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#溺愛
星キラリ

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月詠 涼
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鷹槻れん

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休日だったこの日、私は自宅で仕事の資料に目を通し、ノートパソコンの画面を睨みつけていた。
画面に映る数字に目を落としながら、頭に浮かぶのは会社のことばかりだ。
特に――社長の顔。
とはいえ、直接話す機会なんてほとんどない。
雲の上の存在で、同じ会社に勤めているとは思えないほど遠い人だ。
だからこそ、仕事で関わるときは毎回必要以上に緊張してしまう。
憧れの存在ではあるけれど。
ほんの少しでも距離が近づいたら、それだけで動揺してしまうような相手で――。
当然ながら、自分と関係が近くなるなんて、考えたことすらない。
時計に目をやると、時刻はすでに十四時を過ぎていた。家から一歩も出ず、気がつくとこんな時間になっている。
三月に入ってから気温がぐっと上がって暖かくなった。今は春本番といった気候だ。
それにもかかわらず休みの日にずっと家にこもっている自分がすごく不健康に思えてくる。
どこかに出かければよかったと悔いていたら、しとしととした雨が降っているのが窓から見えた。先ほどまであんなに晴れていたのに……。
ふらりと散歩にでも出ていたら、危うく濡れて帰ってくるところだった。
私の名は香椎冴実。
年齢は二十五歳で、大学卒業後にアウトドアブランドを手掛ける株式会社ジニアールに就職し、商品部に配属された。
設立してからの創業年数は短い会社だが、国内に次々と実店舗を出店していて、幸いどこも順調に売上を伸ばしている。
成功している理由は経営戦略が緻密で優秀だからだそうだ。
「うぅ……喉が渇いた」
集中しすぎていて、いつの間にかグラスの中のお茶が空っぽになっていることに今気が付いた。
椅子から立ち上がってグイッと背伸びをする。すでに首も肩も凝り固まってガチガチになっていた。
中身の入っていないグラスを手に自室の扉を開け、トントントンと軽快な足取りで階段を下りて一階のキッチンへ向かう。
「冴実」
冷蔵庫にある冷えたお茶をグラスに注いでいる最中、背後から母が声をかけてきた。
母は近くのスーパーでパート勤めをしているが、今日は午後から休みだったらしい。
「ずっと部屋に閉じこもっているなんて信じられない」
私の姿を目にするなり母は反射的に顔をしかめたけれど、自宅で上下セットアップの部屋着を着ていてなにがいけないのかわからない。
下はワイドパンツ型になっているし、爽やかなミント色で、私のお気に入りなのに。
「髪も適当にまとめただけだし……誰にも見せられない姿ね」
「そんなに酷い?」
「冴実は目もくりっとしているし、きちんとしていたら美人なんだからもったいない」
髪に関してはセミロングの黒髪をひとつにまとめ、落ちてこないように大きめのバナナクリップで止めているだけなので、母の指摘通りかもしれない。
自分の手で触れてたしかめてみると、いつの間にかサイドの髪が乱れてボサボサになっている。
「仕事をしていたの?」
「ううん。いろいろ勉強してただけ」
「商品部ってそんなに大変? 休みの日は休みなさいよ。デートするとか」
デートは相手がいないとできないよ、と心の中で反論した。
そう言われてみると、私は最後にデートをしてから何年経っただろう。元カレと別れてからだから……もう三年が経過した。それ以降恋愛からは遠ざかっているけれど、今のところ寂しさはない。
最初は社会人として働くことで失恋の痛手を忘れようとしていた。でも今は強がりではなくて、仕事が大事だし楽しいと思えている。
「おじいちゃんは?」
リビングのほうに目をやってキョロキョロと見回したけれど、祖父の姿が見当たらない。
父が病気で亡くなったのは私が十三歳のときで、それ以降は私と母と母方の祖父の三人で暮らしている。なので我が家では祖父が父親代わりだ。
「囲碁を打ちに行ったわ」
「そう」
昔から祖父は囲碁打ちが好きで、碁会所には同世代の仲間がたくさんいるらしく、とても楽しそうに交流している。
年齢を重ねても熱中できることがあるというのは素晴らしいし、うらやましい。
キッチンで立ったままお茶を飲みつつ母と話していたら、部屋着のポケットに入れていたスマホが着信を告げた。
誰からなのかと画面を見ると、かけてきたのは祖父だったので、私は通話ボタンを押して「もしもし」と電話に出た。
『冴実、今家にいるか?』
「いるよ。どうしたの?」
『うっかり傘を忘れて出たんだ。悪いけど持ってきてくれないか?』
私はフッとあきれた笑い声を漏らしつつ、「わかった」と短く返事をして電話を切った。
祖父が通っている碁会所までは何度か訪れたことがあるし、家から歩いて行ける距離なので、私としても外に出る良いきっかけができた。
コメント
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わ〜第二章!冴実さんの日常、すごく丁寧に描かれててめっちゃ引き込まれたよ〜🌸 仕事に没頭しすぎて髪ボサボサで休日も部屋にこもっちゃう感じ、わかるなあ…笑 でもお母さんに「デートは?」って言われて心の中で「相手がいないとできないよ」って返すとこ、ちょっとクスッときた😂 祖父との電話で外に出るきっかけができる流れも自然で、このあとどうなるのか気になる…!! 次のエピソードも楽しみにしてるよ⋆♡