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「シルヴィエ様がいらっしゃったぞ!」
「どうか毒の神のお力で、子供たちを助けてください!」
村の大人たちが集まり、すがる思いで、何度も私に頭を下げる。
状況は変わらず、子供たちの状態はよくないらしい。
「今、調べてみます!」
倒れた子供たちは昼食中だったらしく、テーブルの上にはパンとスープ、果物などが並んでいる。
吐き気、めまい、痺れなどが見られる――伝染性の病気であれば、私が駆けつける前に、もっと人数が増えていて見よさそうだけど、今のところ倒れたのは、食事をした子供たちだけらしい。
これは食事が原因だとわかった。
「食べていたものはこれだけですか?」
「そうです!」
急いで、テーブルの上にあったパンやスープを口にする。
「シルヴィエ様、こちらは、子供たちが口をつけた食べかけの食事です! おやめください!」
「口にしなければ、わかりませんから」
止める村人たちを無視して、子供たちが食べたものを口にしていく。
スープの中の具をひとつずつ口にし、どれが原因なのか探る。
汁、肉、野菜――そして、キノコ。
――これです!
それも、複数のキノコが使われており、その中のひとつだった。
食べられるキノコに似ていたため、間違えたのだと思う。
「毒キノコが混じっています。原因はこれでしょう」
水の廟がある周辺では、湿りけの多い森が広がっている。
このあたりは、美味しいキノコが多く採れることで有名だと、教えてもらった。
キノコ料理を楽しみにしていたけれど、まさかこんな事件が起きるとは思っても見なかった。
「実は子供たちがキノコ狩りへ行ってきたんです。確認したつもりだったのですが……」
「いや、見た目が似ているキノコもある。今日は数も多かったからな」
キノコを調べ、食べられるキノコに選り分けたと思っていた大人たちが、責任を感じ、深く落ち込んだ。
「間違えることもあります。解毒薬を飲めば、すぐによくなりますから、安心してください」
「シルヴィエ様、ありがとうございます」
「よかった! 私の子供が助かるのね!」
解毒薬はたくさんもらった。
けど――
「キノコの毒に効く解毒薬は……」
毒の成分がわかっても、他国の薬で、どれがキノコの毒に効く解毒薬なのかわからない。
テーブルに並べた解毒薬を眺め、焦っていると、ヴァルトルが薬の前に立ち、くちばしで薬が入った袋をひとつ叩く。
飲ませるべきなのは、炭の色をした薬であることを教えてくれた。
「アレシュ様、ありがとうございます」
教えてくれたのは、アレシュ様だとわかった。
ヴァルトルの瞳を通じ、こちらを見る『目』の能力を使い、こちらを見守っている。
選んでもらった薬を村人たちに渡し、苦しむ子供たちに飲ませていく。
顔色がよくなり、呼吸も正常に戻った。
「水の廟に戻ったら、治癒師と薬草師の方をお呼びするようお願いして、治療にあたってもらいますね」
小さな村に治癒師と薬草師は、時々立ち寄るくらいで、大きな町に行かなくては診てもらえない。
しばらく様子を見てもらった方が安心だと思った。
「シルヴィエ様。ありがとうございます」
「毒の神に感謝を」
この国では、毒の神でさえ、信仰の対象で敬われる。
私の嫌悪され続けてきた力が、初めて人の役に立ち、感謝された瞬間だった。
「シルヴィエ様……?」
それが嬉しくて、涙がこぼれた。
この国で、私が|孤独《ひとり》になることはない――自分のやるべきことが、はっきりとわかった気がした。
「私のほうこそ、ありがとうございます」
村人たちへお礼を言った瞬間、村人の一人が、私のすぐそばのテーブルを指さし、声を上げた。
「あれは毒の神のお姿では……?」
「本当だ!」
テーブルの上に、小さな銀色の蛇がいて、私を見つめている。
なにをするのかと思ったら、皿の中にある毒キノコを集め、それをパクッと食べてしまった。
――食事ですか!?
美味しかったのか、満足そうに左右に揺れている。
「あの……。もしかして、毒の神様でいらっしゃいますか?」
銀の蛇は黙ったままで喋らず、口が利けないのはヴァルトルと同じのようで、私の問いかけに小さくうなずき、返事をした。
「いつも私を守ってくださり、感謝しております」
私がお礼を口にすると、銀の蛇は姿を消した。
村人たちが大喜びで語る。
「我が村に、毒の神が降臨したぞ!」
「毒の神は神々の中でも気難しく、気まぐれと言われております。人前に姿を現すのも珍しいのです」
「貴重な姿を目にしてしまった!」
「今日を毒の神様が、村に降臨した記念日にしよう!」
――姿を見ただけで、そんな大事に!?
驚いたけれど、村人たちは大興奮で、お祭り状態。
そんな中、年老いた老人と大人たちの中でも落ち着いた雰囲気の集団が、私の前に現れた。
「ドルトルージェ王国王太子妃殿下にして、尊きお方。村の子供たちを助けてくださったこと感謝いたします」
村長と思われる人が、私の前に跪き、お礼を述べた。
それに倣って、他の大人たちや子供たちも同様に跪く。
「あ、あの……?」
戸惑っている私に、全員が優しい目を向けた。
「王太子妃シルヴィエ様。あなたこそ、アレシュ様の妃にふさわしい」
「勇気と慈愛に満ちた行動でした。このことは永久に語り継がれ、忘れられることはないでしょう」
「今後なにかあれば、我々、ドルトルージェ王国の国民がお守りいたします」
村人たちの尊敬を得て、私はようやく王太子妃として、前に進めた気がした。
――私はドルトルージェ王国の王太子妃になれたのですね。
「私もこの日を死ぬまで、永久に忘れないでしょう」
ドルトルージェ王家の一員として、認められた日を――