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「怪しい」


バーレントは、ヴィルヘイムとヴィオラを見てそう呟いた。


「何が怪しいんですか」


その隣でフランが答える。


「あの2人だ。なんだ、あの甘々な空気は。最近は、ずっとあんな風にイチャイチャして……ま、まさか⁉︎そういう仲なのか⁉︎」


自分で言って、自分で驚くバーレントにフランは呆れ顔になった。こういう莫迦丸出しの人間だけは、絶対にならないと心に誓った。


「そういう仲とは、どういう仲なんですか」


どんな反応をするか興味があったフランは、知らないふりをして聞いてみた。


「は⁉︎そ、それはだな……いや、あれだ、そう、あれだ‼︎」


それとか、あれとか、何も伝わる訳がない。


「お、お、お子さまの、お、お、お前には、まだ早い‼︎」


顔を真っ赤にして、話すバーレント。

意外とウブな人なんだなと、フランは心の中で笑った。まあフランがまだ年端もいかない子供だから、言いづらいのかも知れないが。


「はい、はい。僕は、お子さまなので、何も分かりませんよ。それにヴィルヘイム様が、ヴィオラ様をお手付きにしているかなんて、僕らには分かりませんから。婚約者や伴侶でもない、女性に手をつけたとなると色々と面倒なことになりますからね。自ら打ち明ける訳もありませんし。まあ、噂にはなってますけどね」


フランは、バーレントより中身は大人だった……。


今社交界ではこの話で持ちきりらしい。噂には尾ひれ背びれは付き物だ。既に婚約している、から、子が出来た、まで様々な噂が飛び交っている。でも、もしそれらが本当なら、テオドールはどう思うのだろうか……。


テオドールの事は余り好かないが、少し気の毒に感じる。わざわざ、他国まで彼女を心配して助けに(下心あり)行ったというのに……兄にとられたなどと、笑えない。


ヴィルヘイムもヴィルヘイムだ。あんなに、可愛がっている弟の想い人に手を出すなんて。


「テオドール様が、気の毒です……」


「……まだ、分からないだろうが」


「先程、バーレント様だっておっしゃってましたよね?あの2人の雰囲気が、怪しいって」


フランは、仲睦まじく話しているヴィオラとヴィルヘイムをみて、ため息を吐いた。


「何事もないといいですが」






それから、更にひと月が経った。


「お帰りなさいませ、テオドール様。お戻りになるなら連絡くらい下さい」


ある日突然、テオドールが城へと帰還した。

美男子と美女を伴って。


「色々あって……忘れていたよ」


「そうですか。それでテオドール様。背後のお二人方は……」


美男美女の客人であろう2人からは、異様な空気を感じる。時に男からは……フランは思わず後ずさる。


「……なんだろうね。僕にも分からないよ」


「はい?」


明らかにテオドールが連れていたであろう2人を、テオドールは分からないという。心なしか、げっそりとしてかなり疲労しているように見えるが。

そんなテオドールをよそに、客人らは口を開いた。


「テオドール殿下の、友人のレナードです」


「テオドール殿下の、婚約者候補のアドラです」


満面の笑みを浮かべる自称友人と自称婚約者候補らしいが、テオドールは小声でそれを否定していた。


「テオドール様、ヴィオラ様なんですが」


ヴィオラと聞いた瞬間、テオドールはハッとなり顔に生気が戻る。


「無論直ぐに会いに……」


だが、何かを思い出したように言葉を止めると、背後にいる自称友人のレナードを見た。


「いや、後にするよ。先に兄上に報告に」


「テオドール様‼︎」


フランは言葉を遮る様に、被せた。


「フラン?」


「長旅で、お疲れですよね!ね?」


よく考えたら、今は執務中だ。ヴィルヘイムは勿論のこと、ヴィオラも一緒にいる。仲睦まじく、仕事をする姿を目の当たりにしたら……。


「いや、別に僕は大丈夫だけど」


取り敢えず別の場所に誘導してから考えよう。

そもそも、何故帰還前に連絡の1つもよこさないのか……。こっちにも、色々準備があるというのに。


大体、何故僕がテオドール様の為に頭を悩ませなければいけないのか。


「いいえ‼︎先ずは、お茶でも飲みましょう‼︎」


フランはテオドール達を、中庭へと誘導した。











深窓の令嬢は、王太子殿下に持ち運ばれる

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