも、佳に話しかけていた女の子。
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「……っ、なんで……っ」
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崩れていた。
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「なんで何も言わないの……!」
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声を張り上げて、泣いている。
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「……っ、好きだったのに……!」
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その言葉に。
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周りが、静かになる。
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でも。
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誰も、否定しない。
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できない。
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それくらい——
真っ直ぐな感情だったから。
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その子は、泣き喚いていた。
止まらない。
止められない。
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それを見て——
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(……そっか)
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分かる。
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佳は。
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みんなに、好かれていた。
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あの人の優しさは。
ちゃんと、届いていた。
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でも。
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(……それでも)
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誰にも言わなかった。
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誰にも頼らなかった。
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それが——
あの人の選んだ生き方。
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少し離れた場所。
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そこにいたのは——
佳の妹。
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小さく見える体。
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でも。
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「……お兄ちゃん……っ」
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その声は、壊れていた。
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「……やだよ……」
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泣き崩れている。
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もう、見ていられないくらい。
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体を折り曲げて。
声を張り裂けるようにして。
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必死に、呼んでいる。
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「……帰ってきてよ……!」
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その一言が——
胸に刺さる。
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(……家族)
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一番近くにいた人たち。
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それでも。
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何も知らなかった。
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何もできなかった。
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その事実が——
何よりも残酷だった。
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美憂は、ただ立っていた。
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涙は、出ている。
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でも。
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もう、声は出ない。
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あの日、全部出し切ったみたいに。
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(……佳)
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心の中で、呼ぶ。
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(……ほんとに、バカだよ)
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少しだけ、笑う。
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でもすぐに、崩れる。
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(……一人で全部抱えてさ)
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視線を上げる。
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写真の中の佳。
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優しく笑っている。
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(……そんなの)
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小さく、呟く。
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(……ずるいよ)
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その言葉は——
誰にも届かず。
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ただ、静かに消えていった。
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