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「早瀬。今日昼どうする?」
「今日あんま時間ないし食堂で済ますか」
同僚の高杉と一緒にその日の昼飯に会社の食堂へ向かう。
普段は高杉と一緒に会社の外に食べに行くことが多いけど、今日は昼からの仕事が詰まっていて時間がなさそうなので食堂を選択。
「いいの?また女子たちお前行ったら騒いで落ち着かないんじゃね?」
「あぁ。そういえばそうだっけ」
前に食堂に行った時、女子社員が声かけて来たりざわついてるの見て面倒になってしばらく行くのやめた。
オレは最初の頃、営業部にいたせいもあって、自分で言うのもなんだけど愛想も外面も悪くない。
例え面倒な相手でも適当な笑顔や言葉を浮かべてその場をやりこなす。
入社当初は、チヤホヤされる状況も気分良かったし、ひっきりなしに女子社員と仲良く出来る状況も楽しかったけど。
でも、彼女を好きになってからは、当然そういうのは面倒になってきて。
彼女以外を相手にしているだけで虚しくなってきた日々。
彼女以外はこんな簡単に喋れるのに、一番それを望む相手はオレの存在も知らない。
それからは無意味に勘違いされるのも嫌で、会社ではそういうことをするのもやめた。
まぁそういうノリでいた自分が悪いんだけど。
でも本気の恋を知った今となってはそんな自分を後悔。
そして食堂で席を探す為に様子を見ていると。
「早瀬くん♪」
「早瀬くん、ここ空いてるよ」
ここぞとばかりに声をかけられる。
「早瀬、やっぱお前すげーなー」
「適当に騒いでるだけだろ」
だからと言って本気で騒いでるのかどうかもわからない。
だけど、結局こんな感じが居心地悪かったのも思い出した。
やっぱ外のが気が楽だったか。
と、思っていたら遠くの方に彼女の姿を見つける。
そっか、同じ会社だからここにも来てたってことか。
面倒で食堂に足を運んでなかっただけに、そんな簡単に会える機会に気付けてなかった。
なるほど。もし食堂にもう少し来てたらこうやって彼女にも会えた機会多かったのかも。
今更ながらその時間に無意味に悔しがってしまう。
こうやってこんなに遠くにいても彼女の姿はすぐわかる。
オレにとっては今はもう彼女しか目に入らなくて。
実際こうやって食堂にいる女子社員と比べても彼女は格別で。
雰囲気もスタイルもビジュアルもオーラも、さすが社内で高嶺の花と言われてるだけある。
オレが入社してから、すでにその噂は耳に入るくらいで。
だからこそオレは彼女に釣り合う男になりたかった。
そう。きっと、年齢を気にしてた彼女よりも、きっとオレの方がホントは意識している。
そんなに年下なら元々相手にされないんだろうなとか、オレより当然相応しい似合うヤツが実際いるんだろうなとか。
でも。オレはそんなのだけでオレを判断してほしくなくて。
彼女を好きな気持ちは誰にも負けないのに。
だから彼女に相応しい男になってそんなの関係なく彼女の隣に立ちたい。
今はまだ彼女を幸せにしたいなんて、そんな厚かましいことは言えないから。
まだ自分が納得する自信も、彼女の気持ちでさえも、何も手に入れられていない。
きっとまだ彼女はオレに対して少し抵抗してる部分もあるだろうし、まだオレをちゃんと信じて受け入れてくれてないのもわかるから。
オレの本気の気持ちでさえ、きっと彼女には軽く思われているはず。
少しずつ近づいてくる彼女から目が離せないくせに、まだそんな状態のまま声をかける勇気は出なくて。
いざ、すれ違う瞬間。
オレはなぜか彼女から目を逸らしてしまった。
きっとここで余裕があれば適当に挨拶でもすればよかったのかもしれないけど。
結局オレは彼女に憧れすぎて、ホントの自分は彼女の反応に敏感になってる自分もいるし、真剣なだけにここで軽く挨拶することも出来やしない。
二人でいる場所でしか声をかけることしか出来ないオレは卑怯だよな。
だけど、彼女といる時のオレは、ただ彼女を振り向かせたくて必死なだけ。
想いを抑えるのに必死なだけ。
それだけもうオレは彼女でいっぱいなのに。
それから午後は会社で一仕事してから、その後は仕事の取引先との打ち合わせで外回り。
元々営業部にいたおかげで、取引先との交渉や打ち合わせは直接自分が足を運んで進めることが多い。
営業部がやる仕事をオレがその分も進められることで、今の部署でも功績を残せている。
その打ち合わせが終わった今はもうすでに定時も回っている時間。
直帰してもよかったけど、会社で確認したいことがあって会社へ戻ることに。
その戻る途中で、なんとなく昼間の彼女の様子がふと気にかかる。
なんとなくあのまま声をかけられないことに引っ掛かって。
会社に戻っても確認だけだから時間はまだあるし、また行った道を方向転換して、逆方向の修さんの店へと向かう。
もしかしたら、彼女がいるかもしれないと少し淡い期待を持ちながら。
昼の食堂では、声さえかけられなかったくせに、オレって調子いいよな。
あの店でなら、なんかオレも彼女もお互い知り合いの店のせいだからか、少し気が緩んでいるというか、なんかそういういつもと違う雰囲気になれて話せるような、そんな気がするから。